【第十二天 雨(ユウ)】
「ん……っは!
「おや、お目覚めのようだね。
薄暗い部屋に光が入る。目の前にいたのは例の人だった。小銭を拾い、肉まんをくれた人。
体は縄で縛られていた。
周りを見てみると、廃墟のような場所だった。石でできた床と壁。ドアや窓があったであろう空間。建物の形や様式からみて、ここはどう考えても北海道じゃない。ましてや俺の生まれた世界じゃない。
「ここはどこだ」
「華仙境のどこか、とでも言っておこうかな。本当は拠点に帰りたかったんだけどねぇ。君のお仲間のせいでここから出られないんだよ」
「仲間……?」
“ゴンッ!!”
外から轟音が聞こえた。俺らがいる建物も揺れて、埃が落ちる。振動と破壊音は次第に大きくなっていった。なにかが近づいている。それだけはわかった。
縄が解けないか試してみる。しかし、びくともしなかった。足もピタッと揃えられて縛られていた。これじゃあ立とうにも立てない。
「目的は……俺を捕まえてどうするつもりだ。なんで俺の名前を知っていたんだ」
「あれ?
足と傘を鳴らして歩く。寝ている俺の近くまで来て、傘の先を使って顔をぐっと下から押された。この人の顔が見えるように無理やり。
「それじゃあ教えてあげよう。君の役割を」
じとっとした汗が額から流れる。
「君は……」
“おりゃぁぁぁぁあ!!!”
石の天井を破ってなにかかが落ちてきた。いや、だれかと言ったほうがいいかもしれない。漂う気は身に覚えがあった。
「
「ゴッホゴホ……
「説明はあとだ! 逃げるぞ!!」
小刀を使って、手際よく縄を切る。粉塵が立ち込めるなか、この部屋から脱出した。
外に出ると周りには高い塀が築かれていた。後ろを振り返るとさっきまでいた廃墟のが見えた。瓦屋根の小さなお寺みたいだった。山の窪地に作られたこの場所は塀が意外にも山で守られている。
外で待機していた
「どうしてこの場所がわかったの」
「陛下の能力だよ。華仙境にお前が入った地点がおかしいのに気づいたんだ。甲級結界師も他のみんなもいる。絶対に帰るぞ」
上を見上げると半透明の紫色をした結界がこの寺院を囲むように作られていた。敵はあいつひとりだけではないらしく、四方八方から戦闘の音が聞こえる。
一般的に結界を解けるのは結界師だけ。中にいるものは陣を使っても抜け出せない。逃げる選択肢はなく、必然的に戦う。
「見えた! あそこだ!」
“ピー”
山岳用の笛のように、けたたましい高音が鳴った。これが撤退の合図。他のメンバーが一斉に集まってくる。同時に結界も解除された。
「
「感動の再会はあと、みんな陣に入って!」
走る勢いをころさず、陣に向かって走る。全員が通れるほど大きな陣は初めて見た。これなら大丈夫……。
「逃がさないよ!!」
上空から傘を構えて襲撃してきた。
——間に合え……! あともうすこし!!
心臓はとっくに限界を迎えていた。ひとり、またひとりと陣をくぐる。俺も追いつけと必死で足を回す。
あとちょっとだったんだ……。
“ポタッ”
赤い血が流れた。俺じゃない血を全身に浴びた。
「早く……行け……!!」
結界師の人の背中から傘が突き出ている。自分を犠牲にして俺を助けてくれた。至近距離だったため、顔がよく見えた。それは中元節で持ち場に行かせてくれたあの人だった。
足がすくんだ。恐怖で一歩も動けなかった。早く行かないとこの人の犠牲が無駄になる。早く……動け……!
「俺に……任せとけ!!」
“ブオン”
陣符を背中に貼られた。その瞬間、足が軽くなった。
判断は早かった。脱出用の陣に向かって全力で走った。本当はなにかあの人に声をかけたかった。ありがとうでも、すみませんでもない。もっと違う言葉な気がしかけど、出てこなかった。命の恩人の最期にかける言葉が見当たらなかった。
「しぶといなぁ」
「ぐはっ!」
傘を抜いて、そのまま頭を殴られて倒れた。それでも歩き出す敵にしがみついた。
「びびってんのか……結界張るぞごら」
最期の足掻きのお陰で陣をくぐれた。他のメンバーも全員入り、残されたのは彼だけだった。陣の奥から狂ったような高笑いが聞こえた。死ぬというのに、清々しい声だった。
そして、陣の接続が途絶えた。
◯
帰ってきたとき、受付にいる結界師が泣いていた。声を押し殺して、すすり泣く声が頭から離れない。
——俺のせいで……。
俺らは陛下の司令で、そのまま王室へ急いで向かった。返り血が床に落ちるのも気にする暇はなかった。
扉を開けて中へ入る。いつもの礼儀をしようとするのを陛下がとめる。横一列に並んで陛下と向き合う。
「まずは
災害、それは
それだけじゃない。それに巻き込まれた人も死ぬ可能性だってある。それを救えるのは俺ら気象師しかいない。
「任務にあたるまえに、
陛下の意図は読めた。敵が俺を狙っている状況で任務に行くかどうか。もしまた攫われても、助かる保証はない。殉死者が出るかもしれない。それなら蓬莱仙国に隠れているほうが迷惑はかからない。
感情に任せないで、しっかりと頭で考える。俺ひとりのわがままでみんなを死なせられない。
答えはまとまった。これでどんな結果になっても後悔はない。
「行かせてください」
気象師として、兄としての責任がある。ここで怖気付くほど、やわじゃない。たくさんの人が繋いでくれた命を無駄にしないために、俺は俺に意味をもたせる。
陛下はにっこりと笑うと、すぐにスイッチを切り替えた。
「石狩地方で大規模なゲリラ豪雨が発生。冠水、停電の被害報告あり。また、札幌中心部で落雷を検知。第零班につぐ、総員で対処せよ」
「「御意!!」」
◯
“分厚い雲に覆われて夜のように真っ暗です!”
“緊急避難警報発令中です。以下の地域の住民はただちに避難してください。江別市、千歳市、恵庭市、北広島市、札幌市中央区……”
“見てくださいこの風! 傘をさすこともできません!”
“強い竜巻だと毎秒一〇〇メートル近い風が吹くのですが、これは僕が飛ぶくらいの強さです”
“速報です。警戒レベルが四に引き上げられました。速やかに避難してください。繰り返します……”
血塗れの服を脱ぐ。戦闘服を身にまとう。緩みがないか確認する。仙器を腰に入れる。
“パチン!”
両手で顔を叩いて気合いを入れる。もう俺はお荷物じゃない。ここにいる仲間と同じ気象師だ。
「天気の加護があらんことを」
自分の胸に言い聞かせる。責任と期待を背負って。
◯
札幌はまさに地獄だった。道路は冠水してマンホールから水が溢れていた。それのせいでインフラが麻痺し、動けなくなった車があちこちにあった。
駅は帰宅難民と避難してきた人でごった返していた。こっちの天気予報も異常事態に対応できなかったらしい。
「うわー雨すごいなぁ。これぜってぇ
「懐かしいな。それがしが駆け出しのころを思い出す」
「あ、今光った。一、二、三……」
「おい
「え! 距離って光でわかるの! ねぇねぇどうやるの?」
白いオブジェから外に出て、雨が当たらないところにいた。横一列に並んで堂々としているけど、現実だったら相当邪魔。
「雨かぁ……私、役目ある? 膝痛いし」
「じゃあ私たちはお茶でも飲んでましょうか」
「ちゃんと仕事しないと」
雨は止む気配がない。市民に被害がでるまえに討伐しないといけない。いつもは避難する側だったけど、今日は違う。助けて変える側だ。
「いけそうか」
「もちろん、相棒がいるから」
拳をコツンと合わせる。
「第零班、散!!」
それぞれの持ち場について、
その大通を担当するのが俺と
「いたぞ!」
大通に着いて早速
「こ、こんなにたくさん……!」
目で見えた分だけでも十体はいる。それも全員体の構造が異なる。いつもみたいにじっくり観察して弱点を狙う余裕はない。出会ったら即座に倒していく、乱戦の技術が必要になる。
ここにいるほとんどの
「二人一組で行動してください。それでは行きますよ!」
「「おう!!」」
大通を中央で分けて、テレビ塔側を俺ら、反対側を
「ナイス
「
それから一体、もう一体と倒していった。途中で他の
だった数ヶ月だけど、その数ヶ月はだれよりも濃かった。
「
跳躍したあとの落下を狙われた。すぐそこに鋭利な爪が見える。
「せいっ!!」
空中で体をひるがえして切り込み、腕を落とす。すかさず
あっという間に数は減っていった。大通付近にはもういなかった。別の区にまだ残っているが、それもすぐ終わりそう。想像以上になにもかもがうまくいった。攻撃、サポート、連携など、敵に有利な状況を作らせないで制圧できた。
他のメンバーの無事を祈って、残党がいないか確認する。
「いやーさすがだねぇ」
気配もなく唐突に現れた。俺を誘拐したあの男だ。傘をさしながら優雅にベンチに座っている。わざとらしく「感心感心」と頭を縦に振っていた。まるでずっと観ていたような口ぶりだった。
今回は仙器がある。前回みたいなへまはしない。
雨が少し和らいだ。ゆっくり呼吸して、気を溜める。
「へぇーやるんだ。大人しく帰ったほうがいいと思うけどなぁ」
「俺はもう逃げない。お前が何者か知らないけど、どうせ逃げても追われる。それにこの天気がお前の仕業なら、象師の名にかけてお前を倒す!!」
“ピシッ”
男は傘を閉じた。まるでシャワーを浴びるように天を仰ぐ。その異様な光景に首を傾げる。なにが目的なのかわからない。迂闊に飛び込めない。
雨がさらに弱くなったそのとき、ふたりの間に空き缶が飛んできた。
“カンッ”
戦闘開始の合図がなった。お互い一気に距離を詰めて、斬りかかる。ギリギリで避けて、斬りあげる。それもすかされ、腹に蹴りが入る。
怯んで後ろにさがった。それな合わせて傘を突き刺す。
「甘い!」
横から飛び出してきたのは
ひょいっと軽々と避けられて距離を取られた。仙器を持ってたら倒せると思っていた。けどまったく当たらない。ふたりの連撃でさえかわされたり、いなされる。
「
「おじさんたちの相手は私なの」
「ようまた会ったな、洪水女」
「くそが! どけ!!」
仲間が分断されてしまった。さっきまで一緒に戦っていた
「
「人の心配する余裕あるのかい?」
重たい傘の一撃がきた。それを剣で防いだけど、力負けしそうだった。見た目からは想像できないほどの力がのしかかる。このままだと剣が折れるか、力がなくなる。
剣を右にそらして、傘の軌道を右にずらす。相当力が入っていたのか、地面にどさっと突き刺さる。この隙に、一撃を……。
「残念でした」
地面に刺さった傘の先を支点にして、逆立ちした。次の瞬間、傘が開いて足を直撃。バランスを崩した俺にたたみかけるように、逆立ちの勢いを利用して肘打ちする。
「ぐはっ……!!」
* * *
「逃げてばっかりじゃん! ねぇ遊ぼうよ。いーでしょいーでしょ」
でもなかなかそれをさせてくれない。おそらく私の意図も伝わってる。落石が邪魔でどんどん離れてる。変にここで気を消耗したくない。ここなら仙器を使って……。
「させないじゃん」
急接近からの蹴り上げをなんとかガードする。しかし、本命はこれじゃなかった。蹴り上げで飛んだ私の上空には大きな岩があった。ときすでにおそし。重力に従って押しつぶす。
「ゔあぁぁぁぁ!!」
みしみしと体が悲鳴をあげている。岩肌の凹凸が皮膚を抉る。
「もう一個サービスじゃん」
「ゔぅ……あっぁぁ……」
早くなんとかしないと、意識が飛んでしまう。なにかないか、なにかないか……。な……にか……。
「これ、高速回転させたら面白そうじゃん!! それじゃ……」
「チェスト!!!」
急に体が軽くなった。視界が晴れて雨が当たっている。すぐに起き上がって状況を確認する。私を庇うように立っていたのは
彼の手を借りて立ち上がる。少し骨をやられてしまったようだ。呼吸をするたびにズキズキと痛む。こうも雨が降っていると、回復陣が使えない。痛いのを我慢して、呼吸を整えて気を循環させる。
彼の登場からまもなく、ほかのメンバーが集まってきた。あと来ていないのは李朝と
「
「ああ、すまない……」
“ドオンッ!!!”
轟音とともに李朝と
すぐに近寄ってふたりを助ける。呼吸はあるけど意識がない。生々しい傷跡に泥水が入る。
「全然大したことねぇな。肩慣らしにもならなかったぜ」
「あ、
状況は絶体絶命だった。第零班の班員十人に対し、ふたり戦闘不能、三人戦闘中、ひとり負傷。
なにも問題なく戦えれるのが
「人数でゴリ押したほうがいいんじゃねぇか?」
「私もそう思う」
珍しく
能力の知れている
遅れて走ってきた残りふたりは正体不明の男を狙った。
——早く倒して、加勢しないと……!
低空姿勢かと思わせといて、重心を移動させる。首裏に目掛けて裏拳を叩き込む。
「ぐっ!」
怯んだ隙にその場で回転して、顔面を貫くように一撃を入れる。
決まったかと思った。空振るまでは。一瞬の判断でしゃがみ、私らの腹に手を当てた。
「砕岩っ!!」
高密度の高威力の気を放出した。ふたりとも攻撃をしている最中だった。回避をする余裕もなく、吹き飛ばされた。
丹田に近い部分をやられた。手足の損傷よりもここを負傷するほうがまずい。
体に力が入らなくなって……。
「おい
「私に言われても! 術者がいないんです!!」
「あ、あ……」
「しゃべらなくていいのよ。李朝は休んでて」
「あいつに……気を使っちゃだめだ……!!」
「
「
「
雨の音をかき消すほどの爆発が起きた。あたりに爆風と水飛沫が飛んだ。それと
雨はさっきと比べて収まっている。それに比例するように削られる戦力。相手は傷ひとつついていない。
もう少し雨が上がれば、
そんな不確定に頼るのは
「くそ……
頭を鷲掴みにされ持ち上げられていた。
力なくふらふらと揺れていた。ボロボロになった戦闘服が裸でいる。あの傘でなにをどうやったらあんなに傷がつくのだろうか。
“ドクン”
「許せない……」
“ドクン”
「殺してやる……」
“ドクン”
「……」
“ドクン”
* * *
“ブオン”
「この感じ……まさか!!」
身に覚えのある気圧を感じた。その圧力に負けたのか、周りにいた人間がバタバタと倒れた。間違いない。周りの気を異常に吸収して、さらにそれを体内で増幅させる。並の人間がやったら丹田が破壊されて即あの世行き。
これができるのはあいつしかいねぇ。
「
その異名どおり、人とは思えない咆哮が聞こえてきた。離れている俺らでも耳を塞いだ。声が空気を振動させて、空気が気を振動させる。
咆哮が止んだころ、そいつはいた。
全身に炎をまとい、歩いた道に天変地異を起こす。
この姿を見たものはこう呼んで恐れていた。
「
地面を蹴り、真っ直ぐ敵に向かう。雨が降っているのに、蹴られたところの地面に火が残っている。
這いつくばるような低姿勢から、切り裂くようにダメージを与えていく。カウンターやフェイントを多用する戦法が普段のやつだ。対してこれはまさに獣のような動きをしている。そこに戦略もなにもない。
近くに寄って
「こ、これが噂に聞く
「ヴァァァァァァ!!!!」
「くそっなんだこの炎!! まとわりついて離れない!!」
「ガァァゥゥ!!!」
足払いが綺麗に入った。転倒したあいつに馬乗りになった。
「こんなん……勝てるわけ……」
拳を作って限界まで肘を引く。力が貯まるほどに、炎は大きくなった。周りの気温が急激に上がり、上昇気流が生まれる。風はは
あれが
「やめ、やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
“フン”
炎が消えて、
「
「
声に反応はなかった。ただただ馬乗りの状態で固まっている。さっきの戦いで丹田を負傷した場合、十分に気がたまらない。
火力を重視するか、効果時間を意識するか。普通だったらそこを考える。でも
男が起き上がるとパタリと倒れた。
「へ……へへへ……はあ! 気を使い果たして死んだのか。哀れなもんだねぇ」
首を掴んで持ち上げる。
男はボールを投げるように遠くに向けてぶん投げた。
「おい、うちの仲間になにするんじゃ」
投げられた
大通公園の中央、突然現れたのは陛下だった。固有の柄がない戦闘服を身にまとっていた。
自分の上着を脱いでふたりにかける。そのときの陛下の目は慈愛に満ちていた。母親かのような暖かいものを感じた。
「久しぶりだね
「あいつらはわしが始末した。こざかしいまねしおって」
「でも、足止めは成功したみたいだね」
いつも以上に声が低かった。冷静な陛下が拳を握っている。爪が刺さりそうなほど震えていた。
こんな陛下、初めて見た。
* * *
わしの到着がもっと早ければ……。
わしが
わしが保護してたら……。
わしが契約を断っていたら……。
「君の仲間、弱いよね」
「戯言も大概にしろ!!!」
みんなが弱いんじゃない。わしが弱いんじゃ。わしが未熟じゃったから、みなが怪我をする。
「仲間の強さはひとりひとりのつよさじゃない。支え合う力のことなのじゃ。それを絆というのじゃ! 人を信用しないお主に仲間を語る資格などない。それでも侮辱するのなら……」
「この
右手を真横に伸ばして手のひらを外に向ける。臨戦態勢で相手の動きを見る。ちょっとでもふざけたことを言ったら、容赦なく殺る。
あいつは傘を広げて肩にかけた。
「雨が止んだみたいだね。なら降らせてあげないと」
一瞬でその言葉を理解できた。こいつが今やろうとしていることは無差別かつ、非人道的なしろものじゃ。
阻止せねばと近づこうとしたとき、はじかれた。やつの周りに結界が貼っておった。その隙に準備は整ってしまった。地面には巨大な陣が形成されていた。
半径約五〇〇メートル。致死率一〇〇パーセント。範囲内に一滴ずつ雨を敷き詰める。雨の絨毯はそのまま落下する。その雨に触れたものは即死する。服の上からでも、傘をさしていても。陣の内側に入っていれば、例外はなく死にいたるのじゃ。
「全員逃げるのじゃ!!」
と振り返ってみても、全員が陣の中で負傷している。とても逃げれるような状況じゃない。しかたない、わしがなんとかしなければならない。
「まったく、世話の焼けるやつらじゃ」
「陛下! 陛下だけでもお逃げください!!」
横に出した右手に陣を出す。気をためてさらに集中する。普通の術の発動とは違うのじゃ。さらに高次元の陣、いにしえの陣を形成しなければならない。
「人の闇に降り注ぎ……」
——間に合え間に合え間に合え!!
あいつの陣が先に光出した。詠唱から発動まで時間があるといえど、それは急かされてるのと同義だった。
「生命の理を解き放たん……」
右腕に亀裂が入った。いにしえの陣を発動させる代償とでも言いたいのじゃろか。それなら……。
「腕のひとつやふたつくれてやる!」
一気に気を放出させる。大きく広がった陣は地面を突き抜けた。地上に見えている上半分を確認する。間に合うかどうか五分五分。ちょっとでも気を緩めたら全員死ぬ。
——間に合ってくれ……!
間に合ってくれ……。
「
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