奇談 ソオドサマ

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ソオドサマ

 今から話す話は間に受けなくてもいい。

信じられないだろうし、もしかしたら訳が分からないかもしれない。だけど、もし聴きながら、見ながら、心身に異常があれば直ぐにやめてもらっていい。俺自身もどうなるか分からないので先に言っておいた。もちろん怖がらせたいなどとは思わないし、ただの警告だ。

 それで本題だが、俺の地元は熊本で、岩野神社という所があった。

 4年ほど前に帰省した時にいつも遊んでいたので懐かしく思い、親に尋ねた。「岩野神社ってどっちだっけ?」するとさっきまで笑っていた親の顔が強張り、「いや、向こうの山の方に行けばあるけど行かない方がいい…どうしても行きたいと言うなら護符と塩持ってくるから待ってな。」などと不穏な事を言い始めたので、理由を聞くと、岩野神社の近くの辺りは沢山神社が集まっているんだが、その中の多久神社と言う神社と岩野神社の間辺りに地図にもない神社があると言うのだ。

名前をカガセ神社と言うらしく人も居ない。

つまりもう使われていない朽ちた神社なのだ。

 それだけならいいのだが片足が無く、骨のように細い腕を常に横に伸ばした姿のソオドサマと言う神が居るんだとか。

 昔本で読んだんだが、日本の神は信仰が集められず落ちぶれた神は零落し、神という立場から荒魂のみが溢れて化け物となってしまうと言うのをふと思い出した。

 実家の周りはヘンなことがよくあるので少し怖かったが、懐かしさと好奇心から行く事を決断してしまい、親から護符と塩を貰って出かけた。

 とりあえずは岩野神社まで着いたのだが…

なんと鳥居がおかしい、なんて言えばいいのか分からないがとりあえずおかしい。向きが90度曲がって、その後雑巾のようにねじられたみたいな見た目なのだ。少し上を見やると木で隠れていて初めは気付かなかったが宮司さんがしめ縄に織り込まれているというのが正しいのかは分からないがしめ縄と一緒にねじれていた。

 人の死体など見た事も無いので恐ろしさで吐き気を抑えられずその場で吐いてしまった…

 しかし、なぜか帰ろうとは思えなかった。

今思えば帰ればよかったのに行くしかないと根拠もなく進んでしまった。しばらく多久神社の方角へ歩くとガッサガッサと飛び跳ねるような音が聞こえてきた。左を見ると遠くに、うなだれた案山子?のようなものがあった、不気味に思いつつもさらに歩くと神社が見えた。小さめの鳥居があり、本殿と言うよりかは祠のようなものがひとつあるだけだった。

 鳥居を見ると下に朱塗りの杯に黒いものが盛ってあった。しゃがんで眺めてみるとそれは塩だったものと気づき、背筋が寒くなった。

鳥肌がたち、自分の心臓がはち切れそうに警告を鳴らすのでそろそろ帰ろうと思って振り返り、小走りで戻ると、目の前にさっきまでなかった案山子が帰り道にあった。こいつに近づいては行けないと本能が叫ぶ。

 恐ろしさのあまりに震える足を叱り、別ルートを進むがまた案山子、他を行ってもまた案山子、多久神社へ行こうとすると鳥居が出てきた、やっと抜けれたかと思うとその鳥居には「ニエマテ」と彫られており、見えない壁に阻まれてくぐれなかった。

 嫌な予感がし、ポケットにあったはずの護符と塩を取り出すと護符はすっかり焼ききれていた。

 これは死ぬやつだと確信すると前方10m程のところに案山子が居た。またかよとイラついていると、案山子が跳んでこっちへ来た。

後ろは通れない鳥居、前は案山子、絶体絶命と思い、ダメ元で塩を撒くと怯んで塩よりこちらには来れなさそうではあった。しかし、自分も何もできない事に変わりはなく…

 しばらく膠着が続いていたが強風が静寂を破ると、塩が飛ばされた。死を感じた。それからは脳死で来た道を戻った、少し遅れて爆速でソオドサマが来る、4柱(神は柱と数える)で。

突然増えた化け物に構う暇も無く、カガセ神社の中に入り、裏に行くと、もちろん下山すれば良いものを何故か足が神社に向かっていた。

 祠の裏手にはソオドサマが荒れた場合は結界を張るようにと書かれていた。盛り塩を四方に作ればいいらしい。あの案山子が来る前に作らないとと思い塩を探した、あるわけも無いと思いながら。しかし、僕の予想を裏切り、嬉しいことに祠の中に塩が入った箱があった。

 それを使い、結界を作り終わるや否や鈴のような音が響き、ソオドサマが現れた。

 ところで、裏にはソオドサマが零落なさると、生贄は肉が弾け、形容し難い異形となるらしい。そんなものはゴメンなので一刻も早く助けを求めたいが携帯はなんと開かない。

 携帯を開けようと焦っているとこけてしまった。終わった…死ぬ、そう思った瞬間銃声が3発響く。俺の首を掴んでいた案山子の腕がスーッと消えていく。それからはあまり覚えていない。親に泣きついたか、寝てしまったのか。

 もちろん今こうやって話しているということは無事ということだ。妻子にも恵まれ、幸せな家庭を築いている。今日も家に帰れば紅く、可愛らしい妻が5本の腕で抱きしめて迎えてくれる事だろう。

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