第1話 出会い
「え〜、新入生の皆さん入学おめでとうございます。皆さんの入学を心より歓迎いたします。」
校長先生が入学式の式辞を述べている。みんな我知らずとつまんなそうにしらんぷりを決め込んでいる。
わたしも例外ではなかった。それどころではなかったのだ。クラス発表、そしてクラスでのHRが終わり、わたし達は今ここ、"体育館"で入学式を行なっているところだ。
今もすでに名前の順番が前後同士、席が隣同士など、さまざまであるが自分があぶれることのないようみんな我先にと誰かに話しかけている。
「校長先生の話長いね〜」
「ほんとだね」
わたしはみんなの会話を聞いているだけだ。わたしも誰かに声をかけれるかな?なんてよくも思えたものだと自虐的な考えが浮かぶ。
そんなことばかり考えていると、思考はどんどんマイナスな方向へ行くというものだ。
(中学でも変わらず、一人ぼっちだったらどうしようか。まるで空気、居ても居なくても誰も気にしない。)
はぁと溜息がでる。冷静に自分を分析していた。そんな思考とは裏腹に手が震えていた。
(え?なんで?)
わたしは戸惑う。誰にも気にされず1人でいることには慣れているのに。容姿も成績も優れているとは言えない、まさに平凡。さらにこんな性格のわたしをだれが気にかけてくれるというのだ。
分かっているのに手は震えているままだった。わたしは誰にも気づかれないよう手を自分のお腹の前辺りでぎゅっと握りしめていた。
(早く終われ、早く終われ。)
一刻も早く1人になりたかった。
–––––そんな時、
「ななちゃん?大丈夫?」
後ろから声が聞こえた。一瞬何が起きたのか分からなかった。
(わたし?)
家族や先生以外に話しかけられる感覚をずっと忘れていた。それほどに小学校というのはわたし達未成熟な子供にとっては、世界そのものなのだ。そこで、わたしは自分の世界を構築できなかった。
「ななちゃん?ほんとに大丈夫??」
再び後ろから声が聞こえる。やっぱりわたしに声をかけてきている。さすがに無視はできずチラッと後ろを振り返る。
「やっとこっち見た。」
そこには屈託なく笑顔を浮かべながらそう言う男の子がいた。
高松裕、それが彼とわたしの出会いだった。
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