第18話/なにか隠してる?

詩音が更衣室で制服を脱いでいる間、大河と美嘉は水鉄砲で遊んでいて、俺と鳴海は先に海に入って遊んでいる。


「冷たくて最高だ!」

「輝矢くんは海とか怖くない人?」

「普通に泳げるから平気かな」

「カッコいい♡」

「ちょっ!」


鳴海が俺の腕にしがみつき、腕が柔らかい胸に挟まれて、動揺していた時、水着姿の詩音がやってきた。周りの家族連れやカップルもが詩音に視線を奪われるほど可愛く、鳴海には負けるけど、ちゃんと女の子らしく谷間もある。


「ご、ご主人様♡ どうでしょうか♡」

「可愛い‥‥‥」

「ありがとうございます♡」

「ねぇ、私は?」

「か、可愛い!」

「えへへ♡」

「ご主人様♡ 私の方が可愛いですよね♡ だって、この水着はご主人様が選んでくれたものですもんね♡」

「え? そうなの?」

「違う!」

「嘘はいけませんよ?」

「い、いや、えっと」

「正直に教えて?」

「そうです。正直に答えてください」


なんだこの修羅場!!そうだ、大河に助けを求めよう!


「大河! 俺も混ぜてくれよ!」

「うん! いいよ!」

「輝矢くんはこっち♡」

「っあぁ!!」

「輝矢様!!」

「ちょっと! 輝矢くん!」


急に鳴海から腕を引っ張られたタイミングで、クラゲにふくらはぎを刺され、脚に力が入った瞬間ふくらはぎがつってしまい、今にも溺れそうになってしまった。


「やっばい‥‥‥!! 沖に引っ張ってくれ!!」


詩音も海に飛び込んで、すぐに俺の体を掴んで溺れないようにしてくれた。


「桜羽さん! 同時に進むよ!」

「はい。せーの」


同級生の女二人に助けられて沖に上がり、俺は駆けつけた大河の美嘉に脚をマッサージされ、ちょっとした騒ぎになってしまった。


「大丈夫ですか! 私がすぐに人工呼吸を!」

「私がするよ!」

「俺、もしかして死んだことに気づいてなかったりする? なぁ、大河。俺、生きてる?」

「うん。でも、思い出にしてもらいなよ」

「大河さん、良いこと言いますね」

「とりあえず、海の家から酢を持ってきてくれ。刺された場所に塗らないと」

「なぜ酢なのですか?」

「よく分からないけど、クラゲに刺されたら酢を塗ると良いらしい」

「酸味ですかね。それならこっちの方が早く輝矢様を助けられます」


詩音は刺された脚の上にちょこんと座り、顔を赤くした。


「おまっ、おまままままま!! なにしようとしてる!?」

「輝矢様が死んでしまうと思って、チビりそうになっていたので、ちょうど良かったです」

「鳴海!! 詩音をどかしてくれ!!」

「ダメです。早くしないと腫れてしまいます」

「嫌だぁ〜!!!!」


なんとか鳴海が詩音を押し倒し、俺は大河と美嘉に、海の家へ連れて行かれた。


「いやー、さっきはマジで焦った」

「二人の関係って面白いよね! 輝矢様とか呼ばれてるのもビックリだし!」

「あっ」

「アンタさ」

「ん?」

「今のままどっちにも思わせぶりな態度してると、絶対いつか地獄見るよ」

「詩音には思わせぶりなんてしてないけどな。俺が鳴海のこと好きって知ってるし」

「僕、凄い気になるんだけど、両想いなのに付き合わないの?」

「確かに、なんでだ?」

「私が分かるわけないでしょ!!」

「悪い悪い! いやー、なんていうか、付き合ってるかもしれないし、付き合ってないかもしれない状況だから、俺もどうしたらいいか分からないんだよ」

「詩音ちゃんが足枷あしかせになってるなら、私が詩音ちゃんを預かってもいいよ」

「うわー、もっと早く言ってくれたらなー。今は詩音を家から追い出す気は無いんだ。ただの同情だけどさ」

「つまり、二人は一緒に住んでるんだね」

「あっ! 大河!! 頼む! 誰にも言わないでくれ!」

「大丈夫! 口は硬い方だから!」

「助かる。でも、なんで美嘉は詩音を預かる気になったんだ?」

「別に?」


酢を塗りながら話をしていると、詩音と鳴海も海の家にやってきた。


「女子大生の人達にビーチバレーに誘われました。やってもよろしいでしょうか」

「おう! 楽しんでこい!」

「美嘉さん、大河さん、行きましょう。鳴海さんは、輝矢様に話があるようです」

「分かった。話したら俺達も行くよ」

「分かりました」


三人はビーチバレーをしに行き、鳴海と俺は店仕舞いをした誰もいない海の家に残って話を始めた。


「で、話って?」

「えっと、輝矢くんって、桜羽さんのことどこまで知ってるの?」

「親に捨てたれて、俺の親の会社で育てられて、俺の親が亡くなって一年後に俺のメイドになった。それだけだけど」

「そっか」


鳴海の真剣な表情が、まだなにか言いたそうだ。


「それだけか?」

「あのね、私が急に、桜羽さんにあまり強く当たらなくなったのは、美嘉ちゃんにお願いされたからなの」

「知ってるぞ? 美嘉が言ってた」

「本当は美嘉ちゃんに言わないでって言われてたんだけど、輝矢くんは知っておかなきゃいけないと思って」

「ん? なにが?」

「桜羽さん、輝矢くんになにか大切なこと隠してるかもしれない。それと、美嘉ちゃんは輝矢くんをあまりよく思ってないかも」

「な、なんで!? あれか、報酬が毎回変だからか!?」

「ど、どうだろうね」

「よく分からないけど、詩音が隠してるってのはなんなんだ?」

「今は言えない。今は、美嘉ちゃんと私で調べてる途中だから」

「ここまで話して、逆に気になるって」

「桜羽さんって、本当に親に捨てられたのかな」

「俺はそう聞いてるけど‥‥‥まさか違うのか!?」

「そ、それを調べてるの! だから、全部解決したら、私はちゃんと輝矢くんとお付き合いが‥‥‥したいです」

「‥‥‥普通の時の鳴海は、やっぱりいいな。ドキッとした」

「い、一応今のはちゃんと告白したつもりなの!」

「うん! それまで待つよ!」

「ありがとう!」


でもどうして二人がそれを調べてるんだ?

 帰ったら、もう一回ちゃんと英語の書類見てみるか。

 それから俺達もビーチバレーに混ざり、女子大生のナイスな身体つきを目に焼き付けて、それなりに海を満喫できた。

 




「それじゃ、私達は帰るね!」

「おう! またな!」

「うん!」

「美嘉さん、また」

「ばいびー!」


鳴海と美嘉の二人は車で帰ってしまった。


「大河はどうするんだ?」

「近くにお婆ちゃんの家があるから、夏休み中はそこで暮らしてるんだ! 僕もそろそろ帰らないと、お婆ちゃんが心配するかも」

「そうか! またなんかあったら雇ってくれ」

「了解!」

「詩音はちゃんとお礼を言え。一時間分ボーナスとしてくれたんだからな?」

「ありがとうございます。大河さんは輝矢様の大切なご友人と聞いているので、なにかあれば私もお力になります」

「桜羽さんもありがとう!」

「いえいえ」

「それじゃ、また夏休み明けに!」

「そうだな!」


大河も帰って行き、俺達はまだ水着姿のまま、夕日が反射した綺麗な海を見つめた。


「綺麗だな」

「私のお尻のように綺麗です」

「比べる対象おかしいだろ。もう少し遊ぶか?」

「貝殻を全部落としてしまいました。少し拾って帰ってもよろしいでしょうか」

「俺も一緒に拾うよ」

「輝矢様に拾わせるなど、そんなことできません」

「俺だけ暇を持て余せって?」

「失礼しました。それでは一緒に拾いましょう」

「おう!」


さっそく一緒に貝殻を集め始め、詩音は一つ見つける度に嬉しそうな顔をしていた。


「なぁ詩音」

「はい」

「なにか俺に隠してることあるか?」

「なっ、なにもありません!」

「怪しいな」

「本当に‥‥‥なにも‥‥‥」


そんな言いづらいことなのか?まぁ、今日はいいか。


「そうか! 見てみ? 俺も結構集まったぞ!」

「素晴らしいです! クパァくんの水槽の横に飾りましょう!」

「おっ、いいね!」

「‥‥‥輝矢様」

「ん?」


詩音は優しい笑みを浮かべて俺を見つめた。


「私を、これからもメイドとしてよろしくお願いします」

「急になんだよ、当たり前だろ? 俺を信じろって言ったのは俺だからな。いつも悲しい時間を無くしてくれありがとうな!」

「それが私の、一番大切な仕事ですから」

「そうか。で、今日みんなの前で輝矢様って呼んでたぞ」

「はっ! 申し訳ありません!! お詫びに貝殻ビキニを披露します!」

「そんな親指サイズの貝殻でやったら全部見えるぞ!!」

「輝矢様になら、それもいいですね♡」

「おい変態。シャワー浴びて帰るぞ」

「シャワーを浴びて‥‥‥なにをすると言うのですか!♡」

「帰るって言ってんだろ!!!!」 

「いやん♡ シャワー浴びてかけるって、なにを言ってるんですか♡ ご主人様のエッチ♡」

「日本語が分からないのか。誕生日プレゼントは辞書で決まりな」

「嬉しいですよ? 輝矢様からなら」 


本当、どうしようもねぇ!!

 こうして、最後まで色々あった一日が終わった。

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