2.創造魔法でできること

『おはよう、シント。よく眠れた?』


「おはよう、メイヤ。よく眠ることができました。久しぶりです、こんなにゆっくり休むことができたのは」


 メイヤに導かれて神樹を生長させ、果実をいただきその根元で眠らせていただいた……昼。


 僕はようやく目を覚ましたようです。


 ……相当疲れていたのでしょうか?


『無理もないわ。人の村では相当迫害を受けて生活してきたのでしょう? 貴重な創造魔法使いなのに。もったいない』


「メイヤ……ですが、僕がなにもできなかったのは事実ですから。というより、どうして僕の生活状況を?」


『あなたが疲れ果てて眠っている間に記憶を少し調べさせてもらったの。まったく辺境の村なら創造魔法の使い道くらいいくらでもあるのに』


「メイヤ? この魔法のことを知っているのですか?」


『その様子だと知らないようね。いいわ、食事のあとで創造魔法の使い方を教えてあげる。それじゃあ、今日の木の実は……』


 メイヤは僕のためにまたたくさんの木の実を作ってくれました。


 昨日の夜、食べられた量も考えて数は控えめにしてくれましたが……それでも多かったです。


 そして、食後には遂に〝創造魔法〟の使い方を説明したいただけることに。


『まず創造魔法だけど、普通の魔法とはまったく性質が異なるわ。各種属性魔法のようにわかりやすく精霊の力を借りるものじゃないの』


「え? そうなんですか?」


『そうよ。いままで魔法が使えなかった理由は精霊を使った魔法の使い方、普通の魔法と同じ魔法の使い方をしようとしていたからじゃないかしらね』


「そんな秘密が……」


『では、実技よ。シント、矢を当てる的を見たことはある?』


「はい。……一度もまともに当たったことはありませんが」


『創造魔法使いの戦い方はそうじゃないからね。それじゃあ、離れた場所に〝矢を当てる的〟をイメージしてみて』


「え? はい。……イメージできました」


『じゃあ、今度はそれを魔力で固めるイメージで……そうそう、うまくできている』


「ええと、こういう感じ……あれ? あんなところに矢の的が?」


『〝創造魔法〟ってこういうものなの。非生物であれば望んだとおりに作り出せる魔法。私のような聖霊や精霊、幻精といった存在に使うと傷を癒やしたり成長を促進したりする魔法。それが〝創造魔法〟よ』


「……それって、ものすごくないですか?」


『ものすごいわよ? だから、私のような生まれたての聖霊が出会えるとは思いも寄らなかったし……知っている幻獣たちに聞けば創造魔法使いはヒト族の暮らす〝王都〟とかいう場所で一生を過ごさせられるらしいわ。シントはどうしてこんなところにいるのかしら?』


「さぁ……? 僕もよくわかりません」


『……それもそうよね。私としてはあなたに巡り会えた幸運を祈るばかりだわ。普通にここまで育つには数千年かかるもの』


「それは……お役に立ててなによりです」


 そうですかメイヤは数千年かかるはずの生長過程をすっ飛ばしたんですね……。


 こうして聞くとすごいものに感じてきました〝創造魔法〟は。


「それで、ほかにはなにができるのでしょう?」


『そうね……あの的に向かって矢を撃ってみるのはどう? イメージの仕方もわかるでしょ? ものは試しということでやってみなさいな』


「はい。試してみます」


 僕はできた的に向かって矢をイメージしてみます。


 今回は練習ということですし、どんな矢がいいでしょうか?


 普通だと撃てないような巨大な矢とかが面白いかも。


 それも帯電していて回転して貫通するような。


 よし、これでいきましょう!


「メイヤ、イメージできました」


『そのイメージ、私にも流れ込んでいるのだけど……まあ、初回はいろいろな危険性を教えるのにもちょうどいいし試しなさいな』


「はい? じゃあ、やってみますね」


 僕は矢を慎重にイメージしたとおり作り出していきます。


 結果として、僕の背丈よりも長い矢ができましたが……まあ、いいでしょう。


 そして、それを発射すると普通の弓矢や魔法なんて目じゃないほどの高速で飛んでいって的を破壊。


 その後ろの木にはじかれて宙を舞い、地面を転がっていきやがて消え去りました。


 それと同時に、僕の方にも立ちくらみというか、めまいが……。


『創造魔法の使い方は合っているわ。ただ、自分の魔力量を適切に判断できてないのが問題ね。魔力枯渇を起こしているわよ?』


「魔力枯渇?」


『体内の魔力を使い果たす、あるいはほとんど使ってしまって気持ち悪くなる現象のこと。〝創造魔法〟ってあなたが考えている以上に魔力を消費するわ。最大魔力も鍛えていかないとね』


「……魔力を鍛える方法なんてあるのでしょうか?」


『いくらでもあるわよ? 魔法を使っているだけでも勝手に伸びていくし、私が食べさせている〝神樹の果実〟でも増えている。あとは……どんな方法があるのかしら? ともかく、いろいろあるらしいわ。明日からは無理をしない範囲で魔力も鍛えましょう』


「はい、メイヤ。それにしても……僕の矢、周りの木によく刺さらなかったですね?」


『ああ、それ。この神樹の周囲って結界で覆われているの。だから望まない限り勝手に外に出てもいけないし、助けが必要だとか中の住人に招かれただとかそういう理由がないと入り込むことすら不可能よ?』


「……それってすごいことでは?」


『そもそも、この神樹だって必要な者からしか見えないわ。近づくことだってできないし、ここは私の聖域よ。もちろん、シントの聖域でもあるけどね』


「僕がそんなすごい場所に住んでいていいのでしょうか?」


『気にしない気にしない。多少は魔力枯渇の症状が治まった?』


「少しは、ですが」


『じゃあ、神樹の根元に行って一眠りしましょうか。そうすれば夕暮れ頃までには回復するでしょうし。そのあと、夕食を食べたら水浴び用の泉でも作りましょう』


「……臭いますか?」


『私は匂いをあまり感じないから知らないけど、髪とか泥だらけよ? きちんと洗った方がいいわ。石けんとかも用意してあげるからじっくり洗ってきなさい』


「石けん?」


『まあ、汚れを綺麗にするためのものだと思えばいいわよ。とりあえず、戻って休憩ね?』


 最後はごまかされた感じがしますが、休憩したいのは事実ですので神樹の元に戻って一眠りしました。


 そして、目が覚めたあとはメイヤの出した木の実で夕食を食べ、メイヤの教えてくれた内容をイメージしながら創造魔法を使って水浴び用の泉を作ります。


 そこでメイヤから〝石けん〟というものを渡され顔や髪、体などを念入りに洗っていきましたが、ここで大きな変化に気がつくことに。


 茶色だったはずの僕の髪と瞳が緑色に変わっていました。


 メイヤならなにか知っていそうですが、まずは体を綺麗に洗い流さなければ……。


 体を洗い終わったあと、服と靴を置いておいた場所まで戻れば真新しい服と靴も用意されており、なにがなんだか……。


 とりあえず、メイヤの元に戻って内容を確認しようとしたら「まずは髪を整えましょう」といわれて髪を短く切ってくれました。


 そのあと、髪や瞳の色、服のことなどを聞くとすべて答えてくれましたが、驚きの内容に。


 まず、髪と瞳の色はメイヤとの契約後に変わっていたそうです。


 メイヤの魔力が僕に流れ込んだことによる影響なんだとか。


 服についてはメイヤの知り合いからの差し入れで、着替えように10着以上用意してくれているとのこと。


 会ってお礼がしたいといっても「彼女、まだ会う勇気がないから」と言って会わせてくれませんし、いつか会えるときが来たらお礼を言いましょう。


 ともかく、衣服も住環境も食事も手に入りました。


 僕がこの神樹の主になっていることはいまだに信じられませんが……安全な場所で過ごせることはありがたいです。

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