白くFLASH

エリー.ファー

白くFLASH

 爆撃音の中で叫び声が聞こえた。

 関係ないが。

 私は七人ほど殺した感覚がある。

 実際は千人を超えているだろう。

 圧倒的火力からなる散っていく命が見える断頭台。沼地である。きっと誰も気づいていないのだ。死んだことも、殺されたことも、生きていたことも。

 それは安らかな死そのものなのか。

 自作自演による、俗塗れの演劇か。

 私には関係ない。

 仕事をこなす。

 早く家に帰る。

 犬に餌を与える。

 そして。

 あのベッドで寝る。

 私には帰る場所がある。

 ここではない。こんなところで死にたくはない。

 呪いをその身に浴びせるために、言葉を脳に焼き付けたのだ。その延長に教育を置き、間を埋めるための日常を積み重ねた。

 分かりやすく遅くなった。

 しかし、ここから先の人生に後悔はない。

 この物語に、迷いはない。

 砲弾、銃弾、爆弾。

 飛び交うこの戦場で。

 散っていった命の形をこの目に焼き付けて死ぬ。

 後悔はない。

 何もかも、失われた世界で。私の中には存在する確固たる世界の中で。妄想と現実の狭間にはない血塗れの世界の中で。

 今日も誰かを殺すために、自分の命を燃やす。

 時計の針の音も、聞こえなくなってから始まる。

 心臓の鼓動。

 生きているはずだ。こんなにもリアルなのだから。絶対に生きて帰れるはずだ。こんなにも帰りたくないのだから。

 死体が宙を舞う。人権などとっくの昔に放棄している。しかし、それ故の自由である。もう思考もないのだ。羨ましい在り方だ。まさに至高。

「そこにいたら撃たれるぞ」

「分かっている。でも、もういいんだ。疲れたんだ。いつまでこれをやらなきゃいけないんだ」

「死ぬぞ」

「死にたいんだ」

「生きて帰るんだろ。お前だってそうだろ。俺だってそうだ」

「どうせ、生きて帰れる」

「どういう意味だ」

「死ねないんだ」

「は」

「死ねない。死のうと思っても死ねない。殺すばかりだ。死体ばかりだ。積み上げてばかりだ」

「何を言ってる」

「何もかもがそうだ」

「お前、おかしいんじゃないのか」

「殺すしかない」

「誰をだよ」

「殺す以外に関われない」

「頭を冷やせ。ここじゃ危ない」

「思い通りに殺すだけだ。不幸にするだけだ。成し遂げてしまう」

「話ならあとで幾らでも聞いてやる。でも、ここは危ない。お前には自分を顧みる時間が必要だろう。でも、今じゃない。このタイミングじゃない」

「何故だ」

「何故って、俺をよく見ろ」

 男の腹部はそのほとんどが吹き飛んでいた。血がしたたり、破けた皮膚から肉が見えた。

「今は、その能力で歩き続けてくれ。頼む、蹂躙してくれ。破壊したいならそうしてくれ、殺したいなら殺せばいい、打ち砕きたいなら、精神的に叩き潰して自殺させたいならそうすればいい。大丈夫だ。いいんだ。そうしてくれ」

「どうして、そんなことを言う」

「今まで口に出さなかっただけで、皆、それが見たいんだよ。何かがぶっ壊されて、何者かがぶっ壊して、何もかも壊されて、零が続く。そういう景色を見たいんだ。そこに、お前が立っていて欲しい」

「何故、私なんだ」

「何故だと思う」

「分からない」

 男は静かに消えていく。

 私の傷はすべて塞がっていた。

「教えてくれ」

 男の口元が歪む。

 笑っていた。

「お前が、天才だからだよ」

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