破滅予定の悪役令嬢はもふもふに癒されたい!~砂時計と危険な王子様
別所 燈
第1話 稲妻と令嬢
「おのれ、絶対に許さないわ!」
公爵令嬢フェリシエル・ファンネルは柳眉を逆立てた。なぜなら伯爵令嬢のメリベル・ベネットが、第一王子に媚を売るからだ。
何度注意しても彼女は聞き入れない。それどころか大きな瞳に涙をためて「誤解です。私はそんなつもりではありません。ただ殿下が……」などと悲劇のヒロインぶる。
「小賢しいっ!」小さく呟き、フェリシエルはかつかつと靴音高く王宮の廊下を歩く。
テラルーシ王国第一王子であるリュカ殿下はフェリシエルの婚約者だというのになぜ分からないのかと憤慨する。
もう一度きつく言い聞かせておかなければならない。豪奢な金髪を振り乱し、自慢の縦ロールを振り乱し廊下を闊歩する。ブルーの瞳から怒りの波動が迸った。
そんな嫉妬に狂った彼女の形相をみて、城の回廊では使用人たちのみならず下位貴族たちもが、慌てて道を開ける。
傲慢と有名なファンネル公爵家令嬢の怒りに触れたくないのだ。
外はおりしも雨がふり、ぴかりと雷が落ちる。これからメリベルとの対決かと思うとフェリシエルの気持ちは高揚した。
中庭に激しい雨が降り注ぐ。雨に打たれいた庭園の花々は花ビラを散らせる。
バラの散り際は美しい。
「ほーほほほっ!」
彼女は荒ぶる気持ちを哄笑に変えた。
先ほどから雷雲がゴロゴロと不気味な音を立て続けている。あたりは水気をたっぷりと含んだ不快な空気に包まれた。その瞬間、閃光が迸り、ひと際大きな落雷が庭木に落ちる。そばにいた彼女もうっかり通電してしまった。
憐れファンネル家の令嬢はしばらく体をぴくぴくさせた後、金髪を焦がし廊下に転がった。
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