第15話
藤春海凪——。母がベンチャー企業の最前線で働くキャリアウーマンで父が羽振りのいい国家公務員というエリート夫婦の元で私は産まれた。
家は当然裕福で、生活に困ることはなかった。しかし私の両親は優秀過ぎるが故に、倫理が欠如していた。両親ともに常日頃から暴力的。自分の娘だからという理由で変に期待し、期待通りにいかなかった場合はすぐに手を出すようなクソ人間だ。
ピアノ、英語、水泳、バレエ、空手——。幼少期からあらゆる習い事を強制されてきた。しかし不器用で無能だった私はどれも鳴かず飛ばず。努力しても結果が一向に出ない。ただ莫大な受講費だけが消えていくだけ。親は努力してきた過程を見ず、結果のみで娘を判断し、これでもかと𠮟りつけた。
『——蛙の子は蛙でも鷹の子は蛙ではない。どうして、お前は蛙として生まれたんだ?』
これがは父親の口癖。幼少期でまだ無知だった私はその言葉の意味を理解できなかった。でも、蛙という響きがなんとなく嫌だったのは今でも覚えている。
◆◆◆
中学校に上がると同時に、暴力はさらに悪化。
その時から夫婦の関係もあまり良好ではなくなり、二人とも日々の鬱憤を私にぶつけるようになった。
私は何も悪くないのに、不当に怒られ続ける毎日を送った。
そんな過酷な状況下でも努力を惜しまなかった。中学では陸上部に入り、速く走れるように猛特訓。特訓の結果は実り、近畿大会まで出場できた。
勉学も今まで以上に力を入れ、中の下だった成績を中二の時点でなんとか中の上まで上げることに成功した。しかし成績が上がったとはいえ、優秀な姉には程遠かった。
私には五歳離れた姉がいる。姉はせっかちな私とは違い、のんびり屋さん。いつも何を考えているのか分からない謎めいた人だった。でも私の唯一の味方だったのは確か。
見た目に反して頼りがいがあり、両親から受けた傷をいつも癒してくれた。
姉は一見、どんくさそうに見えるが実際はかなりの実力者。何をやらしても器用にこなしてしまう。所謂、天才肌。そのため、両親は姉に対してだけ優しく猫撫で声で甘やかしていた。
私はその光景が純粋に羨ましかった。私もあんな風に甘えたい。もっとみんなと仲良くなりたい――。
『海凪ちゃんは私だけで充分。苦しいときがあったらお姉ちゃんにいっぱい甘えていいんだよ』
姉に甘えたいと本音を漏らした日。姉は優しく私を抱きしめ、そう答えた。未だにあの言葉は忘れない。
◆◆◆
あっという間に年月は過ぎて、はや高校生。無事、第一志望の進学校へ入学できた。だが、ここで無能が露呈する。
まず勉強が追いつかない。内容が難し過ぎて、自分の能力では到底好成績は望めない。テストの点数は順調に下降線を辿っていった。
部活も中学と同じ陸上部に所属していたが、他の部員に全く歯が立たない。練習量を増やしたところで追いつけるものではない。先輩どころか同級生にまで引き離される始末。
そんな中、唯一の救いだったのは高校でできた友人関係だ。
中学まで勉強と部活に打ち込んでばかりで友達と呼べる人がいなかった。でも高校では性格が明るい人たちが私の元へ寄ってきて、友達になってくれた。その子たちは世間一般で言う『陽キャ』に分類される人種。私はその子たちとすぐに馴染み、必然とクラスカーストのトップの地位を得た。
当然、男性からの告白が絶えない。初心だった私は、それが嬉しくて色んな男と付き合ったり別れたりを繰り返していた。あの時の自分は完全に浮かれていた。
家の中では相変わらず不当な扱い。
勉学、部活ともに成績が振るわない娘に対して怒りが収まらない。暴力は次第に過激になり、傷も増え始めた。
私が高二に上がったと同時に姉が結婚した。
家族全員、突然の出来事に困惑。学生結婚ということもあり両親は猛反対するが姉はそのまま結婚を押し切り、家を飛び出してしまった。
もう家には味方がいない。姉に助けを求めようとしても、どこにいるのか分からない。
ひたすら不安と恐怖が募る。仲の良い友達がいても孤独感に苛まれ、家では両親の暴力に怯える毎日。
そんな苦しい時に出会ったのが水戸涼花だった――。
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