第41話 女騎士の矜持
女騎士スーシー・フォーサイトは、ほぼ半裸の聖女ティナ・セプタオラクルに自らの上着を与えると、その背に守りながら魔族サラに対して片手剣で突っかかっていった。
スーシーの剣戟は鋭く、また速く、義父リンムによく似ていたが、今はまだ相手の力量を見定める為の牽制程度に過ぎなかった。
「くっ……それでも隙が全く見えない」
女騎士スーシーはすぐに彼我の実力差を悟った――
実際に、スーシーが得意にしている連撃を繰り出すと、
「ふふ。その速さで私を捉えられると本気で思っているのですか?」
魔族サラは嘲笑うかのように認識阻害によって分身して、その剣を簡単にいなしてみせた。
「やれやれですね。王国の神聖騎士団長とはその程度だったのでしょうか?」
そんな挑発に対して、女騎士スーシーはここぞとばかりに吠える。
「ティナ! 今よ。お願い!」
「分かったわ。さあ、闇を打ち消して――『
今度は剣戟の合間を縫って、聖女ティナが法術によって光属性の範囲攻撃を放った。
それは聖なる地形効果も伴って、神聖騎士たるスーシーの
「おやおや、ちょうどよかった。合成していた野獣の血が体に付いてしまって、気分が滅入っていたのです。これで洗い流せるというものですよ」
まるで水浴びでもするかのように魔族サラは悠々と雨を浴びてみせた。
「くっ……」
「私の法術が……ぐぬぬ」
そんな不遜な態度に女騎士スーシーは眉をひそめたし、聖女ティナも下唇を噛みしめながら地団太を踏むしかなかった。
さすがに
「でも、何だか……妙なのよね」
「妙とは?」
聖女ティナが即座に聞き返すも、女騎士スーシーは首を傾げた。
「それがよく分からないのよ。手応えがないというか、実態が掴めないというか……」
「手加減されているだけでは?」
そんなティナの問いかけに、スーシーは眉をひそめるしかなかった。
一見すると、魔族サラは可愛らしい赤髪の村娘に過ぎない――
だから、物理的な
「不死性をもって生き続けると、これほどに面妖な相手になるってことか……」
剣戟も、法術も、ろくに通用しない魔族サラに対して、スーシーは分が悪いと感じ始めた。
もっとも、魔族サラの攻撃もスーシーにはほとんど効いていなかった――
主武器は悪趣味な木製の杖で、その杖頭には牛と羊と人の顔が彫ってあって、それらが不気味に蠢いている。
さらに特殊な樹木を使っているのか、はたまた魔術によって物理耐性でも付与されているのか、何にせよスーシーの剣戟を捌くだけの強度まである。
ただし、スーシーが牽制していたのと同様に、魔族サラも様子見しているといったふうで、その杖による直接的な攻撃はしてこなかったし、そもそもスーシーの剣戟もほぼかわしてきた。
「さて、神聖騎士団長スーシー・フォーサイト。そろそろ、本気を出してきてもいいのですよ」
そんな魔族サラはというと、ため息混じりにまた挑発してきた。
一方で、女騎士スーシーは湖畔全体にちらりと視線をやった――
どうやらリンム・ゼロガードはいないようだ。また、盗賊の頭領ゲスデス・キンカスキーは魅了から解放されたようだが、魔獣相手ではスーシーたちよりも分が悪そうだ。
ただ、オーラ・コンナー水郷長がダークエルフの錬成士チャルと連携して、猟兵団を一掃したのを見て、今こそが
「ティナ! 援護をお願いします!」
「任せて。じゃあ、全力でいきます。その闇全てを串刺せ――『
聖女ティナは法術による光属性の聖槍を宙に幾つか浮かび上がらせた。
同時に、女騎士スーシーはシャツの左袖をまくって、そこに隠していた白銀の籠手を露わにすると、
「
そう言った瞬間、スーシーの身の回りを幾筋もの光が包み込んだ。
これまで着ていた服が光の粒子に散じて、一瞬だけ裸になると、その身を銀色の衣がぴたりと張り付き、さらにはフルプレートの白鎧が装着されていく――神聖騎士本来の姿に変身したわけだ。
もちろん、その間は無防備になるので、聖女ティナが援護するように聖槍を放っていたわけだが、
「別に、襲いやしませんよ。これはこれで良い見世物ではないですか」
魔族サラはというと、いまだに余裕綽々といったふうに聖槍を避けていった。
何にせよ、こうして
「さあ、ここからが勝負です。魔族サラ――いや、魔王アスモデウス! ここでその
―――――
今回のメインはいわゆる変身バンクです。魔法少女モノにありがちなやつですが、『聖闘士星矢』みたいな感じでイメージしていただけると助かります。
さて、明日1月10日(火)の更新はお休みになります。『トマト畑』と『オタク』の方は更新をかけていますので、よろしければお読みいただけると助かります。
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