子ネコのゴマとネコ耳少女〜もう1つの、優しい異世界へ〜

戸田 猫丸

第1話〜謎の猫耳少女〜


「おい、どこだここ? ルナ、知ってるか?」

「……僕に聞かれても。見たこともない景色だね」


 ボクは、ネコのゴマだ。ボクはただのネコ——じゃねえな。ちょっと前に〝暁闇の勇者・ゴマ〟に転身し、悪の組織と戦ったコトがあるんだ。剣も魔法も使えるネコなんだぜ。すげえだろ?


 だがその戦いも終わり、ボクはさっきまでボクを世話してくれてるアイミ姉ちゃんの家でくつろいでたはずなんだが——。ボクと同じ黒ブチ模様の弟分ルナと一緒に、どういう訳か全然知らねえ世界にいたんだ。

 どこまでも広がる緑の平原。遠くには、城のような建物が見える。


「とりあえず、探検するか! 行くぞ、ルナ!」

「……何か楽しそうだね、兄ちゃん」


 道路はアスファルトじゃなく土が剥き出しの砂利道だし、車なんか走ってねえ。緑の草原が、風を受けてざわめいている。明らかに、ボクらが住んでいる所じゃあ無え。

 ボクは気にせず、道沿いに歩くことにした。むしろワクワクしてる。知らねえ世界を冒険するのは好きだからな。

 久しぶりに、ルナと一緒に大冒険が出来るんだ。


 鼻歌混じりに、道を進もうとしたその時——。


「グガオオオオォォォンーー!」


 背後から獣の声がしたんだ。

 振り向くと、そこにはボクの何倍ものデカさのオオカミの姿。今にも飛びかかろうと構えてやがる。

 周りを見ると、10匹ほどの同じような黒色の体毛のオオカミどもが、すでにボクらを取り囲んでやがったんだ。


「に、兄ちゃん! わああ……」


 ルナが震えながら、ボクにしがみつく。このままじゃボクらは、オオカミどものエサだ。

 ——しゃあねえな。

 久しぶりだが、いっちょ——やってやるか!


「聖なる星の……あれ? 何だっけ!」


 ボクは〝暁闇の勇者・ゴマ〟に転身しようとした。が、久しぶり過ぎて転身のセリフが……思い出せねえ!


「兄ちゃあああん!」

「グガオオオオォォォン‼︎」


 オオカミどもが、一斉に飛びかかってきた!

 ——まずいっ!


「……ルナ、ボクに掴まれ!」


 ボクはルナを背中に乗せ、足を踏ん張り、全力で駆け出した。

 行手を阻もうとするオオカミの足の隙間をくぐり、イチかバチか、逃走を試みた。

 ——その時だった。


 突然、何者かに両脇腹を触られたと思うと、地面が離れていく。

 直後、真後ろからニンゲンの女の高い声で、こう聞こえた。


「ガウガウ!」


 ボクは気持ちを落ち着けると、背中にしがみついてるルナごと、ボクらはニンゲンの女の子に持ち上げられているコトに気づいた。

 ニンゲンの女の子は相変わらず「ガウガウ」と声を出し続けている。


「……ガウガウ」

「ガウガウ……ガウガウ」


 オオカミどもが、ニンゲンの女の子に返事をするように鳴き始めた。——すると。

 ボクを襲ったオオカミの群れは尻尾を振り始め、こぞってUターンして帰って行くじゃねえか。


 ボクは振り向き、ボクらを抱き抱えているニンゲンの女の顔を見た。


 サラサラとした青みがかったロングヘアー。頭には何と、ネコの耳が生えている。視線を下にやると、オレンジ色のTシャツはそこそこのデカさの胸に引っ張られ、そのせいでヘソが見えている。その下は紺色のミニスカートを身につけていたが、腰の方からはネコのような尻尾がピョコピョコと動いていた。


 ネコなのかニンゲンなのか分からねえ少女は、ボクをじっと見てニコッと笑った。


「……良かったぁ。猫ちゃんたち、危なかったね」

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