東京で生き残った高校生ママ獣女のクロニクル
北島坂五ル
第1章 爪を引っ込める女
(1)痴漢
彼はこんなに近い距離から
そして、彼女はただの年をとった太った
彼女が3駅前に電車に乗って以降、彼は彼女をチェックしている。彼女は彼が今まで見てきたほとんどの人間の女の子よりもさらに美しいのだ。
電車が前の駅で急に止まったとき、彼女の帽子は頭を滑り落ち、頭の上に2つの
彼の目はスカートから出てる美しい長い脚から、彼女が腰に巻くジャケットへと上へと動いていった。その巻かれたジャケットの下からは、時々動く大きなしこりがある。それは彼女の尻尾に違いない。
大企業での生活は苦痛だ。彼が部長でさえ、この仕事は実にくだらない。本部長は彼を汚れのように扱い、部下ですら部長として尊重せず、彼の命令を無視した。そして、家に帰ったとき、唯一彼を毎日待っているのはねちねちと愚痴を漏らす恩知らずの妻と、2人の役に立たない反抗的な子供たち。疲れ果てて意味がなく、無駄……
でも今日は、神は彼の味方だ。彼にこんな素敵で美しい
彼女のジャケットの下の尻尾は少し動いている。
彼は彼女のお尻がこの手にどのような感触を与えてくれるのか、疑問に思わずにはいられなかった。人間の女子高校生のお尻とは異なる感覚を与えるのだろうか?
手にはどんな感触が?一体どのように?彼はその答えを調べる必要がある。
ゆっくり、注意深く、彼は手を差し伸べる……
(2)
しかし、すぐに龍美はその痴漢が今度は別のターゲットを狙っていることに気づいた。彼はその
彼女は同じ高校の生徒だ。龍美は電車の中や学校で何度も彼女に会ったことがあった。彼女は誰が見てもきれいな顔立ちをしている。龍美は彼女のペパーミントグリーンの髪を見るたびに、それが制服の緑のリボンととてもよく似合っていると思っていたのだ。緑のリボンは3年生が着用する色で、龍美より1学年上を意味した。
彼女は無愛想に見えるので、龍美は決して彼女に話しかけようとはしなかった。
痴漢は
どうしよう?!
「……」
何か奇妙なことが起こっている。
痴漢の手はお尻を手探りしているのではなく、不自然な角度で空中に上がっている。
そして、龍美は
獣の足や鳥の爪のようなものではない。基本的にそれは人間の手の形をしているが、指だけが突然より長く、硬く、鋭くなり、白くなった。それらは真っ白で美しい爪だ。そしてとても強そう。
爪は何かをつかんでいるようだが、龍美は爪の中に何も見えなかった。
「ああぁ……」痴漢はうめき声を上げている。
彼のねじれた右の手首が出血している。ほんの少しだが、確かに血だった。
龍美は
ゆっくりと、爪が回っている。
同時に、痴漢の手首が反応しているようで、同じ方向に同じ速度で回転している。まるで二人が奇妙で恐ろしいアーティスティックスイミングを演じているようだ!
いやらしい表情はもはや痴漢の顔にはなかった。彼はショックを受けて怖がっているように見える。
「ああぁ……あああああぁぁぁぁぁぁ!!!……」
(3)
あたしたちは交番に連れて行かれた。
警官はあたしが被害者ではなく犯罪者であるかのような態度で話しかけてきた。彼はあたしがばかであるかのように扱ってくれたのだ。
「……だから、必要以上の自己防衛だったのでは?……聞いてる?」
「はぁ……」とあたしはため息がでた。
「じゃあ、知らないおっさんがあたしのお尻を触ってきても我慢しろっていうの?!あんたが言ってることってそういうこと?」
「いや……」彼はどもり始める。「……言葉に注意を払いましたか?私が言いたいのは暴力が間違っているということ――」
「ちょっと待って、パパ!彼女は何も悪いことしていない!」
あたしは声がするほうに顔を向けると、交番の入り口に立っている栗色の巻き髪の女の子が見えた。彼女はあたしと同じ高校の後輩だ。あたしは電車の中で何度も彼女に会ったことがあった。今日のように。
「龍美……」警官が少女をじっと見つめ、驚いている。「なぜ龍美がここにいるの?」
「パパ、電車の中で何が起こったのか見たの!」
「それはいいですよ、龍美。でも、パパは今仕事をしている……」
「彼女は暴力を使わなかった!」龍美は愚かな父親と向き合う。 「痴漢が彼女のお尻を触ったの。彼女はその痴漢に少しも触れていなかったわ!うちが証明する!」
「もう行っていい?」とあたしは警官に言った。
「息子を迎えに行かないといけない」
(4)
街を素早く歩いているときでさえ、頭の中は愛する息子のことでいっぱい。
息子に会えるのが待ちきれない。
息子とあたしはおばの家族と一緒に暮らしている。毎日学校に行くと、いとこの
スマホで時刻を確認しながら、急いで電車の駅に向かって歩いた。昨夜沙織は、光太郎と沙織の娘、
光太郎!
あたしは走り出す。
「まって!まってください!」
立ち止まって振り返ると、龍美という女の子があたしに向かって走っているのが見えた。
「これ……」まだ息が上がりながらも、彼女はあたしにジャケットを渡してくれた。「先輩は電車の中で混乱してそれを落としていました……」
「……ありがとう」ジャケットを受けとった。「あぁ、さっきは助けてくれてありがとう!」
「ううん、全然!……名前は
「
「撫子先輩は……
「虎だよ」
「ああ、そっか!」彼女はあたしの尻尾を見てうなずいた。「その縞模様!すごいね、
あたしはジャケットを腰に巻いて、尻尾を覆った。好奇心旺盛な表情で、彼女はあたしの右手を見る。
「今は爪はでてないよ」あたしは彼女がはっきりと見えるように右手を持ち上げる。「もう元に戻してるから」
「ええと、撫子先輩、あの痴漢に先輩がしたことについて……」
「あれは『
「えぇ?それなに?」
「あたしたち
ちょうどその時、後ろから黒い車が突然近づいてきて、減速した。
運転席の窓が下がった。
(5)撫子
運転手をちらっと見た。マジうざ。さいっあく!今日は次から次になに?!
「おい!お前に用だ。話がある!」
「あたしはあんたと話すことは何もない!」
「お前の助けが必要だ。車に乗って!」
「あっちいけ!」
龍美に別れを告げて手を振り、あたしは走り出す。
そいつは窓から頭を出した。
「今公園に行ってもお前の息子には会えないよ!」
あたしは足を止めた。悪寒があたしの背骨を駆け下りた。
一瞬にして、あたしは右手を爪に変えていた。
そして、そいつに直面するために振り返って、約5歩離れたそいつの左頬を狙って、あたしは爪を空中で横振で強打した。
サァァツッッッ!
血が噴き出す。そいつの頬に5つの長い引っかき傷がついた。
あたしは前に飛び出し、そしてそいつの首をつかんだ。
「息子に指一本でも触れてみろ、あたしはあんたを殺す!」
そいつはあたしの爪に目線をさげた。
「マニキュア塗ったら綺麗かもね」
あたしは咆哮し、再び爪を強打した。今回はそいつの顔を直接叩いた。さらに5つの長い引っかき傷から血が噴出した。
そいつは全く怯む様子がなかった。
「光太郎に会いたいなら、車に乗って」
(6)撫子
あたしが助手席に座っていると、そいつは顔から出ている血を気にも留めず、運転中に車のスピーカーフォンから電話をかけはじめた。
「俺だ。彼女に電話を渡して」
いくつかのこもったノイズがある。そして――
「撫子!」沙織の声がスピーカーから聞こえてきた。
「沙織姉ちゃん!」とあたしは叫んだ。「どこにいるの?光太郎は無事?!大丈夫?」
「うんうん、大丈夫よ!撫子、彼ら――」
そいつは通話を切断した。
「分かったか?彼らは安全だ。さて、話を始めよう」
あたしはそいつを睨みつける。
「話って何?」
「殺人事件についてお前の助けが必要だ。容疑者は
「あたしは高校生、あんたは警察でしょ」
「その容疑者は俺達には口を開かなかった。だから同じ
「もう少女ではない、母親だ」
「いいよ。じゃあ、ママ
まだそいつを睨みつけながらも、落ち着いてみる。
20代後半のこの背が高くて肩幅の広い警官は、日本の政界で最も強力な家族の1つである
父の
光太郎を妊娠して以来、督川家から嫌がらせを受けてきた。最初、彼らはあたしに中絶をさせようとした。だけど、あたしが彼らの意見を拒否して出産した後、彼らは光太郎を督川家で育てると申し出てきたけど、当然あたしはその申し出を断った。
そして今、彼らは息子をあたしから連れ去った。
光太郎……光太郎!赤ちゃんを危険にさらすことは絶対に許さない!
涙をこらえる。彼はハンカチを手渡してきたが、あたしはその手を振り払った。
「あたし、その容疑者と話す!そしたらあんたは息子といとこを解放して……希々子も!」きっとあたしの姪も彼らに連れ去られたに違いない。
「お前が俺達に協力した後、俺が彼らのところに連れて行ってやるぞ」
彼は交差点で車を止め、信号が青になるのを待った。
「それと……その武器しまってくれないか?」彼はサンバイザーミラーで顔の傷をチェックした。
あたしは爪を人間の手の形に変え戻した。
「ちょっとまって!」周りのなじみのある通りを見る。「どこへ行く――」
「そうそう」信号が青色に変わる。
「俺達はお前の学校に行くところだ」
(7)撫子
督川交は学校の体育館の前に車を停めた。
「ここで誰かが殺されたの?」彼の車を降りるとき、あたしは尋ねた。
「いいえ。ここは殺人現場ではありません。先生の一人、
「死んでいた?重沼先生が?」彼は英語を教えていた。
「お前は彼の学生だったのか?」
「そうじゃないけど、一度だけ代講であたしたちのクラスに英語を教えに来てくれたことがあった。先生は2年生のクラスを担当していて、あたしは3年だから」
体育館の入り口に続く階段をのぼる。もう放課後の時間だった。部活動のために、まだいる生徒はごくわずかだった。いくらかの野次馬が集まってきてこちらを指さしている。
2人の制服を着た警官が入り口に立って警備をしている。その隣には、督川交と同じ黒いスーツを着た
「あれ?ここに子猫が来たね」
「やめろ、
近づくにつれて、その白いものはなにかの網であることがわかる。それはしばらく掃除がされていないような家でよく見る一種の網で、ただはるかに大きく、はるかに密度が高く、はるかに白い……
蜘蛛の巣。
間近で見ると、蜘蛛の巣の下に女性の姿が見え、床に座って顔を膝に埋めている。
「セリンデル・シロアム」と交は言った。「彼女はお前の仲間の学生だ」
「知ってる。彼女は
この高校にはそれほど多くの
「そう。俺がお前をここに連れてきたのは正解だったようだな。俺達は最初彼女と話をしようとしたんだが、重沼先生の死を知ったとたん、彼女は壊れたように逃げ出し、そしてここに身を隠したんだ」
「なぜ彼女は容疑者なの?」
「彼女は重沼と不倫関係を持っていた。知ってた?」
首を横に振る。「あたしたちはあまり関わったことはないから」
「まあ、重沼は結婚していて、セリンデルは未成年だ。さらに、教師と生徒の恋愛はタブー。だから重沼は当然彼女と別れたいと思ったんだろう。きっと別れ話がこじれて激しい喧嘩にでもなったんじゃないかな」
「でも、どうやって彼らの不倫を知ったの?」
「匿名の告発があったんだ」交は微笑む。
彼らはやはり兄弟。
変……
ああ、何を考えてる!?変は今はどうでもいい!光太郎!光太郎を救わなきゃ!
「で、彼女に何を尋ねきてほしいわけ?」
「彼女が彼を殺したのかということ」と交は言う。「どうやってやったのか。詳細が必要だ」
「はは、俺は彼女に自白を強要させることができるぞ」と
「お前のやり方ではない」交はため息をついた。「おい、ここは異世界ではない。日本では、容疑者でさえ権利を持っている」
あたしは蜘蛛の巣の前でしゃがんだ。「セリンデル?
「……」
「聞いて、あたしはあんたを助けるためにここにいるの。重沼先生の死について何か知っていたら教えてください」
「……」
「セリンデル?」
「……それは私のせいです」
「どう言う意味?」
「私のせい。私のせい……」
右手を爪に変えた。爪を突き出して、慎重に蜘蛛の巣に突き刺す。それから、あたしは穴を引き裂いた。
「こっち見て、セリンデル。あたしのほうを見て」
ゆっくりと頭を上げた、目は腫れ、涙の跡のある顔。
目が赤く、肌が非常に白いことを除けば、彼女は普通の人間の女の子と同じようにしか見えない。泣いていたせいか、今は以前よりも目が赤く見える。
「あんたは彼を愛していたの?」とあたしは優しく尋ねた。
彼女は混乱している。「分かり……分かりません」
「大丈夫。いつも答えがあるとは限らないものね」
「……はい」
「さて、今日はどうしたの?」
彼女は躊躇し、髪を掴む。
あたしは微笑みかけた。
「大丈夫よ。何が起こったのか教えて」
彼女はあたしの言った言葉について考えている。
そして、彼女の表情が変わった。
「だめ……」
「ほら、セリンデル――」
彼女はうめき始める。
そして、絶叫を上げている。
セリンデルは頭を抱えて絶叫し続けている。
花火が暴走するように、白い糸が全身から飛び出した。
あたしが引き裂いた穴を突っ込んで、糸は狂ったようにいたるところに行き、拡大した。そして、さらに多く、白い糸はセリンデルの体からどんどん飛び出し続ける。
どんどん。
どんどん。
ほんの数秒で、目の前には息苦しいほどの白さが広がった。
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