§5-7. 夏季体育祭の準備・放送局篇
「ちょっとぶちょー! まだですかー!」
「もーちょっと待って! もうちょっと!」
「何をそんなに手間取って……うわっ」
「な、何すかその伸びきったパスタみたいなケーブル……」
「だから待ってって言ってたんじゃん!」
「……ふぁいとー!」
「待て! ここまで来たんだから、せっかくだから手伝って行けって!」
「なんでですか!」
「ヤです!」
「え、そんな反応あり!? ひどくない!?」
「いやぁ……。だってふつうに考えたら、そんなぐちゃぐちゃな状態なのに何人かで作業とか無理じゃないです? スペース的にもサイズ的にも」
「そうそう、そのまま千切っちゃいそうだし。そんなことしたらマズいじゃないですか」
「……ってことで」
「ふぁいとー!」
「くっそー! 若干理に適ってるだけにケチ付けづらいじゃねーかー!! こういうのは苦手なのにー!!」
「……そんなん、
「そういうことを
「「……」」
「「へへへへ!」」
「漫才ネタやってる暇があるなら手伝えー!!」
うおぉんと
小さな機材の点検は月に数回行っているが、大々的な学校行事などに駆り出されるような大型機材のチェックまではなかなか手が回らないのが現実。行事自体はまだ先ではあるが、このタイミングでやっておかないといざ部品の発注が必要な問題が起きていたときに間に合わない――なんてことが起こりえる。
過去には起きていないが、ここでそんなミスをしてしまってはそれこそ末代までの恥なんて言われかねないので、慎重になるのも無理はないと思う。
「とりあえず、早いとこそのケーブルは何とかしてくださいよー」
「ちょ! ちょっと話しかけないでくれ……! 今ちょっと光が見えてきたんだから……」
しかし、どういう片付け方をしたらそんな有様になるのだろう。
さすがに前任者の顔が見たい――と思っていたのだが、後で話を聞いてみたところ、あれを最後に片付けたのは悪戦苦闘していた
なら自業自得じゃないか、と思ってしまった俺にはきっと罪は無い。
「……あと3分以内!」
「いきなりタイムアタックにしないでくれや!」
「だって、遅いんだもん」
容赦なく時間制限を設けながら、
「やぁやぁ、色男くん」
「……何スか」
どうも例の件――現役アイドル・
もちろん、俺がこういう反応することも分かりきっているこの人は、明らかにめんどくさそうな俺の声色を完全に無視して話を続けた。
「それは?」
「たぶん大丈夫そうです。キズは付いてなさそうですし」
「ん。おっけーおっけー」
適当な話をしてくるかと思えば、ふつうに作業の話だった。紛らわしいなぁ。
〇
結局部長は本当にあれから3分以内にケーブルを解き終わった。やれば出来る人だ。ミッションクリアおめでとうということで、全員で10円ずつ出し合ってスポーツドリンクをプレゼントした。
予想外に喜んでくれたので、また難題があればこれをダシにして押しつけよう――なんてことを喜連川先輩は俺に囁いた。
なかなかに悪い人だと思う。
今日の機材調整の締めは、実際に動く被写体の撮影をしてみるという内容だった。
確認作業がここまで大がかりになったのは、夏季体育祭のため。
本番では動画も写真も撮影を行い、新聞部への提供をしたり、あるいは各種学校紹介の資料として使われる予定になっている。もちろんプロのカメラマンも数名招聘されることにはなっているが、『学生たちの撮影』というのがポイントらしい。分からなくはなかった。
それぞれけっこうな重さの荷物を抱えて、やってきたのはグラウンド。
夏休みも終わっていて、各部活のチームも2年生を中心にした新チームになっている。3年生も居た頃と比べればやはり人数的な寂しさはあったが、どこの部活もそんなことを感じさせないくらいにいい声が出ていた。――と、よく見れば3年生らしき生徒が、ちょっとしたアドバイスを送っているような光景もあった。
もちろんその傍らでは、今日も元気に各クラスが体育祭の練習をしている。部活動優先になっているので広いスペースは使えないが、それでも負けないくらいの声が出ているところもある。
自分のクラス――1年8組がどこに居るかは、実はしっかりと把握済みだ。何せ放送室は立地が良いことで知られている。グラウンドに面した廊下からはほぼ全域が見られる。高みの見物をするには持って来いだった。
とはいえ、実際にグラウンドレベルまで降りてきてみれば、やはり意気込みが違った。正虎がさすがのリーダーシップを取っていろいろと説明をしながら練習をしているようだが、そこに重なるように聞こえてきたのはマナちゃんの声だった。持ち前の元気さに加えて、あの声だ。よく通る。
対照的に、休憩中のクラスメイトに支給された飲み物を配っていたりしていたのはまみちゃんだった。ちょっと体調が悪くなったのかもしれない、木陰で休んでいた子にはタオルを差し出しているようだった。
「どーしたどーした、
俺の肩を叩きながら、喜連川先輩が絡んできた。できたらカメラバッグを掛けていない側の肩を叩いてくれませんかね。叩くというか、若干体重を乗せながらぐいっとする感じなので、それはかなり肩に負担がかかるのですよ。
何はともあれとりあえず、平気な顔をして訊き返すことにする。
「え? 何がです?」
「そんな感傷的なカオしちゃって。何か心配事かい? 聞くよ~?」
思わずドキッとする。
「……そんな顔してました?」
「まぁ、キミがそう思ってないのなら、そんなことないのかもしれないね」
「何すか、その言い回しは」
「いやいや、あはは」
そう言って小さく笑いながら、先輩は続けた。
「……なぁんか、眩しそうな顔だったからさー」
「…………なるほど」
「えっ。何『なるほど』って」
「いえ。知らなかった自分に気付いた――的なアレですよ」
意味深な言い方をしてきた先輩が、逆に疑問符を浮かべていた。
そりゃあ、俺の中学時代に関しては放送局の人たちに詳しく話していないので、そういう反応になっても何らおかしくはない。
ああいう風に同じチームのヤツらと汗をかくような青春を送れなくなってしまったという事実。それを自分自身ではとっくに現実として受け入れているモノだと思っていたのだが、どうやらそれは気のせいだったらしい。
もしかすると、受け入れるどころか、まだ完全に受け止めて切れてすらいないのかもしれない。
――悔しい。自分の力では抗えないだけに、悔しい。
そんな気持ちが、まだ残っていたらしい。
何事も無ければ、今頃はもしかしたらサッカー推薦で桜ヶ丘高校に入学していたかもしれないし、あるいはまた違う学校に入学していたかも――。
「……ん?」
「ん? どした? また考え事?」
「……ええ、まぁ。ちょっとした気の迷いみたいなヤツです」
「ちょっとちょっとぉ。そういうのは黙ってちゃダメだからね~?」
「大丈夫ですって」
そういって心配そうな先輩をいなす。
――そうだ。
違う学校に入学していたら。あるいはそのままサッカーを続けていたら。
そうなれば、今度は放送局に入ったり、そこで朗読やアナウンスをするなんて未来は無かったわけで。
そうなれば、この夏の放送コンテストで全国大会に出場するなんてことも無かったわけで。
そうなれば、あのコンテストで俺のことを見つけた幼なじみたちが、星宮に帰ってくることも、こうして再会することも――。
「あ、リョウくーん!」
「
そんな俺の考えていたことが向こうにも伝わってしまったかのように、幼なじみたちがこちらに駆け寄ってきていた。
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