第8話 火の女神アフラザード

 商人さんの馬車に揺られて一週間。

 隣の街といっても山を3つも越える必要があったり険しい道を通ったりと護衛が必要な理由がわかる。


 野営の旅に僕の火起こし技能が何度も役に立ったっけ。

 それと浅漬けなどの知識も商人さんに気に入ってもらえた。

 熟成肉の方はまだ形になってないけど、そっちも機会があれば披露したい。


 そして新しい街は前の街に比べてこざっぱりとした印象だった。

 訳を聞けば水路などは地面の下に埋めて表面上清潔にする事で暮らしを豊かにする試みが試されているようだ。

 僕や神様にとっては住みにくい街という印象だが道ゆく人たちは生き生きしているように見えた。


「どうだいエルウィン、俺たちの拠点はいい街だろ?」


「あたし達のクランはこっちよ。今マスターとお話ししてくるわね」


「マスターさんですか? てっきりガントさんがそのマスターさんかと思ってました」


「いやいや俺らなんて下っ端もいいところよ。俺たちもマスターに拾われた口でさ、エルウィンのことを放っておけなかったんだ」


「そうでしたか」


 事情はわからないけど苦労はしてそうだと判断する。


「エル、マスターがお呼びよ。会ってくれるって」


「今行きます」


 サラさんに呼び出されて僕はクランマスターさんと会うことになった。しかしそこにいたのは神様とはまた別種の神様で。


【ゲェ、此奴! 火神アフラザードのお気に入りか!】


【誰かと思ったらファンガスじゃないか。久しいね、一万年ぶりくらい?】


【我を封印し腐った一派のくせして白々しいぞフラン】


【そういう君こそ変わらないねアンジー】


 愛称で呼び合うくらいの仲良しだということは見てとれた。

 しかし口から出るのは嫌悪感のみ。

 会話もまた牽制のしあい。


「こんにちは、エルウィン君だったかな? もしかして彼女の姿が見えたりする?」


「こちらの炎を象った女性のことなら間違いなく」


「それは僥倖だ。僕たちのような天啓持ちは世界では少なくてね、世界中で排斥される傾向にある。よくぞ生き残って僕の元に来てくれた。歓迎しよう、僕は君のような素質持ちを集めているんだ」


【此奴、胡散臭そうな匂いがプンプンするぞ?】


 それって神様が好きな匂いだったりしますか?


【大好物じゃな!】


 たしかにクランマスターさんの言葉を鵜呑みにするのは怖いけど、ここはまだ僕を迎え入れてくれる雰囲気があった。

 前の街と比べたらはるかに居心地がいいと思えるくらいに。

 なんだかんだ喧嘩するほど仲の良い神様達。


 でもガントさんについてくる前は、火神のような上位神は信者がたくさんいるから僕のような眷属を作らないって話だったのに、どうしてこの人は火神様と意思の疎通ができるのだろう?


「僕のことはフィンクスと呼んでくれたまえ。エルウィン君」


「フィンクスさん」


「結構。そして僕がアフラザード様と初めて合間みえたのはひどく蒸し暑い炎天下だった。僕は君と同じようにギフトを授からずに生まれた子でね。当時はスラムで暮らしていたんだよ」


「その割にこの街にそれらしい場所は見えませんが?」


「うん、全部僕が回収した。スラムの一員は僕の家族だからね。駆け出しのクランの割に人数が多いのはそういうことだよ」


「そうだったんですね」


 僕の近くにはそんな人はいなかった。

 スラムに出入りしてるような人間はいつどこで死んでも見向きもされず、ひっそり生き絶える運命だと思っていた。

 けれどここでは同じ人間のように扱ってくれるという。


「話が脱線してしまったね。本題に戻るよ」


「はい」


「僕が死の淵に至った時、初めてその姿を見せてくれたアフラザード様はこう仰ったんだ。世界は神々の手から離れてしまった。無神論者が増大し、人々はギフトをかざして世界を構築した。手綱を握れなくなった人類が滅亡の危機に立たされている。どうか力を貸して欲しいと」


 話を聞く限りでは誇大妄想もいいところ。

 けれど神様は難しい顔をして唸っている。


【フラン、今の話は本当か?】


【そのままよ、アンジー。貴女を封印した後に取った行動がギフトによる人類掌握計画】


【詳しく聞かせよ。なぜその事に我が関与できなかったのかも含めてな】


 いつになく険しい表情の神様は、火神様に詰め寄っていた。


【簡単な話よ。貴女の力は危険なの。人類にとっては最も忌避すべき存在。貴女の封印は人類存続のためにも最優先事項だった。ここまではいい?】


【納得はできぬがな、続けよ】


【それから一部の神達の間で誰が次の人間の管理をするかで揉めたわ】


【邪魔者が消えて自分たちの天下が来たと勘違いしたか】


【返す言葉もないわ。で、結局そのギフトが思わぬ方向へ転んだ】


【それが神からの脱却、無神論者の増長に繋がるわけか。笑い話よの】


「そんな訳で僕たちのクランはアフラザード様を率いてこの世に宗教を復活させるつもりで活動しているんだ」


 いつまで経っても言い合いが終わらない二柱に割って入り、フィンクスさんが締め括る。随分と話が大きくなったな。

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