第52話 ヒロイン~その裏側2
なぜか、断罪イベントも悪役令嬢の一人勝ちで終わってしまった。ヒロインは私なのにイベントが狂いまくっている。腹立たしく思った。
しかし、どうにかエルウィンルートに入れそうだ。ただ彼は少し傲慢で、リュカより出来が悪いのが気になる。
それとリュカには失脚してもらわなければならない。フェリシエルが私より上の地位にいるなど耐えられないからだ。だから、王宮に忍ばせたうちの手の者を使って、ジークを逃がすことにした。王妃が味方だから、王宮には随分と融通が利くのだ。
自分の手を汚すのは嫌だし、フェリシエルが消えてくれればすべて解決する。だから、ジークがフェリシエルを連れ去るなり殺すなりしてくれればいいのだ。あの女にはさっさとバッドエンドに行って欲しい。
噂によるとジークは人の姿に戻れないらしい。そのジークと結ばれるだなんて、悪役令嬢らしいエンディングだ。
♢
王宮の地下牢から逃がしたジークをベネット伯爵家で匿った。上手くリュカが失脚して、エルウィンが次期国王にという事になれば、レスター家に恩も売れる。その時はファンネル家は没落していることだろう。家が後釜に座ればいいのだ。
数人の供を連れ、夜陰に紛れ、王子一行が視察で滞在する街へ馬車を走らせた。
王都に比べえるとここらあたりは田舎だ。夜は早い。盛り場以外は寝静まった街の片隅で、私たちは、フェリシエルが泊まる宿を見る。
質素で驚いた。公爵令嬢のくせにこんなみすぼらしい宿屋に泊まるなんて。初めてフェリシエルに違和感を覚えた。転生者? しかし、彼女はフラグを折るような行動はとっていない。おかしいのは彼女をちやほやする周りだ。それにこんな宿を選ぶ第一王子。どうかしている。
「それで、どうするつもりよ?」
イラつきながらジークに声をかける。見張っているばかりで動こうとしない彼に私はしびれを切らした。
「それが、お前の地なのか?」
オオカミの顔から、不快そうなくぐもった声が漏れる。見事なライカンスロープだ。もうジークに敬称も敬語も必要ないだろう。彼は人であることをやめたのだから。
「そんなのどうでもいいじゃない。フェリシエルが欲しいのでしょ? さっさと攫いなさいよ」
「うるさい女だな。今、俺の仲間が集まるのをまっているのだ」
「仲間?」
「ふん、貴様の耳や鼻ではとらえることは不可能だ」
オオカミの獣人風情に馬鹿にされてカチンときた。
「あらあら、すっかり獣ね。その仲間とやらを引き連れてさっさとあの女をどうにかなさいよ」
「お前ちょっとうるさいよ。俺はリュカを確実に仕留めなくてはならない」
「は? 話が違うでしょ? フェリシエルを攫ってにげるのではないの?」
「冗談だろ? リュカも仕留めて、フェリシエルを奪う。そうじゃないと地の果てまで追われそうだ。あいつは執念深いから」
獣人になって、知能まで低くなったようだ。
「ちょっと待ってよ。話が違う。王子殺しは大罪よ? やるなら私がいないところでやって」
勝手なジークに腹が立って、怒鳴りつけた。
フェリシエルの悲惨なエンディングは見届けたいが、自分の身を危険にさらすのは嫌だ。もうすぐエルウィンと婚約して次期王妃になる予定なのだから。
踵を返そうとしたその時、ふいに風をきる音が響き、目の前でひらりと何かが一閃した。ぐるりと視界が回り、気付くと、ごろりと地面から、ジークを眺めていた。彼が血濡れた剣を握っている。
「うるさいよ、お前。それでもう喋ることもない」
え? あら? どうなったの……首落とされた? 私ヒロインだし、とりあえず時間巻き戻るわよね?
その瞬間地面に五芒星が走った。魔術が発動する感覚を残して、私の意識は途絶えた。
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