落ちこぼれポーターと醗酵の女神様〜万能チートで世界に革命を起こします〜
双葉鳴
第1話 貧弱ポーターエルウィン
振り下ろされた岩のような硬い拳が、僕の頬を強く打った。
見上げた先にはいつもの風景。
僕のような弱者をなぶって機嫌をよくする冒険者の姿があった。
「よぉ、クソガキ。小銭一つでもがめてたらこんなもんじゃ済まねーからな」
吐き捨てるような言葉。
ジンジンと熱を持つ頬を摩りながら僕は愛想笑いをして雇い主の機嫌が良くなるのを待つ。
ポーターとは『ギフト』を持たない人間に残された唯一の働き口。冒険者のなり損ない。冒険者の金魚の糞として冒険者連中から忌み嫌われる。生まれた時から親の居ない僕に相応しい職業だった。
「あと、お前明日から来なくていーから。じゃあな」
「ちょっと待ってください」
「あん? まだ俺らに用があるのかよ?」
獣に向けるような嫌悪に満ちた視線で見下ろし、僕の言葉を強く否定する。
「あの、契約金がまだ……」
「はぁ!? 契約金だぁ~~? おい聞いたかお前ら。こいつ、てんで役に立たねー癖に一丁前に契約金だなんて言いやがったぜ?」
仕事はした。けれど雇用主は不機嫌なまま僕の無事な方の頬を拳で打ちつけた。
それが回答だとばかりに地に伏せる僕に唾を吐きかける。
「そういうのはキチッと仕事した奴だけが言い張れるもんだ。こいつは授業料として貰っておくぜ? 次面見せたら顔面凹ませてやっからよ?」
これが日常。
ここでのポーターの扱いはこんなもの。
冒険者のおこぼれを拾って食い繋ぐ人権のない落ちこぼれ。
「またお金もらえなかったのね、エル君」
「……はい」
受付のお姉さんは同情の視線を投げかけながら僕の手を握った。
とはいえそれだけ。心配はしてくれるけど現状を打破してまではくれない。ギルド職員は一部の冒険者やポーターに入れ込まないように厳命に言いつけられている。
「エル君ももっと強く言わなきゃダメよ~?」
「言っても聞いてくれませんでした」
「ならもっと雇用主は選ばなきゃ」
「でも僕、ギフト持ってないから」
言葉が途切れる。
冒険者にとってギフトの有無は今後の身の振り方を考えるに等しい。それは誰もが知っている。
そしてギフトを持たないから僕は両親の顔を知らずにいる。
無能に人権は無いのだ。生みの親でさえも、生まれながらの無能を養う価値などないと僕をスラムに捨てたのだ。
「僕、もう行きます」
「ええ、私からもあの人達に注意しとくわ」
注意したところで冒険者が無能に対して意識を改める事なんてないだろう。
けれどその気持ちが嬉しかった。
「エル君、また明日」
「はい、また」
ギルドを後にし、仕事中にこっそり懐に忍ばせたコケモモを口に入れる。じんわりと広がる甘味と酸味が、傷だらけの口の中を染み渡った。
「今度はうまくやらなきゃ」
でも、もう一つの目的は果たせた。
【細菌:30兆】
神様、喜んでくれるといいな。
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