第46話 おかしな茶会1

 ジークがつかまったことによりとりあえず王宮は表面上落ち着きをみせた。しかし、レスター公爵の処分はまだ決まっていない。蟄居状態が続いている。混乱を防ぐためファンネル家の襲撃犯がジークだという事は、まだ伏せられているのだ。


 そしてレスター家の仕事の半分以上はファンネル家が引き継ぐこととなった。だが困ったことに、国王がレスター卿を庇い、お咎めなしにしようとしていた。ジーク一人を秘密裏に処刑して済ませるようにと強硬な態度を示している。それではファンネル家に顔が立たない上に、示しがつかない。伏せているといっても事情が漏れないわけがないのだ。

 

 最近の国王は王妃の影響を強く受けている。王妃はファンネル家の勢力が大きくなることを恐れていた。だから、今ここでレスター家が力を失うと困るのだ。

 上手く恩を売れば、レスター家がエルウィンの後ろ盾になってくれるかもしれない。どうあっても実の息子である第二王子を次期国王にすえたいのだ。このままだと確実にリュカが王位につく。彼が死にでもしない限り。

 


 水面下はどうあれ、王宮は落ち着きを見せている。フェリシエルのお妃教育と茶会は再び復活した。


 そして今フェリシエルは王宮の美しい庭園で、紅茶と焼き菓子を前に途方に暮れている。妃と王子、メリベルはいつも通りなのだが、その横で青年と壮年の紳士がお茶を飲んでいる。参加人数とメンツが明らかにおかしい。


 ってか、この人たち誰?

 

 本来は王子とフェリシエルだけの非公式のお茶会である。政略結婚であるがゆえに親睦を深めるためのものだ。それなのにどんどん人が増えていく。


 男性二人は遠い東の国から来たアルクトゥルス第三王子とアルフォンソ・タラーレン侯爵と名乗った。少し変わった国なのか、何か事情があるのか、アルフォンソは侯爵なのに第三王子の養育係をやっていたという。


 そして黒目黒髪の端整な顔立ちの青年が、なぜか先ほどからフェリシエルを懐かしそうに見る。なんで? 前にお会いしましたっけ? いや、まったく覚えがない。

 フェリシエルがいまではすっかり苦行となった茶会を、頭空っぽにしてやり過ごしていると、隣のメリベルから衝撃的なつぶやきが漏れ聞こえた。


「うそ! 隠れキャラよ。しかも超レア! なにこれ、王子ルート攻略失敗すると出てくるの? きっとそうね。ラッキー」


 なぜ、いままでメリベルが転生者という可能性に思い至らなかったのだろう。フェリシエルは間抜けな自分を叱りつけたい。もう少し早く分かっていれば、話し合いで穏便にいろいろなことを済ませられたかもしれないのに。今ではいろいろ王宮の勢力図がこじれすぎて無理。なによりもメリベルは王妃派だ。


 するとフェリシエルの目の前に王子が手をひらひらさせる。


「はい?」

「さっきから、どうしたんだ。ぼうっとしているよ」


 王子が苦笑する。今日あたりでんちゃん遊びに来ないかな。ぜひとも相談したい。いやいや、でんちゃんに話したからといってどうにかなるものでもないだろう。フェリシエルはひとまず心にとどめておくことにした。


 そうこうしているうちメリベルがアルクトゥルスという青年にべたべたし始める。ロックオンされたらしい。フェリシエルは覚えていないが、彼は見目の良さからいってきっと隠しキャラ的な乙女ゲームの攻略対象なのだろう。


 積極的なメリベルを相手にアルクトゥルスが微苦笑をうかべる。そして、なぜかフェリシエルと王子に助けを求めるような視線を投げかけてくる。なぜ?

 仕方がないので助け舟を出すことにした。


「殿下、お客様のお相手をなさらなくても宜しいのですか」

「ん? 彼ならばメリベル嬢がお相手をしているだろう」

 

 外面そとづら命の王子が今日は冷たい。アルクトゥルスがショックを受けたような顔している。どうも彼はメリベルが好みではないようだ。珍しい。たいていの男性はメリベルが気に入る。国王でさえも。


「母上」

「あら、遅かったわね。エルウィン。まっていたのよ。ねえ、メリベル」


 エルウィンがメリベルの横に腰を掛ける。今日は人数が多くて丸いテーブルを二つ繋げていた。そうあくまでも王子とフェリシエル二人きりのお茶会に、彼らは飛び入りで参加しているのだ。


 それを分からせるために、大きいテーブルがあるのにそちらを使わず、わざわざこういうやり方をする。きっと王子の差し金だろう。彼は芸がこまかい。


 並び順は王妃、王子、フェリシエル、メリベル、アルクトゥルス、アルフォンソ、そして王妃に戻る順番だったが、なぜかエルウィンがメリベルとアルクトゥルスの間に座った。アルクトゥルスは微妙な表情を浮かべる。エルウィンが苦手なのかもしれない。フェリシエルは彼に親近感がわいてきた。



 フェリシエルは同い年のエルウィンが嫌いなのだ。婚約している二人の為のお茶会なのに、このメンツではアウェイ感半端ない。思わず王子がいつも傍らに置いている砂時計を確認してしまった。おかしい今日は砂の落ち方が異様に遅い。

 すると王子に耳打ちされた。


「フェリシエル、笑顔ね。家に帰りたいって顔しないで」


 フェリシエルはあわてて口角を上げ、正面を向く。すると黒目黒髪の青年と目が合った。明らかに助けを求めている。え、なんで? 私、悪役顔でしょ? 


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