第173話 雌叫び
タイトルは雄叫びではありません。
―――――
「せいやあああああ!」
第七聖女ティナ・セプタオラクルは両拳を振り上げ、必勝のアッパーストレートをぶちかました。
が。
「うがああああああ!」
何とまあ、第三聖女サンスリイ・トリオミラクルムはティナの両拳に頭突きをかました。
サンスリイの目、鼻、口や耳から血が一気に吹き出てくるも、ティナの両拳も無事ではなく、ボキ、ボキ、と鈍い音が鳴った。
というか、聖女同士のキャットファイトにしてはあまりに凄惨な光景だ……
これにはすぐそばにいた守護騎士ライトニング・エレクタル・スウィートデスもぞっとしたものだが……宙にある光球の
もっとも、さすがに二人とも一応は聖女だけあって、すぐにぽわんと光って自己回復した。
「ティナあああああ!」
「お姉さまあああ! 今度こそ、喰らえええええ!」
これまた聖女らしくない雄叫びもとい
両者のうち身を低くした格好の第三聖女サンスリイの方が体勢的には不利で、ティナは即座に回し蹴りを振るった。ここらへんはさすがに喧嘩慣れしている。
とはいえ、今度は守護騎士ライトニングが間に合った――
「これ以上は、させません!」
ティナの横合いからライトニングがタックルを仕掛けてくる。
すると、ティナは宙に向けて声をかけた。
「おじ様!」
「ああ、任せろ!」
直後だ。
第三聖女サンスリイと守護騎士ライトニングは信じられないものを見た。
宙にいるリンム・ゼロガードに向かわせた雷蛇が一瞬で散りぢりになったのだ。どうやらリンムが片手剣で全て切りまくったようだ。ここらへんはかつて師匠のラナンシーから「海を切れ」と言われて
もちろん、熱量の
「こちらこそ、させるものか!」
リンムはそう吠えて、地に下りたとたんに守護騎士ライトニングをティナから遠ざけた。
結果、ティナの振るった回し蹴りは第三聖女サンスリイのみぞおちに見事にめりこみ、「ぐふっ」という呻きと共に、サンスリイは
当然、喧嘩慣れかつ場慣れしているティナがその隙を見逃すはずもなく――ティナはすぐさま腰をしたたかに打ちつけたサンスリイの腹上に乗ってマウントを取ってから、両拳を振り上げて、再度、
「おじ様、お願いします」
「分かった」
リンムはというと、ティナの両手を拘束していた土枷を閃によって断ち切った。
今度こそ両拳を解放されたティナは「はああ」と、右拳と左拳に順に息を吹きかける。もちろん、第三聖女サンスリイも負けてはいない。
マウントは取られたものの、両手は自由なので頭を覆うようにガードを固めた。どうやらリンムに散りぢりにされた
そんなサンスリイに向けて、腹上からまさに死刑宣告が下りてきた。
「さあ、お姉さま。お覚悟をば!」
ティナはそう言って、右拳を振り下ろした。
これはさぞかし凄惨な殺人現場みたいな血の海になるんだろうなと、リンムとライトニングの守護騎士同士がやれやれと肩をすくめていると……
意外や意外。ティナはそっとサンスリイが守り切れていない頬の部分をぺちんと指で弾いた。
「これで私の勝ちです。どうですか。強くなったでしょう?」
「…………」
「私だって、いつまで経ってもお姉さまに庇護されていた妹ではないのです。王国から放逐された貴族子女として、あるいは騎士課から司祭課に転身した神学生として、はたまた美貌と才媛の聖女として、色々なやっかみから守る為にお姉さまがあえて私に厳しく当たってくださったことは理解しているつもりです」
「…………」
「でも、もうお姉さまの躾も、薫陶も、修行も、訓練も、しごきも、調教も、拷問も必要ありません」
「…………」
「もし同意していただけなければ、これから身体強化をした上で、伝説級の拳武器を
ティナはわざとらしく嘆くと、アイテムボックスから真っ赤に染まる棘の付いたメリケンサックをしれっと取り出した。
当然、リンムとライトニングはなぜそんな装備を持っているんだと互いに顔を見合わせるしかなかった。何にしても、サンスリイは長い沈黙の後でやっと言葉を漏らした。
「降参です。よくやりました。褒めて差し上げます」
……
…………
……………………
しばらくして、『初心者の森』の入口広場に「おっしゃあああ、とったどおおおおおー!」という雌叫びが響いたのは言うまでもない。
―――――
スーシー、アルトゥ、シイティ、チャル「相変わらず眩しくて、よく見えないけど……今の叫びはいったい?」
くまきち「もしかして、餌をとってくれた?」
それはともかく、私のPCが毎回、「まわしげり」を「回し
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