第29話 R6.12/18 根本的で致命的な欠点の指導について


 ブルルァーーポゥ!!


って、良い言葉かもって思った。「ありがとう」「愛してる」の口癖を重ねている。「ありがとう」は人前でも頻繁に言えるけれど「愛してる」はなかなか言えない。

 でも「ブルルァーーポゥ!!」は、ワンチャン人前で言っても、面白い。ちょっとびっくりもさせられる。営業中だって使えそう。

 人の心を開かせるのはいつだって『笑わせること』が一番で『びっくりさせること』が2番だと思っているから。

 そして人前の口癖が「ブルルァーーポゥ!!」「ブラボーですね!」「ブラボーやんな!」な人間って、面白いし楽しい。

『あぁこの人のキャラ・口癖ってブラボーなんだ』『あ、ブラボーが口癖の人だ』と思われることって、素晴らしいことじゃない?

 それはつまり『前向きでテンションが高い明るい人』の別称にほかならない。

 ちょっと、やってみる価値はあるかも。


 ブルルァーーポゥ!!



 閑話休題。

 さぁ今日は午前中、売れない新人ズ2人の同行である。2人の根本的な問題点は、はっきりしている。

『暗いこと』『ネガネガティブティブしてること』だ。営業の手法は様々で、何が正解って言い切れることばかりではないけれど、この2つは、はっきりと間違いなのだ。そして全ての言動に影響するため、全てのプロセスに大きな悪影響を及ぼす。つまり、結果は暗い結果になり、ネガティブな結果で終わる。その人に、スキルだったり技術だったりが身についたとしても、マイナスに出る。

 当たり前だ。暗い奴が営業のスキル使ってたら、相手の印象は『なんか上手いこと誘導されてる気がする』『怖い』だ。

 この根本的なところを、直さなければならない。


 あっちの心を開かせなきゃ、営業は始まらない。それなのに『こっちの心は閉じてますけど、あなたは心を開いてください』『こっちは笑顔も差し上げませんが、あなたは笑顔でいてくれると私が話しやすいです』意味わかんないじゃんね。そして、それはとても傲慢。

 営業に限らず、暗い人は傲慢だ。


 素が暗い人間なんです、とか、悲しい過去があって暗くなってしまったんです、とか、それはそれで良いよ。そこに文句は無いのよ。ただ、暗い明るいに限らず、営業する人間は変わっていかなきゃ売れない。素のままありのままでめっちゃ売れまくる人間なんて、稀も稀だから。

 説明が苦手な人間です、滑舌が悪い人間です、人の心がわかりません、それはそれで良いよ。ただ、売るために変わらなきゃいけない。売れる人は、みんな自分の欠点とかを認めてそこを変えようとしている。

 それこそが、営業って仕事の素晴らしさだと思う。欠点を、少なくともお客さんの前では出ないようにしよう。良いところを、もっと伸ばそう。仕事をする上で成長すること、良い方に変わっていくことを強制されるし、そうするとお客さんと楽しく話せて楽しく商談出来るし、その結果成績が上がって、お金まで付いてくる。


 自分が良くなっていって、その実感も得られて気分良く生きていけて、お金も同じ年代の平均の人より多くもらえる。それでまた、優越感だったり自分ちゃんとしてるって実感だったりを得られて、また気分良く生きていける。


 営業は、最高の仕事だ。お客さんの前に行けば、良い印象の言葉やポジティブな言葉を使い続け、相手を褒め続けて、完全な自信は無くても自信を持ったように、堂々とお客さんと接し続ける。笑顔が苦手だったとしても、笑顔を続ける。

 人は、使う言葉でできる。すみません、すみません、と毎日毎日謝り続けてしかいなければ、卑屈な人間が出来上がる。何とかしよう、何とか出来るって言い続ければ、良い意味で諦めの悪い、粘り強い人間が出来上がる。ポジティブな言葉を使い続けていれば、ポジティブな人間が出来上がる。「ありがとう」「感謝します」だって、そうですよね。

 スピリチュアルな方向で言うなら、言霊でしょうか。でも、脳科学的にもそうですし、行動科学的にもそうです。「何とか出来る」って言えば、何とか出来るための行動を脳が探し出す。寝転んだまま「何とか出来る」って言ったとしても、言い続けていれば脳がその状態・行動と言葉への矛盾に脳が違和感を持ち始めて行動しなきゃと判断して、何とか出来る行動を探し出して、行動が始まる。


 そして、変わっていくことが出来る。素のままありのままの状態で、自分で、売れる人間ってどれ程いるんでしょうか。0.001%? 銀行の金利程度しかいやしませんよ。その人だって、前の仕事とかで学んだり身に着けたことを、営業で使っているに過ぎない。


 人間、変わることが出来る。変わった自分をお客さんに受け入れてもらって、変わってよかったと思える。自分が変わって、成果が出れば自信がついていく。人に好かれ、成長を実感し、金ももらえる。人生の素晴らしさを味わえる瞬間が、営業には詰まっている。






 ……なんて、意気込んでやってみた結果がどうだったか。

 一人の大幅な成長を実感するとともに、一人を泣かせる結果になった。正直、想定してはいたのだけれど、想像は超えてしまった。午後はずっと泣いていたらしい。

 前者は『ネガネガティブティブ』『覚えが物凄く悪い』の二重苦を抱えており、後者は『暗さ』『声の小ささ』『お客さんの顔を見れない』という三重苦を抱えた子だった。そしてそれを、入社当初からその点を指摘され続けたにも関わらず、直っていない状態だった。そのレベルでへこませてみようとは、思っていた。この一回で、変わってくれればと。

 結果、前者と後者の差は午前中だけで大きく生まれていた。活動開始前は『でも、でもですね、だって』が続いていたが、その結果を見て泣き出して、それがずっと続いていたらしい。

 上長から許可を得てはいた。厳しく言っていいかと。しかし怖いもので、営業所に帰ると数人には伝わっていたらしく、その数人の視線は痛かった。

『何この雰囲気?』

って感じで。実際、何かを言われていたらしい。


 さぁ、明日も同じ子と同行がある。どうなることやらだ。

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