神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ

第1部 『神樹の里』

第1章 『神樹の里』の始まり

1.神樹の求め

「出ていけ! お前は2度と姿を見せるな!!」


「はい。お世話になりました……」


 ボクの名前はシント。


 とある国の辺境にある田舎村に暮らしていた13歳の少年〝でした〟。


 先ほどの会話にもある通り、僕は口減らしのため村を追い出されてしまい行くあてもありません。


 この国では5歳になると『聖霊の儀式』と呼ばれる儀式を受けることが義務。


 その際には、自分の授かることのできるスキルを知ることができる『聖霊の書』もいただくことができます。


 その中には自分の限界を知ることができる〝スキル限界値〟と、各種スキルに応じた〝スキル消費値〟も書かれていました。


 ただ、僕の『聖霊の書』には〝創造魔法〟という魔法のみがのみが記されているのみ。


 更に、その魔法が〝スキル限界値〟まで消耗しているためにほかのスキルを覚えることすらできません。


 ほかの子供たちは何らかの役立つスキルを覚える中、僕ひとりだけがよくわからない魔法を授かってしまったようです。


『聖霊の儀式』を授けてくださった神官様もお帰りになってしまい、僕は途方に暮れるしかありませんでした。


 そのあとも、〝創造魔法〟というものでなにかができないかを試し続けましたがなにもできず、野良仕事や自警団の仕事を手伝ってもスキルを覚えてない僕ではろくな働きができません。


 そして、遂に13歳の春になった今日、僕は村を追い出されることとなりました。


 この村から次の村までは行商人の馬車で2週間以上かかると聞きますし、僕には携帯食ひとつ与えられていません。


 実質的な死刑宣告です。


 それでも、生きることを諦められない僕は村が見えなくなったところで森に分け入り、食べられる果物を探し始めました。


 ……もちろん、そんな簡単に見つかるはずもありませんでしたが。


 ただ、もう3時間は森の中をさまよっているのに野生動物に一切出くわしていないような?


『……こっちよ』


「うわっ!?」


 突然森の奥から聞こえてきたささやき声で大声を上げてしまいました。


 ですが、それでも森に変わった反応はなく、虫の音や風が木の葉を揺らす音などだけが聞こえてきます。


『こっちへいらっしゃい』


「こっち……」


 森の中で誘われるというのはあまりにも不自然な話です。


 でも、なぜか邪悪な感じはしないし、行って見ることにしました。


『そうそう、こっちよ。ああ、でも、そこは川になっているわ。右手側に浅く緩やかな流れになっている場所があるからそこを通りなさい』


「……ありがとうございます」


 時折、このように声に導かれるようにして危険な場所を避けながら、夕暮れ時には森の中にある大きな広場へとたどり着きました。


 その広場には特になにもなく……ああ、いえ、広場の中心に僕の背丈よりも低い新木が1本だけ立っています。


 この木が弱々しいながらも薄い光を発しているのですが……これは一体?


『よく来てくれたわ。ねえ、あなた、〝創造魔法〟の使い手よね?』


「え? よくそれがわかりましたね?」


 ここまで聞こえてきた声の主はこの木だったようです。


 それにしてもどうして僕が〝創造魔法〟の使い手だなんて……?


『ごめんなさい。私はいま、自分の形を保つのだけで精一杯なの。〝創造魔法〟をかけてくださる? そうすれば一気に生長することができるはずだから』


「生長できる? 僕の〝創造魔法〟は、いままで一度も……」


『それは正しい使い方を知らなかっただけよ。あなたが私を助けてくれるなら、いろいろと〝創造魔法〟の正しい使い方も教えてあげる。悪くはない取引でしょう?』


「……まあ、そんな取引をしなくても〝創造魔法〟くらいでよければかけてあげます。役立たずな僕にできる最後の貢献だと思えばお安いご用ですから」


『あなた、自己評価が低すぎよ? とにかく、〝創造魔法〟をお願いね』


「はい。〝創造魔法〟発動!」


 僕の中から虹色のきらめきがあふれ出し、新木を包み込み始めました。


 すると新木が先ほどの言葉通り一気に生長をし始めて、気がつけば天をつくほどの巨大な樹になっています。


 一体これは……?


『ふう、ありがとう。これで私もようやく実体を持てたわ』


 そう言いながら樹の中から姿を現したのはひとりの女性。


 深緑の髪に深緑の瞳、肌の色は噂に聞く白磁というもののように白く、服装は……ワンピースのドレスにも似た豪華なものでした。


 この方は一体どなたでしょうか?


『さて、初めまして。私はもうあなたの名前を知っているのだけど……一応、聞かせてもらえる?』


「え、あ、はい。シントと申します」


『そう硬くならなくとも大丈夫よ。私は……この神樹に宿った聖霊ね』


 聖霊様!?


 あの伝承にしか聞かないという!?


「これは、とんだ……」


『かしこまらなくてもいいわよ。シントは私の契約者になるのだから』


「は?」


『わかりやすく言うと、あなたは聖霊の主になるの。これはもう決定事項だから変えられないわ』


「ええと、私が神樹の聖霊の契約者に?」


『そうよ、あなたにはその資格があるもの。とりあえず、名前をくださる? それで契約成立よ』


 困りました。


 いきなり契約、それもこの世界でもっとも格の高い聖霊様とだなんて!?


『気がついていないかもしれないけれど、あなたの体は魔力枯渇寸前なの。早めに治療のための木の実を食べてもらわないと大変なことになるわ』


「えぇっ!?」


『そういうわけだから急いでね?』


 ええと、樹の聖霊、モクジュ、は失礼、ジュモク、も一緒。


 あとは……ツリー、もだめ、ユグドラシルは幼い頃に絵本で読んだ世界樹の名前だし……。


 ああ、あれにしましょう!


「神樹の聖霊様。それでは〝メイヤ〟はいかがでしょうか?」


『わかったわ。いまより私はメイヤ。この『神樹の里』の管理人ね』


「神樹の里?」


『いまは、私の力で作った木の実をいくつか食べて眠りにつきなさい。いろいろな魔法の使い方は明日にでも教えてあげるから』


「ありがとうございます、メイヤ様。ありがたくいただきます」


『メイヤ、でいいわよ。あなたの聖霊なのだから。口調ももっと砕けた表現で』


 言葉遣いだけは他人ににらまれないためにどんどん丁寧になっていって抜けなくなってしまいました。


 ですが、メイヤはそれもお気に召さないようですね。


 この場だけは乗り切りましょう。


「ええと、メイヤ。ありがとう。これでいいかな?」


『はい、よくできました。それじゃあ、お腹も空いているでしょう? この木の実、食べられる分だけでいいから食べてね』


 メイヤが渡してくれた分の木の実は多種多様な色をした木の実で……メイヤが「これは先に食べなくちゃだめ!」と指示されたもの以外は食べられる分だけを食べて明日の朝食にします。


 メイヤの話を信じれば、この広場には野生動物やモンスターと呼ばれる凶悪な存在は入ってこられないんだとか。


 ともかく、もう疲れて動けそうにありませんし、今日はこのまま一眠りですね……。

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