意地悪な君

次の朝は、よくわからないシリアルが混ざったものが牛乳にヒタヒタにされていた。


「それ、お姉ちゃんがあんたにくれたのよ。よかったわね」


母は、朝から酒臭く。


ニタニタ笑っていた。


よかったのか?


私は、よくわからないものを食べた。


とにかくシリアルなのは、わかる。


ただ、口の中で色んな味が混じって気持ち悪かった。


「ごちそうさまでした」


味わうのをやめて、無理やり流し込んだ。


私は、学校に向かう。


どうにも、口の中が気持ち悪い。


お小遣いなんてものは、姉しかもらっていない。


私は、行き道の自販機の下を探す。


たまに、500円玉が落ちているのだ。


「何してんの?貧乏人」


振り返えると、花村紫音はなむらしおんが立っていた。


「別に…」


「おごってやろうか?」


「いらない」


「おごってやるって、俺が言ってんだから感謝しろよ」


腕を強く掴まれた。


「痛いから」


「ほら、どれか選べよ」


自販機に無理やり連れてこられた。


甘味があれば消えるのか?


昔、炭酸を飲めば消えるとテレビで言っていたのを思い出した。


ならば、これか…


「コーラ飲みたかったんだな」


花村君は、私にコーラを差し出した。


「ありがとう」


渡してくれない。


「何?意地悪したいわけ?」


「キスしたら、渡してやるよ」


「はあ?」


「金ないなら、体で払え。ほらよ。」


気持ち悪いのを消し去りたかった。


チュッ…


「そっちじゃねーだろ?」


「いや」


私は、花村君を押した。


「まあ、いいわ。ジュースだけだから、ここで許しといてやるわ」


頬っぺたをさわりながら私にコーラを渡してきた。


「また、おごってやるから」


欲しかった玩具を見つけた子供のような目をしていた。


私に意地悪をすると、花村君のキラキラが復活するのがわかった。


「いいよ」


「あぁ?」


プシュとコーラを開けると噴水のように湧き出した。


「お前、バカじゃねーの」


ケラケラ笑って、ハンカチをくれた。


やっぱり、キラキラが見える。


「自分で拭けよ」


「ありがとう」


私は、ハンカチを借りた。


缶の中で、半分になったコーラをいっきに飲み干して、ゴミ箱に捨てた。


「ゲッ」


恥ずかしくて、死にそうだった。


「それ、自然現象。気にすんな」


花村君は、歩き出した。


「で、さっきのいいよって何?」


「君の羽根が、戻るなら…いくらでも、私に意地悪してくれて構わない。」


「はあ?それ、本気で言ってんの?」


「言ってる」


「ふざけてんのか?」


胸ぐらを掴まれた。


「お前、カッターシャツ。ツギハギだらけじゃん」


「別に、君には関係ないよ」


見えない場所に、ツギハギを戻した。


「じゃあね」


通りすぎる腕を掴まれた。


「なに?」


「何でもするんだよな?」


「うん」


「面白い、じゃあ何でもしてもらうから」


花村君は、ニコニコ笑った。


「紫音、おはよー」


その声に、私は花村君の腕を振り払った。


「おはよ」


「相変わらず、綺麗な目だね」


花村君の頬に手を当てるのは、紺野愛梨さんだった。


学年の美男美女カップルだ。


ドンッ


通りすがる時に、わざと体をぶつけられた。


「あー。ごめん。電柱かと思った」


私は、その場に転けた。


「あっ、お前」


「行こう。紫音」


花村君は、何かを言おうとしたけれど紺野さんに連れていかれた。


イタタタタ。


私は、立ち上がった。


「小花さん、大丈夫?」


この学校で、唯一私に話しかけてくるのは生徒会長の坂口斗真さかぐちとうまだけだった。


「大丈夫だから」


「でも、血が凄いから。保健室行こう」


「っつ」


大丈夫だと言った癖に、歩けそうになかった。




「僕にもたれていいから」


坂口君は、女子から人気があった。


花村君は不動の一位だけど、坂口君は、三年生になって二位をキープし続けていた。


「君は、変わり者だね」


私に、肩を貸す。坂口君に、話しかけた。


「そう?」


「だって、私みたいな嫌われていじめを通り越して、存在感がない私に関わっているのだから…」


私は、中1の頃は酷くいじめられていたけれど、中2の夏休みがあけたあたりから、存在しないものとして扱われた。


私がずっと気にせずにいれたのは、坂口君が、傍に居たからかもしれない。


「僕は、小花さんは凄いと思うよ。」


「凄い?」


「うん。だって、群れでしか生きれないこの檻の中で、小花さんはいつだって一人で、いつだって楽しそうだから」


そう言って、笑ってくれた。


「君が、中1の時から私を支えてくれていたんだよ。このカッターシャツ覚えてる?」


私は、見えない所に隠したツギハギを見せた。


「まだ、着てくれてたんだね。嬉しいよ」


坂口君は、そう言って笑った。


保健室に連れてきてくれた。


「先生いないみたい。呼んでくるよ」


「うん、ありがとう」


私は、保健室の椅子にもたれていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る