第37話 取り巻きミランダは彼女が羨ましい
最近フェリシエルからお呼びがかからない。どうしたのだろう。ミランダは退屈だった。グループ内でフェリシエルの次に偉いのはアストリア侯爵令嬢である彼女だ。それなのに、取り巻きはフェリシエルが招集をかけないと集まらない。
いくら家で茶会をやるから来いと言っても、忙しいと言って誰も来ない。皆次々に婚約者が決まってきているという事情もあるのだろうが、腹が立つ。
子供の頃からジークと結婚するのが夢だった。彼が好きだったというよりも第一王子の次に人気があったからだ。王子はフェリシエルにとられ、また二番目だが、考えて見たら王妃をやらされるよりずっと楽だと思った。それに結婚すれば、皆に自慢できるし羨ましがられる。
アストリア侯爵はレスター公爵家との縁組に乗り気だ。ずっと結婚を打診していたが、のらりくらり
しかし突然三か月前に相手方にことわられた。ミランダは落胆する。きっとメリベルのせいだ。
アストリア卿はレスター家に見切りをつけて別の縁組を探し始めた。ミランダはもうすぐ17歳だ。娘が行き遅れになってしまう。いつまでも遊ばせておくわけにはいかない。
そして、大公の令息三男リカルドに目を付けた。彼ならば家柄にも申し分なく、王族の高貴な血筋だ。箔がつく。
そしてオーギュスト家主催のお茶会で軽く顔合わせをすることとなった。フェリシエルはいなかった。どういうわけか最近彼女は社交の場に顔を見せない。かつての取り巻きはそれぞれの婚約者と共に参加していたのでミランダはイライラした。
フェリシエルがいなければ、髪型もドレスもどうしていいかわからない。うちに来る外商に金をつかませて、それとなくフェリシエルがどんなドレスを作っているのか聞いても最近ドレスを作っていないという。店を変えたのだろうか? 早急に調べなければ、真似をしたなどと思われるのは業腹だから、仕立ての段階で彼女がどんなドレスを着るのか情報をつかまなければならない。
腹が立つことにこの茶会にはメリベルが来ていた。モーリスにべったりくっついている。目障りだ。リカルドならば、まだ見目の良いモーリスの方がよかった。彼はこの国では三番手だが、宰相の息子でとても人気があり、皆に自慢できる。
そしてさりげなく、オーギュスト侯爵夫妻にリカルドと引き合わされた。彼を見てがっかり。髪色は薄茶で瞳は薄いブルーのさえない容姿。家柄以外何のとりえもない。これでは周りに自慢できないではないか。ジークの方が華やかでずっと見栄えが良いのに。悔しい。なぜ、断られたのか。
そのうえ血筋は良いとはいっても彼は三男だ。家を継げない。領地に土地をいくらか分けてもらってそこに暮らすことになるのだろう。彼は王宮に職を持っていないので、王都に来ることもなくなってしまう。
気落ちしながら、彼と二言三言話すとミランダは取り巻き仲間の元へむかう。するとメリベルに声をかけられた。
「ミランダ様、少しよろしいかしら?」
「何の用?」
木で鼻を括るような物言いをする。
「フェリシエル様の噂をご存じですか?」
「噂?」
メリベルに噂話で後れを取っている? ミランダは焦りを感じた。
「フェリシエル様、ジーク様とご懇意にしているらしいの」
「はあ? 何を言っているの、あなた」
フェリシエルはもてない。殿方は優秀で偉そうな彼女を敬遠する。それに彼女は王子に夢中だ。王妃になることこそが彼女の存在意義。
「私、リュカ様の非公式のお茶会に毎回特別に呼ばれますの。その帰りに二人が親し気にお茶を飲んでいるのを何度かお見掛けしましたら」
メリベルがリュカ様などと第一王子を呼んでいるが、それも気にならないほど衝撃を受けていた。
「嘘でしょ!?」
ミランダはすぐにも取り巻き達のところへ突進した。婚約者を同伴していようが関係ない。
「ねえ、あなた達、フェリシエル様とジーク様の噂知っている?」
その問いに皆が目をそらし、言葉を濁した。知っているのだ。ミランダはかっとなった。
「ミランダ、めったなことを言うものではないわ。それからリカルド様のお相手を」
オーギュスト侯爵夫人がミランダを窘めた。
しょうがないので、リカルドの元へいやいや戻った。彼は何かと話しかけてきたが、ジークやモーリスのようにウィットに富んでいないのでつまらない。ミランダはうわの空で彼の話を聞き流す。
さっきメリベルは何と言っていた? 王子の非公式のお茶会に呼ばれるということは、王子はメリベルが気に入っているという事なのだろうか。だとしたらフェリシエルは王子と上手くいかなくて、ジークに乗り換えた?
ずるい。あんまりだ。ジークが彼女を相手にするとは思ってもみなかった。フェリシエルは勝ち気でつんとしていて、殿方相手に平気で意見する。可愛げがないと言われていて、たいていの男性は敬遠する。それなのに……。
なぜいつもフェリシエルばかり、いい思いをするのだろう。子供の頃からずっとそうだ。
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