絶対的にカワイイふたりの幼なじみと再会したら、人生最後のモテ期が波瀾だらけになってしまった ~アブソリュート・ガールズとオルタナティブ・ボーイ~
御子柴 流歌
第1章: 編入生は幼なじみで芸能人でした
§1-1: 編入生のウワサと、その正体
――『モテ期』というモノは、人生で3回訪れる。
そんな空想めいた話を、どこかしらで聞いたことはないだろうか。
どこまで本気にしていいモノかわからない。
それどころかプラス思考をするためのネタにだろうとしか思えないのだが、信じる者は救われるという仮定に立ってみれば信じておいて損は無いだろう。
――いや、すまん。
前言撤回が早すぎるが、ウソだ。
信じすぎても良いことではない。
全国の男女にアンケートをしてみた結果、「3回もねえよ」という結果が大多数だとか。
ところがその一方で、3回以上のモテ期を経験したとか言っているヤツも10%程度いるとか。
やっぱり人の世とかいうヤツは不公平に出来ているらしいし、やっぱり神様とかいうヤツは本当にいい加減な輩でいらっしゃるようだ。
しかし、俺――
運が良いことに、俺は
――何度でも言うが、あくまでも
なぜなら俺の2回のモテ期は、幼稚園年長組のときにまとめて訪れてしまったからだ。
今でもぼんやりと思い出す。
同じバスに乗って通園していたとてもかわいくて元気な女の子と、同じクラスのとてもかわいくて優しい女の子。
そのふたりには、たぶんモテていたと思う――というか、そう思いたい。
このふたりといっしょに遊ぶようなことは無かった気がするが、今にして思えば、そういう半ば
その勘違いが原因で、小学校に入って以降はさっぱりだった。
男子とばかりぎゃーぎゃー騒いでいたのも原因かもしれないが、それにしたってさっぱりだった。
――いっしょに遊んでいた子は黄色い声を浴びていたこともあったのに。
兎にも角にも、だからこそ、あと1回はモテ期が来てくれることを信じつつ、俺は日々を大人しく過ごしている。
「ま、そんなことも無いわけで……」
ため息を吐きながら迎えた高1の夏もそろそろ終わりが見えてきている――というか、だいぶ秋の足音も近い予感がある。
この地方、夏休みが終わればすぐに秋がやってくるのだ。
何度か放送局の活動のために登校などをしていたが、そんなことをしている間にあっさりと夏休みが終わってしまった。
過ぎ去っていったという言い方の方が正しいのかもしれない。
もちろん充実はしていた。
貴重な経験もできた。
ただやっぱり、ぽっかりと空いたモノはあって、それはとうとう埋まりきることはなかった。
「……ん?」
ゆるやかな上り坂をのんびりと歩いて着く学校。
遅刻ギリギリとかいう時間でもないのに、既にやたらと生徒玄関がごった返している。外にも居るし、中にも居る。
中の生徒らも靴の履き替えに手間取っている雰囲気ではなく、まるで誰かを待っているように見えた。
もしかして――と思い出すのは、小学校以来の友人である
そいつが言うことには、『夏休み明けにとんでもない編入生が来るらしい。しかもふたり』。
しかもその『とんでもない』の理由が、芸能活動をしている子だという話。
女優だとかアイドルだとかそのあたりの細かい情報は
恐らくはその話を知っている生徒たちが
ふつうそういう場合は職員玄関とか違う通用門から来るような気もするのだが、生徒指導の先生あたりから「やかましい!」とでもお叱りが来たのだろう。
そんな予想は簡単に付けられる。
生徒玄関前ならそこまで口を酸っぱくされることもない。
それにしても、だ。どうしてこうも『とんでもない編入生がふたり』と聞くと、勝手に『美人の』という言葉が付け加えられてしまうのだろう。
不思議なモノだ。マンガやラノベの読み過ぎだ――と言い捨てたいところだが、俺も実はそのひとりではある。
夢を見るのは自由だと思う。
さらに今回は芸能人らしいというウワサ付き。
それくらいの期待をかけたとしてもバチは当たらないはずだ。
とはいえ、さすがに入り待ちをするのは気が引ける。混雑している中央階段からいつもの教室へ向かうのも嫌なので、職員玄関側に付けられている階段から上がっていくことにする。大人数で
いつも通りに開けられている保健室の扉――ちらっと覗き込んで会釈するのもいつも通りだ。
何が入っているのかきっと誰もよくわかっていない倉庫。
意外に広くてキレイな会議室。
それらの前を通り過ぎて見えてくる職員玄関。
そんな代わり映えのしない光景を通り過ぎながら、いつもの教室へ向かう――。
――はずだったのだが。
「すごいキレイだねー」
「広いしねー。……あたし、教室の場所とかすぐ覚えられる自信ないよ」
「あはは……。たしかに、早く友達作んないといけないかも」
「ね! できるといいなぁ」
生徒がふたりほど来たらしい。女の子だ。どちらもとてもよく通る声だ。
片方――少女Aとでも置いておこう――は明らかにソプラノ。
草原を跳ね回るようなとても元気な印象を受ける、朗らかなかわいらしい声だった。
もう片方――こちらは少女Bとする――はメゾソプラノくらいだろうか。
年相応なかわいらしさの中に大人びた落ち着いた印象を受ける声だった。
よくよく聞けば、ふたりの声に重なって他の生徒たちのガヤも聞こえてくる。
わりと機密性が高く作られているはずなのだが、それでも聞こえてくるとは大した物だ。
そうなると、このふたりが例の編入生と考えても良いのだろう。
女の子で、良く通るかわいらしい声の持ち主と来たモンだ。
そんなふたりを真正面からしかと目撃できるとは、俺にも少しだけ運が向いてきたのかもしれない――なんてことを思ってみる。
ただ。
どちらも、何となく聞き覚えがある声のような気がするのは、何故だろうか。
しかも、その聞き覚えの中に、妙な懐かしさを覚えるのは、何故なんだろうか。
夏の暑さにほんのりと紛れ込むような違和感を覚えながらそのまま職員玄関へと近付いていく。
少女ふたりの声も近くなってくる。
それにしてもこのふたり、とても仲が良さそうだ。
既に知り合いだったりするのだろうか。
上靴が2足、床に置かれた。
青いライン。
ということは俺と同じ、1年生。
「あ!」――と少女A。ふわっとしたショートボブが揺れる。
「え?」――と少女B。さらりとしたストレートが流れる。
「ん?」――と少年俺。ぼんやりとしたマヌケ顔を晒す。
真新しい上履きをしっかりと履いて、顔を上げたふたりとしっかり目が合って、結果的に3人で、原子番号30である金属元素の名前を成立させてしまった。
うわ、カワイイ――ん?
――あれ?
何故だ?
何故俺は、このふたりに、何となく見覚えがあるんだ?
「もしかして、リョウくん!?」
「もしかして、遼成くん?」
シンクロ。
「……え?」「……え?」「……え?」
俺を加えて、さらにシンクロ。
「…………え?」「…………え?」
俺を除いて、みたびシンクロ。
――あれ? 今、何が起きた?
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