第16話/可愛すぎるメイド水着!!
ついに今日から夏休み。初日の朝から、詩音は珍しく俺が起きるのを待たずに、一階でなにかをしていた。
玄関から物音が聞こえたので行ってみると、ウーパールーパーの水槽をピカピカに掃除している最中だった。
「おはようございます。見てください、クパァくんの脚が復活しました」
「おっ! マジで? 最近ちゃんと見てなかったからな」
バケツに入れられたウーパールーパーを除いてみると、綺麗に脚が再生していた。
「本当凄いな」
「今日も可愛いですね」
「なんか、少し大きくなったな」
「水槽のサイズを変えるのは来年ぐらいで大丈夫そうですけど」
「その辺は分からないから、詩音に任せるよ」
「分かりました」
「そこで輝矢様」
「ん? どうした?」
「クパァくんの餌が無くなりそうで、買いに行ってきてもよろしいでしょうか」
「うん、できれば、Mサイズの水着も買ってきてくれないか? 黒い無地のやつでいい。黒ベースならハイビスカスとかプリントされててもいいけど」
「かしこまりました。任せてください」
「自分のも買ってこいよ? 海の家にバイト行くなら、せっかくだし海に入りたいだろ」
「はい。それでは行ってきます」
「いってらーって、ウーパールーパー水槽に入れないのか?」
「今は飼育水を作っているので、帰ってきたら入れます」
「なるほど、りょうかーい」
詩音は俺の家に住み始めてから、初めて一人で買い物のために出掛けて行った。
一人で大丈夫か?と不安になり、こっそり尾行しようかとも思ったが、外が暑すぎて尾行は辞め、俺はなんとなく詩音の部屋を覗いてみた。
部屋は綺麗で、趣味の影もないシンプルな部屋だ。
「あっ」
初めて会った時に見せられた大量の書類を見つけて、改めて書類に目を通してみることにした。
英語の書類も大量にあるけど、全く英語の意味が分からないな。
こんな時はカメラをかざすだけで日本語になるアプリだ!
ふむふむ、誕生日は八月十五日。来月か。
「輝矢様?」
「はい!? 買い物は!?」
買い物に行ったはずの詩音が、なぜかすぐに帰ってきた。
「よくよく考えたら、まだお店が開くには早かったみたいです」
「そうか」
「書類を見てどうしたんですか?」
「いや、詩音って、この英語の書類読めるのか?」
「いえ、まったく読めません」
「そうなのか。えっとー、店が開くまであと三十分かー。一緒に行くか?」
「はい。その方が安心です」
「了解。準備するから少し休んでろ」
「分かりました」
※
出かける準備を終わらせ、ウーパールーパーを水槽に移してから、俺達は二人で家を出て、ショッピングモールへやってきた。
「最初に水着買ってしまいましょうか」
「だな!」
最初に女物の水着が売ってる店の前にやってきたが、さすがに俺は入れない。
「入りましょう?」
「俺みたいな男が入ったら、通報されるぞ」
「なら、こうすればいいんですよ♡ ダーリン♡」
「へ!?」
詩音は俺と手を繋ぎ、カップルを装って店に入った。
「ねぇねぇ♡ これどうかなー♡」
「えっ! 可愛い!」
あ、やばい。素で反応してしまった。
だって可愛いすぎるよ!なにこの、メイド服をモチーフにした水着!谷間の部分がハートに切り抜かれてる!谷間?大丈夫か?いや、でも!これを着てほしい!!
「ならこれにするね♡ 輝矢は」
「輝矢!?」
「彼氏なんですから」
「あ、はい」
「輝矢が着るのはこれかな♡」
「なんで女性物なんだよ。てか、こんな紐みたいなやつケツ丸出しじゃん」
「いやん♡ 輝矢のえっちー♡」
待って、詩音って付き合ったら、まさかこんな感じなの?うざっ‥‥‥。
「とにかく買うなら買えよ」
「うん!♡」
メイド服モチーフの水着をレジに持って行くと、店員さんの口から衝撃的な言葉が発せられた。
「一点で一万八千円になります! サイズの方はお間違いないですか?」
「‥‥‥」
「詩音? サイズと金大丈夫か?」
「‥‥‥」
めっちゃ青ざめてるー!!!!
さすがにキャンセルするかと思ったが、詩音は震える手で財布からお金を出して置いた。
「サイズ大丈夫です‥‥‥」
生活費をたくさん貰ってるって言っても、金銭感覚は俺と同じみたいで安心した。
そして店を出てすぐ、詩音は深々と頭を下げてきた。
「えっ」
「申し訳ございません! 生活費から払ってしまいました」
「俺の水着も生活費からよろしく」
「今回だけですからね」
「なに!? その俺がわがまま言ったみたいな感じ!」
「あぁー!!」
「なんだ!? あぁ、ケーキ屋さんね」
ケーキでテンション上がるとか、何歳なんだよ。
「ミルクレープ食べたいです!」
今さっき、幾ら使ったか分かってるのか?
でもこの前怒ってる詩音を見ちゃってるからな。俺の家に住み始めてから、環境の変化でストレスもあるだろうし、今日はせっかくのショッピングモールだ。ストレス発散させてやるか。
「ダメですか?」
「帰りに買って帰るか!」
「ありがとうございます!」
それから俺の水着を買い、ショッピングモール内のゲームセンターにやってきた。
夏休み中ということもあって人も多いけど、詩音はワクワクしているみたいだ。
「詩音の部屋、結構殺風景だろ?」
「確かにそうですね」
「欲しいぬいぐるみとかあったらゲットして飾ったらどうだ?」
「そうしたいですが、水着があまりにも高かったので、今日はやめておきます」
「元々する予定じゃなかったバイトするんだから、プラマイゼロだろ。今日は楽しめ! これは命令だ」
「命令でしたら! 両替してきますので、お金を」
「俺の金かい!」
「今、財布が空なので」
「んじゃ、ケーキも俺のお金なのね」
「しっかり身体でお返しします♡ さっき買った水着を着ながらがご希望でしたらそうしますよ?♡ 」
それは‥‥‥素晴らしいな‥‥‥。
「あっ♡ 今想像しましたね♡ ご主人様可愛いです♡」
「い、いいから早く両替してこい!」
「はい♡」
ダメだダメだ。俺はまだ、鳴海との恋愛がどうなってるのか曖昧だし、あんなことがあっても、まだ鳴海のことが好きとか思っちゃってるし‥‥‥。
鳴海のことを考えながらしばらくすると、詩音はなぜか、メダルを入れるケースを持って戻ってきた。
「あのー‥‥‥」
「うん、理解した。もう詩音には頼まないわ」
「‥‥‥」
「まぁ、せっかくだからメダルゲームしてみるか!」
「怒らないのですか?」
「このゲームセンターは、貯まったメダルを預けずに所有権を破棄すると、メダルの枚数に応じてクレーンゲームのプレイ券が貰えるんだ」
「ということは?」
「ギャブルに勝つぞ!!」
「はい!!」
※
意気揚々とメダルゲームをやり始めてから約二時間。
メダルは全て失い。ムキになって追加購入した二千円分のメダルも失った。
「け、ケーキ買って帰るか」
「そうですね」
「本当は欲しいぬいぐるみとかあったのか?」
「アワビのクッションですかね」
「うん、要らないね」
「あとは電マです」
「電動マッサージ機って言え。って、そんなのあった!?」
「ありましたよ? 【これはジョークグッズです♡】って書いてありましたが、二パターンの電動切り替えとか書いていたので、あれは紛れもなくアンアン用です」
「アンアン用とかやめろ」
「失恋しました。あぁん♡ いゃぁん♡ やめてぇ♡ 用でしたね」
「はーい、ケーキ屋行きますよー。黙ってついてこい」
「わーい!」
無理矢理に詩音の腕を引いてケーキ屋に向かう途中、雑貨屋に四十センチ程のサイズのピンクのクマのぬいぐるみが見えて、同時に五十パーセントオフの張り紙を見つけて、俺は思わず足を止めた。
「お金渡しておくから、ミルクレープ二つ買ってきてくれ」
「分かりました。トイレですか?」
「うん。出口集合な」
「了解です」
なんとか詩音と離れて、俺は一人で雑貨屋に足を踏み入れた。
五十パーセントオフで千五百円って、ぬいぐるみって結構高いんだな。これを買って喜ぶかも分からないし、どうしようかな。
「こちら人気商品でして、最後の一つなのでセール中になってます! 是非いかがですか?」
店員さんにそう言われたが、このぬいぐるみが人気商品とか絶対嘘じゃん!!でもまぁ、詩音のストレス解消のためだしな。
「これ、もう安くなることってないですよね」
「ポイントカードを作っていただけたら三百円引きになります!」
千二百円‥‥‥買おう!
「買います! あと、プレゼント用のラッピングお願いします」
「かしこまりました! ありがとうございます!」
誕生日でもないのに、俺はなにしてんだか。そう思いながらもお金を支払って、ラッピングされた商品を受け取って店を出た時、俺は違和感に気づいた。
ポイントカードを作ったら三百円引き。ポイントカードを作るのに百円かかって、ラッピングに三百円プラス税がかかったぞ‥‥‥。許せん。
こうして出口で待っている詩音と合流すると、すぐに俺が持っている大きな袋の話になった。
「お待たせ」
「なにを買ったんですか? 随分大きいですね」
「詩音にプレゼントだ」
「わ、私にですか?」
「部屋に飾るやつ。帰ってから開けろよ」
「わわっ、私なんかにプレゼントなんて、返品してきてください」
「なんで!?」
「勿体ないです!」
「嬉しくないのか?」
「嬉しいですよ! とても! 嬉ションしてるのが見えませんか?」
「おい、大問題だろ」
「さすがに嬉ションはしていません」
「見れば分かるわ!!」
「私、帰り道で死ぬかもしれません」
「それこそなんでだよ」
「一緒に水着を選んで、メダルゲームで楽しい時間を過ごして、ケーキまで買ってもらえて、それに、誕生日でもない日に輝矢様からプレゼントだなんて‥‥‥幸せすぎて罰が当たるかもしれません」
「そうか! 楽しかったんだな!」
「もちろんです!」
「よかった! プレゼントは気持ちだから受け取れ。 とにかく早く帰ろうぜ! ケーキが傷んだら大変だ!」
「そうですね!」
※
そして、家の目の前まで帰ってきた時、俺は思い出した。
「あぁー!!」
「ご主人様! お下がりください! 敵はどこです!?」
「ウーパールーパーの餌!!」
「あっ。大変です! 明日分しか餌がありません!」
「なら、明日買えばいいか」
「スティック状の餌が欲しくて、ずっとクパァーっておねだりし続けることになってしまいます!」
「明日!! 買えばいいか!!」
「なんて羨ましい‥‥‥焦らしプレイだなんて‥‥‥」
「うん、本音漏れてるよ?」
「あっ、明日買えば問題ありませんね」
「最初からそう言ってたよね!!」
「お言葉ですが輝矢様」
「なんだ。言ってみろ」
「‥‥‥」
「言うことないのに言い返そうとするなよ。それに、最近慣れてきたからか生意気だな」
「ち、違うんです! 申し訳ございません!」
「いいから早くケーキ食べよぜ」
「その前に、プレゼントを開けたいです」
「おう。開けろ開けろ」
二人でリビングへ行き、俺がケーキを食べる準備をしている最中、詩音は床にちょこんと座りながら、プレゼントのラッピングを丁寧に開けている。
「‥‥‥」
目をキラキラさせながらクマのぬいぐるみを見つめ、子供を抱っこするように大事にぬいぐるみを抱えると、そのまま立ち上がった。
「ありがとうございます。一生大切にします!」
「うん! でもピンクしかなくてさ、好みじゃなかったら素直に言ってくれ」
「正直、輝矢様からのプレゼントなら、なんでも嬉しいです」
「なんだそれ。俺に惚れてんのか?」
「俺を掘れって言いました?」
「言ってねぇ!!」
「すみません。その世界は勉強不足なので、輝矢様のためにしっかり勉強しておきます。今日のお返しは、その勉強の成果でよろしいでしょうか」
「勘弁してくれー!!!!」
このメイド、海の家のアルバイトで、少しはまともな思考になったりしないものか。
「ったく、早くケーキ食べろ」
「いただきます」
「あっ、ミルクレープ、一層ずつ食べるタイプか。俺と同じじゃん」
「こうやって食べたくなりますよね。でも普通に食べた方が、層の食感的にも美味しいですよ」
「分かるわー。でも勿体無くて一層ずつ食べちゃうんだよなー」
「勿体ないですか? 一層ずつ食べた方が、ゆっくり服を脱がしてるみたいで興奮しません?」
「うん、しないよね。絶対」
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