殺し屋だった彼女、冒険者ギルドへ
「じゃあ、気を付けてなお嬢ちゃん」
「うん、乗せてくれてありがとねー」
無事にグレイに辿り着き、街門を潜ったところで荷馬車のおじさんと別れる。
さて、僕はおじさんが話していた、冒険者ギルドとやらに向かってみるか。
冒険者というのは、なんでも屋みたいなものらしい。貴賤問わず誰でもなることが可能で、雑用から討伐に傭兵までいろんな依頼をこなして報酬を貰う職業だそうだ。
せっかく人の街に来たんだ。僕もいつまでも無職でいる訳にもいかないからね。ギルドがあるのは確か、街の真ん中だったかな。
ふと、香ばしい匂いに釣られて視線を向けた先。匂いの元は、串焼きの露店だった。
そう言えば僕、この世界に来てからまだまともな料理食べてないな。
そんな事を考えた途端、酷い空腹感に襲われる。僕は、引き寄せられるように露店の前にいた。
「おじさん串焼き20本頼むよ」
「20本?その何だ、悪いんだが…あんたそんなにお金持ってるのかい?」
舐めて貰っちゃ困るね。僕は今、ちょっとした小金持ちなんだよ。何せ、盗賊から拝借したお金がたくさんある。
ドヤ顔で腰の袋を開いて、その中をちらりと見せると、店主は目を見開き驚いた。
「なっ?!あんた何で、そんな…まぁ良いさ、金が払えるんなら誰だって客だ。でもあんたそれ、あまり外で出さない方が良いぞ。よろしくない連中に狙われるかもしれないからな」
また、このおじさんも良い人だね。
「なるほど、忠告ありがとね。これからはそうすることにするよ」
「ほらよ、出来たぞ金貨なんていらねぇよ。鉄貨1枚だ」
「そうかい?黙ってぼったくっちゃえば良いのに、律儀だねぇ」
「そんなことするかよ。バレたら信用がた落ちだしな。たくさん買ってくれたんだ、1本おまけしてやる、ほら持ってけ」
袋の中を漁り、金貨銀貨の中から鉄貨を見つけ出し店主に渡す。
「ありがとう。はい、鉄貨だよ」
「おう、また来いよ」
なんだろう、この世界のおじさんは親切だと相場でも決まっているのかな?
よし、じゃあ今度こそギルドに向かおう。
串焼きを頬張りながらしばらく歩いて行くと、だんだん武器や防具を装備している人が周りに増えてきた。ギルドが近付いてきたという事だろう。
それにしても背の高い人が多いなぁ。いや、僕の身長が低くなったからそう感じるのかな?
それからすぐ、10分もしないうちにギルドに辿り着く。その中は、入ってすぐのところに受付けや窓口が並んでおり、奥が酒場になっているようだ。
「ギルド登録をお願い出来るかな」
「新規の登録ですね。登録料は鉄貨1枚となります。試験が明後日にあるのでちょうど良かったです!」
え、試験が必要なの?
「あの、ギルドは誰でも登録出来るって聞いたんだけど」
「あ、いえ試験というのは初期ランクを決める試験ですよ。登録だけなら今すぐに出来ます。ただ明日行われる試験で、ある程度戦闘が出来ると判断されると、EランクやDランクから始められるんです」
ランク?何か、階級みたいなものかな。
そんな疑問が表情に出ていたのだろう。
「あ、ランクの説明はいりますか?」
「うん、お願いするよ」
受付嬢は満面の笑みで、面倒がる素振りもなく丁寧に対応してくれる。
「冒険者ギルドのランクはFランクから始まります。Fランクは見習い期間で、街の中の依頼しか受けることは出来ません。Eランクになると駆け出しと認められ、街の外依頼を受けることが可能に、Dランクからは一端の冒険者として見られる事になりす」
なるほどね、戦いの経験がある者がFランクからスタートするのは非効率。だから最初に試験をする訳か。
「基本的にCランク冒険者からは一流とされていて、Dランクとの間には大きな壁があります。DランクからCランクになれる冒険者は約3割、といった具合ですね」
へぇ、Cってそんな高いイメージがないけど、このランクではそんな事ないんだね。
「Bランク以上になると更に人数が減ります。Cランク冒険者の中でも、Bランクに到達出来るのは1割程度。冒険者ギルドに登録している人は、このBランクを目指している人が大半なんですよ。Aランクは…まぁ、普通の人間到達出来ないランクです、この街にも現在は1人しかいないんですよね。Sランクに至ってはもう次元が違います。世界でも4人しかいません」
まぁつまるところ冒険者はその実力によって、ランクという階級付けされる、という事かな。
「なるほどね。よく分かったよ」
「あっじゃあ、この書類の記入をお願いします。代筆は必要ですか?」
「いや大丈夫かな」
この世界の言語全く知らないはずなんだけど、何故か読めるし会話もできるから、ここに来るまでに見て覚えた文字から逆算すれば、書くことも出来るってね。
書類は、名前と年齢を記入するだけと…本当に登録だけなら簡単に出来るのか。
「えっと名前は、フウさんですね。21歳ですか?!あ、いえすみません、もっと幼…若く見えたので」
受付嬢は驚いた表情で、視線を書類と僕の間で往復させた。
「い、いや大丈夫だよ」
僕の今の容姿はどうも幼く見られるのかな。まぁ別に気にしてないけど…気にしてないけどね!
「では、この水晶に触れて下さい」
「これは?」
「触れた人のステータスを、ギルドカードに登録する魔道具です。あ、ギルドカードに登録されたステータスは、名前とギルドランク、犯罪歴以外は所有者の許可がないと表示されないので、安心してください。ステータスを自分で確認したい時は、カードに魔力を流せば表示されます」
便利なものがあるんだね。でも僕、犯罪歴は…いや、さすがに地球での話は大丈夫か。大丈夫だよね?
水晶に触れて1分ほど経った時、受付嬢が席を立ちバックヤードから何かを持って戻って来る。
「出来ました。これがフウさんのギルドカードです。登録はこれで完了となります。明後日のお昼頃に試験があるので、もし良かったら是非参加してみて下さい」
「あぁ、ありがとう。参加してみるよ」
良かった。やっぱり地球での話は、犯罪歴に含まれないみたいだ。
さて早速自分のギルドカードを確認!といきたいところだけど、こんな人目のあるところじゃちょっとね。宿を先に取るとしようか。
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