第2話 細菌の女神ファンガス
【こいつはまた手ひどくやられたもんじゃのう】
僕の傷を見るなり、神様は僕にだけ聞こえる声で囁いた。
【どれ、少し力を使うぞ?】
「あっ、せっかく集めたのに」
【あほう、主と菌とどっちが大事じゃ。黙って治療を受け取れ】
「……はい」
その真っ直ぐな声に、僕はすぐに口籠る。
神様が透明な手をかざすだけで痛みとは別の熱が肉体を覆った。
身体中に潜む細菌が活性化しているのだ。
細菌とは人にとってなくてはならないもの。
神様が言うにはそうらしい。
【どれ、こんなもんじゃろう】
「ありがとう、神様」
【良い。我にとっても眷属は大事じゃからの】
何故か顔を赤くしながらそっぽを向く神様。
名をファンガス。細菌の女神と言うが、細菌が何かよくわからない僕は神様とだけ呼んでいる。
僕は神様から多くの知識を手に入れていた。
その代わりに外で集めてきた菌をこうして献上しているのだ。
一人暮らしには慣れた。
空腹にだって慣れている。
それでも身分を問わずにこうして話をしてくれる相手というのはなかなか手に入らない。15年という短い人生の中でこれでもかと味わってきた。
僕にしか見えない、僕だけの女神様。
「神様、あまり無駄遣いしないでくださいね? せっかく復活なさったばかりなのに、僕の為に……」
【先ほども言ったであろう? そしてあまり自分を卑下するでない。我の眷属ならもっとビシッとせい。エルウィンよ】
「はい、神様」
そして僕の事を親身になって見守ってくれるお母さんみたいな人。
【ふむ、良い子じゃ。それじゃあ今日のお話と行こうかの】
僕は神様から聞かされる物語にワクワクしながら耳を傾ける。
もしもギフトを持って生まれたら、僕もきっとそんなふうな生活ができたのかもしれない。そんな冒険譚。
かつて神様がまだ封印される前、多くの眷属たちを率いて世界に君臨していた頃のお話。
異世界からの勇者なんかも眷属にしたとかで、そこで新しい技術を学んだとも言っていた。それが発酵の力だ。
【その時教わったのがミソと言う珍味での。独特の匂いがあるが、これがまた美味い! エルウィンも時が来たら食わせてやるからな】
「楽しみにしてます」
【その前に浅漬けがそろそろ頃合いじゃの。エルウィン、袋を開けよ】
「はい」
発酵の力は未だ半信半疑の僕だったけど、神様が自信満々だから従っている。
神様は実体がないから実際に食べるのは僕の仕事。
ほんのりツンと鼻をつく酸味が、薄く切った野菜全体から染みていた。
しかし口に入れてシャキシャキとした食感。ほんのりとした塩気、酸味が食欲をそそる。
【美味いじゃろ?】
「はい!」
【ほれ、今日はたくさん頑張ったからの。次の袋も開けて食べて良いぞ】
「だって、これは明日以降の食料では?」
【ぬふふ。今までだったらな。じゃが今日の献上品で新しい能力を思い出した】
「おめでとうございます!」
【うむ、よきに計らえ】
僕は神様から教わった知恵で、貧乏ながらも豊かな生活を送れていた。
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