モテ期を乗り切るために忍者に弟子入りしたのだが
碧月 葉
第1話 モテ期到来
「コイ……」
『鯉』? 『濃い』? 『来い』? 『故意』?
って感じで色恋とは無縁、部活一筋だった僕。
しかし中学2年の夏、いきなり「モテ期」がやってきた。
月曜日:駅のホーム
「ミステリー、好きなんですか?」
栗色のさらさらロングスレートの女の子に話しかけられた。
夏休み、陸上部の練習は8時半からスタートする。
電車通学の僕は、いつもの時間、いつも場所で本を開いていたところだった。
「あのっ、すみません。みんなスマホなのに、いつも本を開いているから気になって」
彼女は頬を染めた。
こんな可愛い娘にいつも見られていたなんて恥ずかしい。
「ミステリーは、ばあちゃんの趣味で家に沢山あるんだ。読んでみたら結構面白くてハマってる」
「そうなんですね、昔に書かれたものでも面白いものは面白いですよね」
電車が来るまでの時間、僕らは本について話した。
彼女もミステリー好きかと思ったら、この日カバンに入っていたのは『真田十勇士』…… 渋っ。
彼女の名前はモモちゃん。
僕は恋に落ちたかもしれない。
火曜日:近所の河原
「黒柴って可愛いよね」
夕方、我が家の愛犬「サスケ」の散歩をしていたら、薄茶のラブラドールを連れたお団子ヘアの女の子に話しかけられた。
いつもはマイペースなサスケに落ち着きがない。
ラブラドールに鼻ツン、お尻くんくん、そしてぴょんぴょん飛び上がって嬉しそうにしていた。
僕らは、意気投合した二匹を人気の無い河原に放った。
「サスケ、いつもはこんなにはしゃがないんだけど」
「うちの子もそうだよ。ふふっ、じゃれあって楽しそう」
日が暮れるまでの時間、僕らは犬談義を繰り広げた。
彼女の名前はワカバちゃん。
僕は恋に落ちたかもしれない。
水曜日:塾
「すみません。もし2個持っていたら1個消しゴム貸してもらえませんか?」
塾の模試前、単語帳を即席漬けしていると、隣に座っていたポニーテールの女の子が困り顔できいてきた。
僕は奇跡的に新品の消しゴムを持っていた。
「消しゴムありがとう。お陰でなんとか乗り切れたよ。それにしても今日の模試、難しかったよね」
「理科、ヤバくなかった? 気象の観測とか、めっちゃ悩んだ」
「うん、今日の理科は難問揃いだった。化学変化とかも捻った問題だったし」
試験後、僕らは試験のこと、勉強のこと、進路のことを話しながら駅までの道のり一緒に歩いた。
彼女の名前はユキちゃん。
僕は恋に落ちたかもしれない。
木曜日:曲がり角
やわな鍛え方はしていない僕の鋼の肉体は、女の子を弾き返した。
「いったーい! ちょっとどこ見てんのよ」
ショートヘアの女の子がこっちを睨んだ。
走ってぶつかってきたのはそっちじゃないか。
と思って睨み返そうと思ったが、女の子は怪我をしていた。
転んだ拍子に膝をぶつけたらしく、擦り傷と切り傷が痛々しい。
仕方ないな。
「ちょっと見せて」
僕は部活バックから、消毒液を取り出すと、砂と血にまみれた傷口にブシュブシュと吹きかけた。
そして、汚れと血を払い、傷口を綺麗にして絆創膏を貼った。
「家帰ったらちゃんと洗って、もう一度消毒しなよ」
余計なお世話とでも言われるかと思ったが、
「……ありがと」
その子は予想外に顔を赤らめてモゴモゴとお礼を言った。
彼女の名前はヒマちゃん。
僕は恋に落ちたかもしれない。
金曜日:学校
「今年も一緒で良かった、あ、ほら望月くんって真面目に来てくれるでしょ」
花の水やりをしながら、アオイちゃんはふわっと微笑んだ。
ドキンッ
心臓が高鳴る。
夏休みも、花壇の手入れなどの活動があるため、環境委員は人気がない。
誰も手を挙げないから今年も僕が引き受けたら、隣のクラスの委員も去年と同じ子だった。
アオイちゃんは眼鏡をかけたセミロング。
控えめだけれど、仕草が丁寧で優しくてとてもいい子だ。
今年は何だか彼女からの視線が熱い。
僕はここでも恋に落ちたかもしれない。
僕は今、なんと5人の女の子全員と良い雰囲気になっている。
どうすればいいんだ。
みんな同じ位好きで、ひとりを選ぶことなんて出来ない。
こんな悩み、誰にも言えないよ。
僕がもっといれば良かったのに……。
モヤモヤ考えていると、ふと、しょうもない考えが浮かんだ。
……「分身」
父さんが酔った時に言っていた。ウチは忍者の家系だって。
ただの薬屋が何言ってんだって、その時は思っていたけれど、もし僕の中に忍者の血が入っているならば、習えば分身の術を使えるようになるかもしれない。
修行先なら心当たりがある。
昔から通学途中にずっと気になる張り紙があった。
『栖流忍術 宗家 21代 藤木黒斎 ※弟子募集中』
これだけだと、かなり胡散臭いのだが、この紙が貼ってあるのは文化財に指定されていそうな立派な茅葺き門の家で、なんていうか、リアル忍者の匂いがぷんぷんしていた。
部活が休みのある日、僕は意を決して忍者屋敷の扉を叩いた。
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