ヤケドの印は微意識の赤
Shino★eno
上
〈中学生は中ぶらりんだ
小学生のように身も心も小さいままで居られない
高校生みたいな高みを望む術もない
大学生ほど大人の仲間入りが出来る訳でもない
中ぶらりんの、どっちつかず…………〉
「それ、漢字が違うよ」
「え……どれ?」
向かいに座る家主の君から突然の指摘。
改めて見直すも、全く気付かぬ我が頭脳。
残念どころの話ではない。
「これだ。『中』ぶらりんじゃなくて、『宙』」
斜め右隣の優等生が覗き込み、正解を書き示す。
いつ見ても綺麗な字を書きよる。
「あはは! 来週のテスト、ヤバくね?」
自分と同レベル頭脳のお調子者が言える立場か。
斜め左隣からの軽い罵倒にムッとしながら返す。
「これで覚えたし、これ迄の漢字問題は完璧だし」
「言うねーっ!」
あはは! くすくす! きゃはは!
定期試験前の部活休止期間を利用しての勉強会。
幼馴染み、と言うほどでもない同学年が集う。
同一の小学校学区とはいえ、自宅が離れてる者も居れば、一度も同じクラスになったこともない者も居る。それは公立中学に上がっても同様で、部活も委員会も違うのに誰からともなく声を掛け、気付けばこうして集まってしまう不思議な関係。
でも、居心地は最上級なので良しとしている。
さて、冒頭文について説明しよう。
あれはテスト当日に提出すべき国語の課題〈詩を書こう〉における記念すべき我が第一作目なのだが、初っ端からしくじったようでモチベーションはだだ下がりだ。
それでも。
「誤字には目を
「厨二らしいところに、味があるな」
「その闇が逆に我らを救う……てか?」
正直、まともな評価は全く無い。かと言って全否定するわけでもない思春期特有の共感に助けられ、思いの丈を文字に乗せて詩の完成を目指す。
これで漸く試験勉強に取りかかれる。
「おつー、てか遅いわ!」
「どれだけ時間をかけたら、気が済むのやら……」
先程までの優しさは何処へやら。
ここにきて手のひらを返す何とも冷たい言葉よ。
既に課題を終えて試験勉強を進めている三人からの心温まる応援は、悶々とした思いを言語化出来ずに長時間を費やしている周回遅れへ向ける口先だけの称賛だったようだ。
「まあまあ、いいじゃないの。ひと段落したところで休憩といきましょうよ」
家主の君からの提案に圧倒的多数で賛同の声が上がり、瞬く間にテーブルの上が片付けられてお菓子とジュースを迎え入れる準備が整う。
いや、英単語の一つくらいは覚えたいのだが。
「皆さん〜、すっとぼ
「「イェーイ!」」
思春期真っ盛りが集まると謎に生まれる連帯感。
そして、恋への興味が拍車をかけて襲いかかる。
正直、やめてほしい。
特に、今は。
「で〜? 告られて始まった同じクラスの
大きなお世話だよ、お調子者。
「以前、手を繋いで仲良さげに帰るのを見たが」
それはひと月前の話です、優等生。
「そういえば、最近は一緒に居ないよね?」
客人に出す前に菓子をつまむな、家主の君よ。
そもそも、お前さんはこの手の話が苦手なはず。
下手に悪ノリして逆に
仕方なく、ため息混じりに真実を暴露する。
「……二週間前に終わりました。どこまでも何も、映画を観たり、ショッピングモールへ買い物に出かけるくらいの関係。手を繋いだのも片手で収まる程度。どう、理解した? ならば次は、三人の恋バナを一つ残らず晒してもらおうじゃないか、あーーん!?」
睨みを利かせて語尾を強めたせいだろうか。
一同が言葉を失ってドン引いている。
というか……空気が、重い。
え?
ちょっとお待ちを。
お調子者が堪えるように潤んだ瞳で天を仰ぐ。
優等生よ、鼻水はすすらず、ズビーっと出せ。
目元を拭って優しく肩を叩くな、家主の君よ!
「そんな事とは露知らず、突撃レポートかましちゃってスマンぬ、許してけろ〜!」
「まさか、その哀しみをこの詩に託して……昇華できたのなら、それで良し。ズビビッ!」
「まだ中学生だし、大丈夫だよ。次の素敵な出会いに期待しよう、うんうん」
腹を括って話しただけにこの反応には面食らう。
まあ、でも。
友を思うその心遣いには、重ねて感謝しよう。
ならばこそ!
勉強会を再開しようではないか。
「てか、聞いてくれぃ! 実は最近、気になる人が居てですね……むふふ♪」
お調子者よ、まだ続けるのか恋バナ大会。
頼むからこの
『心此処に有らず、な君が本当に好きな人は誰?』
不意を突かれて無言で見つめ返したあの日。
気付かれぬよう配慮した筈が、何たる不覚。
この別れの理由を、今は知られたくないんです。
その相手は誰なのか?
問われたくないんです。
特にこのメンツには。
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