なりたい先生
さっき、管野先生に言われて気づいていた。
私は、
執着心なのだろうか?
救う事など出来ないくせに、私は教師になった。
好きでもない音楽の教師になって、何を必死に教えているのだろうか?
所詮、母親に敷かれたレールの上から降りれないだけではないのか?
「
「あっ、ごめん。」
私は、火を弱めた。
「ねぇ?何考えていた?」
素麺を湯がく私に
「母の事かな」
「あー。早く結婚して欲しいって会う度言ってるもんね。弟君は、もうすぐ結婚だしね。」
「そうね」
3つ下の弟は、もうすぐ結婚をする。
何の重圧も背負うことなく、自由に生きてきていた。
「
後ろから抱き締められた。
私は、素麺をザルにあげる。
早く言わなければと思う程に、もどかしかった。
いつものように、食事をし。
いつものように、過ごす。
生徒には、ご立派な事を唱えている癖に、家では彼氏とイチャついている。
そんな自分を時々、馬鹿げた存在に思えてくるのは何故だろうか?
夏休みがあけて、小花さんは透明人間になっていた。
「お」
声をかけようとすると、
見つかる度に、舌打ちをされたり咳払いをされるのだ。
やはり、この学校のルールは無視出来なかった。
私のクラスの坂口君が、小花さんに必死に話しかけに行ってるのを見て、私は安心していた。
「小野田先生、少しよろしいですか?」
「はい」
教頭に呼び出された。
「
「はい」
「何かあれば、保険に入っているんですから、弁護士さんに任せればいいんですよ。わかりますか?」
「はい」
「貴女一人が、ルールを破ると足並みが揃わないんです。わかりますか?」
「はい、申し訳ありません。」
「これ以上、問題を起こされたら困りますよ。わかりましたか?」
「はい、わかりました。」
私は、教頭先生に頭を下げて出た。
はぁー。
私は、きっとダメな教師なのだ。
「ため息ですか?」
「管野先生」
「小野田先生、彼氏とうまくいかれてないのですか?」
「ふ、ふざけないで下さい。」
私は、管野先生に怒ってスタスタと歩いていく。
管野先生を苦手な理由を、私は知っていた。
同じ匂いがする。
どうやら、私は、同じ境遇の人間を察知する能力をもっているらしい。
「小野田先生、おはようございます。」
「坂口君、おはよう」
「あの、小野田先生。これにつけれる布はありませんか?」
ツギハギだらけの、ジャージを持っていた。
「あるわよ。こっちにきて」
私は、家庭科の教室に坂口君を連れてきた。
「これこれ、前の生徒がね。ジャージを改造して何かを作ってたのよ。」
「凄いです。これなら、ちゃんと直せます。」
坂口君は、キラキラした笑顔を見せる。
本当に、坂口君は小花さんが好きなんだね。
「それは、好きな人のジャージ?」
「えっ、あっ、いや、そんな。」
「照れなくていいのよ。」
「そうです。ずっと好きです。いや、愛してます。一生一緒にいたいです。」
「アハハ、凄いね。そんな風に思ってもらえる人は、幸せね。」
「いえ、違います。彼女には、好きな人がいますから…。」
「好きな人?」
「はい、彼には、僕は、何もかも敵わないんです。でもね、小野田先生。僕は、誰かの代用品で構わないんですよ。それでも、彼女の世界に入れるなら」
今にも消えそうな笑顔で笑った坂口君を抱き締めてあげたくなってしまった。
まるで、私のようだった。
「うっ、んっ」
咳払いが聞こえて顔をあげた。
「小野田先生、ありがとう」
「うん、頑張って」
「はい」
坂口君は、その声に教室を出ていった。
「また、正義感ですか?小野田先生」
国語教師の
「別に、そんなんじゃありません。私のクラスの生徒と何を話そうが羽尾先生には関係ありません。」
「そうですね」
不気味な笑みを浮かべて笑った。
私は、羽尾先生を無視して教室を出た。
前の学校に戻りたかった。
ここにきて、5年。
私は、なりたい先生にはなれていない。
きっと、私は管野先生が羨ましいのだと思う。
私のモヤモヤとは、裏腹に季節はどんどん過ぎていった。
中学二年生の担任としての最後の授業を終えた。
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