§3-3. 我らが放送局の紹介


 ふたりの自己紹介を終えて、今度はこちら側の自己紹介。人数は多い方ではないが今日の活動もあるので、手短に学年と組くらいを添えるだけのモノになる。


 しかしそれでも、中には爪痕くらいは遺していきたい人もいるらしく――。


「2年、ラジオドラマなどの脚本を書いたりもしている、たつ……そうろうだ」


 辰巳先輩はいつも通りの小芝居風な自己紹介をしてみるとか。


つれがわでーす。美味しいお店をいろいろ知ってるんで、今度紹介させてね」


 喜連川先輩はちゃっかりお茶したい欲を顕示してみたりとか。


 とくに先輩らは何かしらの小ネタを仕込んできた。いつの間に考えていたのだろうか。


「えーっと、次は」


「え。なんくんは別に要らないでしょ」


「え?」


 喜連川先輩にバッサリと切り捨てられた。思わず『え』をおう返しするように訊いてしまう。いやいや、それはさすがに流れというモノを無視しすぎではありませんかね。


「そもそも同じクラスだろ?」――とは辰巳先輩。


「ふたりを連れてきてくれたのは難波くんなんだし」――とは返し刀の喜連川先輩。


「言われてみたら、そうか。……ん、時間の都合もあるから、難波くんはカットで」


「ちょ」


 先生からもハシゴを外されたので、これはもう何も言わないのが鉄則。


「ぷふ……っ」


「……ぅふふ」


 ――でも、そのおかげでふたりの機嫌はちょっとだけ良くなったらしいので、今回だけは見逃してあげますよ。釈然としないけども。




     〇




「じゃあ、全員……マイナスひとり分の自己紹介が終わったところでー」


 こういうときの司会進行は局員の持ち回りなのだが、今日はそのままじん先生が担当するらしい。いつもとは進行の手順も違うので、この方がありがたい。


「まずは部活動紹介みたいなのをやらせてもらおうかな」


「……何だか本当に4月に戻ったみたいですね」


「気分の問題、気分の問題。見学と言ったらやっぱりこういう感じじゃないとね」


「たしかに」


 その時のノリや空気感を大事にする俺たちにとってはいつものことである。


「……と、言っても、そもそもの活動予定もあるので、本格的なのはできないんだけど……。ふたりとも、それでもイイ?」


「もちろんです、ありがとうございますっ」


「むしろ、私たちが無理言って押しかけているので……」


「そんな恐縮しなくて大丈夫だから」


 こちらとしてはワガママだとかそんなことは一切思っていないのだが、ふたりはそれでもまだ気にしているところはあるようだ。――本当に、気にしなくていいんだけどね。


「私たちとしても、活動の振り返りって大事だから。むしろ大歓迎」


「気分転換にもなるからね」


 そこまで言われて、ふたりも過度に恐縮するのをやめてぺこりと一礼。――男子局員がうっとりしているように見えるのはたぶん気のせいではないだろうが、先生は華麗にスルーして説明に入った。

 本当に見えてなかったのか、あるいは敢えて流したのかは俺の知るところではなかった。


 大まかに分けて、説明は3つ。


 ひとつ目は、放送局自体の紹介。


 具体的な活動方針に始まり、今日のような放課後にどんなことをするのかという紹介をする。そうした後で、そういった日頃の活動の上にある、学校内外での活動内容や、放送局が参加する大会やコンテストの紹介をするという流れだ。ちなみに補足すると、これには先ほどの部員紹介も含まれている。


 ふたつ目は、実績紹介。


 実を言えば、この地区の高校は放送局のレベルが総じて高く、先の説明にもあったコンテストの全国大会では大抵上位での入賞になる個人やチームが出てくる。つまり、『地方大会を突破すれば』、『全国に行けさえすれば』というような状況だ。


 ハードルを予め上げるようなことを言うと門戸を狭めることになると言う声も出てくるかもしれないが、それは間違いだ。


 またしても『実を言えば』という前置きをしなくてはいけないのだが、実を言えばこの界隈、各高校の放送局のレベルが全国でもトップクラスに高いということはよく言われているのだが、中学となると話は全く別。驚くほどに強豪とされる中学校がない。つまり、大概が高校入学まで放送局の活動をしたことがない生徒だということだ。


 そもそも、俺自身が元々はサッカー少年であり、放送部や放送局なんて全く興味が無かった部類だ。それでもこうして全国での表彰をもらえたりもするのだから安心してくれ、という話なのだ。

 ――きっと来年あたりは、俺がこの話を担当させられるのだろう。何となく察しは付く。閑話休題。


 最後は設備紹介。


 強豪にふさわしい設備ということで、かなりのドヤ顔を添えて紹介がされるのが通例。


 たとえば、今こうして説明をしている場所もそのひとつ。さながらスタジオ。大型スクリーンに映像を映し出すこともできるくらいに広い――のだが、撮影や収録に使う機材もちらほら雑多に置かれているので、かなりごちゃついた場所もある。それでも広いのだが。


 編集用のパソコンもかなりの高性能マシンを使わせてもらっている。たまに有名ユーチューバーあたりが「こんなハイスペックマシンを買いました」などと言って紹介するようなレベルのモノだ。恐ろしく早い。一瞬で消える動作ログなんて、本当に余裕で見逃せてしまうくらいだ。


 実際に放送に使用するブースも広い。かなり大きなラジオ局の放送ブースや、公開収録なんかに使われるようなスタジオと比較しても、良い勝負になるのではないかと思えるくらいのスペースがある。これは、ラジオドラマの収録をひとりずつではなく一気にできると便利だろう、ということで作られたとかいう話だ。


 ――要するに、至れり尽くせりということだった。


 高校の放送局がしていることについての興味は最初から持った状態でここに来てくれたとは思う。実際、コンテストやそれぞれの課題の話や、この界隈の放送局事情についての話も小さく頷きながら真剣に聴いてくれていた。


 ただ、いろいろな撮影や収録に携わってきているはずのふたりも、設備紹介のところではかなり驚いた様子だった。


「ね、リョウくん」


「うん?」


「高校の放送局って、どこもこんなスゴイ設備あるの?」


「……他は、さすがにわかんないなぁ。私立高ならもしかするとって感じもするけど」


 ある程度見て回りながら、マナちゃんが訊いてきた。そこまでは詳しくないのでぼんやりとした受け答えをしていると、さっそく神野先生の助け船がやってきた。


「公立でもキレイなところはあるよ。ウチの学校より新しくできた校舎のところはとくにそうかな。でも、ここまでのスペースは無いはず」


「なるほど……」


 いっしょに聞いていたまみちゃんも納得の表情。


「一応放送局の管轄みたいな場所にあるけど、他の部活が何かの撮影に使ったりもするし、共用スペースの側面もあるからここまで広くしてもらえたって話」


「そもそもそういう撮影のお手伝いもしますしね」


 俺が後を受けると、まみちゃんは「ああ」という顔をして頷く。


「そういうところも含めての『放送局』っていうことなんですね」


「理解が早くて助かるぅ」


 神野先生もご満悦のようだ。


 学校内外での活動の中には、学校の電子版パンフレットや資料として使う映像の撮影補助というのもある。スチル写真だけなら写真部が存在していてそちらが担当をするのだが、動画に関してはこちらにお鉢が回ってくる。編集用機材もあるし、編集を専門職にしている局員もいる。専門家に任せるのが妥当だという話。


「ちなみに遼成くんはそっちもやるの?」


「まだまだ勉強中だけどね」


「あ、やるんだ!」


「一応ね、一応」


 パソコン操作はどちらかと言えば得意な部類。そもそもモニターの前で静かに作業ができるということで、には向いているかもしれないと思って放送局を選んだ経緯もあった。


 好き好んでそれを誰かに言うことは、今のところは無いと思うが――どうなんだろうな。




     〇




 少しばかりの休憩を挟み見学会開始のフォーメーションに戻って、神野先生が開口一番こんなことを言った。


「さて、と。ひと通り見てもらったことだし、今度は実際の活動風景をしていってもらおうかな、……と思うわけだけど。……イイかな?」


 ――体験?


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