殺し屋だった彼女、図書館にて

 翌日の昼頃。荷物の整理と銃のメンテナンスを終え、せっかくなので、盗賊のアジトから拝借してきた服に着替えた僕は、図書館の場所を聞くため、昨日と同じフロントの男性に声を掛けた。


「ちょっと聞きたいんだけど、図書館が何処にあるか教えて貰っても良いかい?」


「王立図書館ですね。それなら伯爵様の館の西にありますよ」


 当たり前みたいに話してるけど、そもそも伯爵様のお館って何処…というか伯爵様って誰?


「その館ってのは何処に?」


「あぁ、フウさんはまだこの街に来たばかりでしたか。大通りを北にずっと歩いて行った先、貴族街の突き当りにある一際立派なお家が、伯爵様の館です。その手前の道を右に曲がって、東に向かって下さい。その先に王立図書館がありますので」


 大通りを北に向かって突き当たり、伯爵の館の手前で東、と。


「ありがとう。助かったよ」


「はい、お気をつけて」


 聞いた通りに、大通りを北に向かう。大きな邸宅が並ぶ貴族街を抜け、突き当たりの立派な庭園の館を手前に右に曲がる。

 そして更に歩いて行った先、僕は古代ローマ建築を思わせる巨大な建物の前に立っていた。


 これが図書館か、凄い建物だね。王立なんて言うだけある。入り口は…あそこだ。


「冒険者の方ですか?」


「うん、そうだよ」


「ギルドカードの提示を…はい、確認しました。図書館への入館料は銀貨3枚となります」


 串焼き60本分、入館料けっこうするんだね。


 そんな思いが表情に出ていたのだろう、受付の女性が補足を加える。


「こちらはあくまで担保ですので、お帰りの際に何も問題なければ銀貨2枚はお返し致します。逆に問題を起こした場合、内容によっては、この銀貨3枚などでは済まないと思いますが」


 なるほど、つまりコインロッカーみたいなもんか。


「分かったよ、教えてくれてありがとう」


「いえ、では充実したお時間を」


 女性は終始真顔のまま、そう言って深々とお辞儀をした。


 図書館に来たまでは良いんだけど、無駄に大きいなここ。本も知りたいことが書いてある物を、探すところから始める必要があるね。

 まずは魔法について調べようか。


 僕は入り口からすぐの壁に描かれている館内図を見て、魔法関連の本の置いてある場所を探す。


 えっと、魔法関連は図書館の最奥、と。


 そして遂に、魔法に関する本が置いてあるというスペースにたどり着いた僕の前には、2メートル近い高さの本棚がズラリと並んでいる。その全てに本がギッシリと詰まっていた。

 思わず表情が引き攣る。


「…始めようか」




 大量の本の中から、知りたい内容と関係のありそうな本を探しては読み、探しては読み。そんなことを繰り返している内に、時間はあっという間に過ぎる。

 からくり時計の音にふと顔を上げた時には、太陽は傾き空は赤く染まっていた。


 あぁ、もう夕方になるのか。そろそろ帰らないと。時間はかかったけど、魔法に関する基礎的なことは大まかに分かったし。


 今日本に読み耽り魔法について分かった事は、大きく分けて2つだ。


 魔法が基本、魔力を使って過程を省略することで結果を発生させる術であり、扱うには適正が必要である事。

 ステータスに表示がない魔法は適性がないため使うことが出来ないが、魔導書を使うことで後天的に適正を増やすことも可能らしい。また適正にもランクがあり、それによって最高レベルや上達速度が変わるという。


 そして、魔法を使用するには魔力と想像力が必要である事。

 魔力を集めて、どのような魔法を使うかを想像する。そして、集めた魔力を放つことで魔法は形を成すそうだ。基本的な魔法は、過程を省略する術であるため自分が起こしたい結果を想像すれば良いが、ごく一部の希少魔法に関してはその限りではない、という事も書いてあった。


 加えてこれは全くの余談だが、この世界でも朝と夜に空へ昇る2つの天体を、太陽と月と呼ぶということも判明した。


 全く違う世界なのにも関わらず、太陽と月って名前が地球と共通しているのも不思議な話だよね。まぁでも、今はそれはどうでも良いか。


 魔法の使い方に関しては何となく理解した。けれど、僕に適正があるっぽい3つの魔法の詳細はまだまだだし、特殊能力についても知りたいね。

 明日もここで読書になりそうかな。


 魔法は色々と便利そうだし、早いところ使えるようになっておきたいからね。

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