six feet under4
「手立てもなにも私掠船の免状を出してもらっただけだがな。私掠行為の許可さえもらえりゃあ、マーティン達は元々有能な海賊団だったんだ、濡れ手に粟のボロ儲けになるのがわかってた。彼らがメルシア王の仇敵のエリアス殿下の船を襲った存在じゃないのは、俺が入ったことで図らずとも証明される」
そう話を止めたところでケインを見れば、いつの間にかその身がほとんど隠れるほどまで墓穴を掘り進めていた。
「あと少しだから手伝って」
そう呼ばわれて、幅も広く充分な深さの墓穴から手を差し伸べられて身を委ねると、あえて残したと分かる土塊がわずかに、平坦に慣らした穴の底に残されていた。
ケインの優しさに、昂った感情を隠すこともできずふたたび咽び泣きながら、すでに柔らかくなった土をシャベルですくって持ち上げた。
そこまではたやすかったが、自分の身長より高い位置にある地面に土を出すのは難しく、結局ケインに手伝ってもらいながらアレックスはそれをなんとか終わらせて肩で息をつき、穴の底でへたり込んだ。
「これを使って」
差し出された手巾で涙と汗を拭い渡された水袋で喉を潤して一息入れたアレックスは、湿った土でその金の髪が汚れるのも厭わず、墓穴の中に寝転んだ。
いつもより6フィート分高く狭く切り取られた青空は喪失に開いた胸の穴のよう。
飽きるまでそれを見つめて静かに泣いて、ようやくその穴を埋める言葉が出た。
「ここは平穏で、静かで……とても安らいでいるな」
「マーティンも穏やかな眠りにつけるだろう」
「ああ……そうだな」
「言っておくが、まだあなたの番は来ていないし、しばらくはそんな気もおこさせないから」
いまだにうっすらと抱いたままの願望をケインに見透かされ、アレックスは苦笑した。
「今はレジーナが結婚して孫が生まれるぐらいまでは死にたくないと思っているよ」
「今十二なんだから、せいぜい十年、早けりゃ五年しかないじゃないか。レジーナが結婚できないように求婚を妨害しないと」
捨てられた仔犬のような顔をしたケインを指先で呼んで、重い腕を伸ばして少し伸び始めていた赤毛をそっと絡めて引いた。
「そんな顔、するな。お前のために生きると誓っただろう? 希死の念はこの胸に焼きついていて消えないが、私は自ら死を求めたりしないよ。どんなに辛いことがあってもだ。だから、ずっと共にあってくれ」
ケインは羽毛の軽さでアレックスにキスをしてその身を離すと、墓穴の上に跳び上がりアレックスに手を伸ばした。
「この6フィートが決定的にあなたと私を別つまで、いつでも共に。さあ、そろそろ皆集まる時間だ。隠し港に戻ろう」
アレックスはケインの硬く大きな手を取った。
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