第50話 ヒロイン~その裏側1

 何もかもうまくいかない。それにこのままリュカの攻略を続けてもいいことはない。王妃はどうあっても第二王子エルウィンを次期国王に据えるつもりだ。


 それにジークの様子が最近おかしくなってきた。フェリシエルに執着しすぎて、リュカが邪魔になってきたようだ。ゲームでの二人はとても仲が良かったのに。


 あの王子はどちらかというと自分の護衛のエスターやモーリスといった連中と親しくしている。序列ではモーリスよりジークの方が上だし、ましてや護衛と仲良くして何の得があるのというのだろう。意味が分からない。


 しかもレスター家は国王と懇意にしている。付き合っておいた方が絶対得ではないか。リュカは、仕事は出来るが政治にはうとい馬鹿なのかもしれない。きっと、それがゲームとの違いだ。ならば、あいつが転生者か? いや、それならばなおさらフェリシエルを避けて、ヒロインである私を選ぶはずだ。絶対に転生者であるはずがない。



 そう、不思議なのはフェリシエルとの関係だ。あの女は多分ゲームの通りの性格。それなのにフェリシエルとリュカはとても仲がいい。入り込むすきがないのだ。どうしたらいい? そのうえジークはフェリシエルに夢中で私には見向きもしない。


 モーリスでは少し社会的地位が弱いのだ。悪役令嬢より下など絶対に嫌だ。ならば、エルウィンでいくか。なぜか、ゲーム内よりも傲慢だが、顔はいいし良いだろう。


 それにしてもゲーム内では兄弟仲がよかったはずなのに、この世界では彼らは仲が悪い。といってもエルウィンがやたらリュカに対抗心をむき出しにしているだけなのだが……。いったいどういう事なのだろう。どこかに転生者がいて干渉しているとしか思えない。


 私が、エルウィンを選んだ時点で惜しいがリュカは終わりだ。あいつは失脚する。そしてエルウィンが次期国王となる。まあ、今回は仕方ない。

 それにしてもフェリシエルが邪魔で腹が立つ。前世のあいつを思い出す。すぐに正論を吐く女。



 エルウィンと親しくなるのは簡単だった。以前から彼は私に興味を持っていたようで、恋仲になるのは早かった。王妃は最初、リュカからエルウィンにあっさり乗り換えた私を良く思っていなかったようだ。


 私も馬鹿ではない、王妃の考え位気付いている。ファンネル家とリュカの婚約を破談にさせるため、私を使ってリュカを篭絡させようとしたのだ。まったく親切ぶって腹が立つ。利用されただけではないか。


 しかし、エルウィンが私を気に入った今では、表面上は可愛がってくれている。腹の底は分からないが、エルウィンが私を選べば、王妃は何もできない。


 突然、王宮の王妃の私室に呼び出された。何の話だろうと私は警戒した。


「私ね。あなたとエルウィンの仲を認めるわ」


 そう言うと優美に笑う。別にこの女の許可などいらない。所詮小物だ。


「でもね、あなた最初リュカに夢中だったわよねぇ。だから応援してあげたのだけれど、残念だわ。無駄になったわねえ。

 エルウィンのこともそのうち捨ててもっといい殿方にいくのではなくて? ちょっと心配なのよ」


 当たり前だ。なぜ、この女に義理立てしなければならない。エルウィンに乗り換えたのはあくまでも次善の策だ。本当はリュカがよかった。


 「まさか、私はエルウィン様をとても大切に思っています」


 私は瞳を潤ませて王妃に訴える。


「そう、ならちょっとエルウィンのために役に立ってくれないかしら? そうしたら、あなたを信じられるのだけれど」

「はい、ぜひ」

「そう、ちょっとファンネル家とリュカがこのまま近づくと困るのよ。だから、フェリシエルには退場してもらおうかと思ってね」


 それならば大賛成だ。でも、そんな事出来るのだろうか?出来ればまたリュカに乗り換えるだけだ。しかし、王妃の捨て駒になる気はない。


「まさか、ファンネル家を襲撃するのですか?それならば私は荒事にはむきませんので」


「あらあら、そんな危ないことするわけないじゃない。それじゃなくてもファンネル家は警備はかたいし、家の人間は化け物じみていて皆強いのよ。

 王立図書館にちょっと細工をするだけよ。エルウィンを手伝って欲しいの。やはり、あの家で一番の泣き所はフェリシエルだからね」


 計画は愉快なものだった。フェリシエルの上にあの大きな書架を倒すだけ。簡単だ。魔法を使うエルウィンを補助するだけで、別に私が手を汚すわけではない。


「そう、ほんの少しけがをさせるだけでいいの。怖がらせるだけよ」

「はい、それでしたら。もちろんエルウィン様のためですし、喜んでお手伝いさせていただきますわ」


 馬鹿な、あんな書架の下敷きになって助かるわけがない。なるほど、全員が共犯者で裏切りはなしということか。

 バレなければ大丈夫だし、いざとなったら、エルウィンと王妃が企てたことを言えばいい。自分は何も知らなかったと泣いて謝れば済むはずだ。だって、私はヒロインだから。



 書架を倒したあと私たちはすぐに図書館を出た。もちろん変装している。図書館内はパニックで、誰にも見咎められず、簡単に逃げられた。いい気味。


 しかし、次の日、傷ついたのはリュカだと知った。うそでしょ? 彼は目立つ、図書館にはいなかった。フェリシエルと逢引きしていたのだろう。なんて女。こうなってしまったのはフェリシエルのせいだ。

 

 てっきり王妃に怒られるかと思っていたのに、ものすごく褒められた。そして、悪役令嬢断罪のはずの夜会で、私はエルウィンにエスコートされることとなる。嬉しくない。

 そして、リュカとジークがフェリシエルを取り合う姿を見た。本来は私があそこにいたはずだ。


 やはりリュカがいい。どうしても欲しい。


 ジークを使うのはどうだろう。彼がフェリシエルをどこかへ連れていってくれれば解決するのではないだろうか?


 その考えにほくそ笑む。

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