『白い腕』⑪




○小畑と山口●




 営みは、終わった。


 彼女の死体をビニール袋に包んだものを、さらにゴミ袋に包んだ。それを黒のバッグに入れた。


 わかったことがある。死は、腐敗は、その結果だけ見ると醜いものだった。しかし、過程と死を超えたものを含めれば、全体として美しいものだ。


 思い返すと、前兆はあった。一日一日、一刻一刻と、彼女は腐敗へ、死へ向かっていたのだ。


 それは、意識には到達しなかったから、記憶としては残っていない。しかし、一日に何百枚と撮った写真に、記録としては残っているのだ。刻もう。あの日と同じ服装の僕は、彼女の死体が入ったバッグを、肩にかけた。


 さぁ、出かけよう。玄関を開けて、鍵をしっかりと閉める。階段を降りる。


階段を降りているとー、山口と、志田と鉢合わせた。


     *




山口「よう……」


小畑「よう。志田。何ばしよっと?」少しうわずる。


志田「こんばんは。今日は、雄大さんの家にいました」志田はちらっ、と山口の方を見る。


竹下「そっか。じゃあまたな」小畑は通り過ぎようとするが、阻む。


小畑「山口、通行の邪魔ばい」


山口「やっと返事したな」


小畑「何ば笑っとっとや。邪魔っつったらどけさ」


山口「和解しよう。時間、くれよ」


小畑「はぁ? 何ば言いよっとや。そいだけはせんってことだけが、おいとわいの共通しとぅ考えやろうが」


志田「あの……」


志田「わたしからの、お願いなんです。というより二人以外の部員、全員の……」


小畑「そがんと、知ったこっちゃなか」


志田「せっかくの、同じ学年、同じアパートじゃないですか」


 黙って二人に背を向ける小畑。他の階段に向かう。


山口「お前の秘密を知ってる、って言ったら、どうする」追いかけるような声で。


小畑「・・・・・・」振り返るが、反応はしない。


山口「お前が拾ったのを見てたって言ってんだよ」


        表情は見せないまま、驚愕する小畑


小畑「そんじゃあ、わいは何がしたかとな」二人に背を向けたまま。


山口「俺と、二人で話しをしろ」


小畑「断れんごたいやな」体ごと振り向いて。


     *


 なんていうことは、なかった。


 普通に恵理と俺が半身になって道をゆずった。その真ん中を小畑が通っただけだ。


「よう。志田」


と右手を上げる小畑。


「こんばんは。小畑さん」


笑顔で答える恵理。


 これでよかった。俺は、今までどおり、今まで以上に小畑とは関わらない。


 腕のことも、どうでもいい。多分、俺の勘違いなんだろう。


 タッタッタッタッタッタッ、タッタッタッタッタッタッ。


 小畑が、階段を降りていく。軽快に? 焦って? 自然に? 何も考えずに? 俺にはわからなかった。どうでもよかった。


 小畑が通った空間を、俺の左手と恵理の右手が埋めた。目が合い、微笑みあう。


 恵理は、かわいい。



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