第14話/体育祭:後編・白い打ち上げ花火♡
他クラスの生徒と騎馬戦の体勢を作ったはいいものの、女子生徒の尻が右頬に当たる‥‥‥やる気出て来た!!!!
「騎馬戦スタート!! 戦じゃー!!!!」
上に乗る女子生徒の指示で、前に進んだり右に曲がったりと大忙しの中、詩音と鳴海が肩を並べて女子生徒を睨んでいるのが視界に入り、俺は泣く泣くお尻から顔を遠ざけて騎馬戦を続けるしかなくなってしまった。
「いけー!」
美嘉の声がしたと思ったら、美嘉が上に乗った騎馬が目の前に迫って来て、そのまま鉢巻を取るどころかアタックで俺達の騎馬は崩されてしまった。
「そんなのありかよ!!」
「へっ! もう紅組に仮はないから関係ないもんねー!」
あのチビ!!!!
それからも美嘉の荒技は止まることを知らず‥‥‥
※
「白組の勝利だー!」
ほとんどが美嘉の騎馬にアタックされて崩され、俺達紅組は負けてしまった。
「お疲れ様です」
「ありがとさん」
「残念でしたね。来年は上に乗る人を支えられるように、今日から私が上に乗って猛特訓しましょう」
「しねぇよ!!」
「それならまず、腕の力を鍛えるために、私が下になって、腕立て伏せの度にキスを♡」
「しない!」
「輝矢くん」
「あ、はい」
背後から鳴海が声をかけてきたが、なんか怖くて振り返れない。
「ねぇねぇ、どうしてこっちを向かないの? 私を見て?」
「みんな居るぞ? 大丈夫か?」
「みんな体育祭で盛り上がってて聞いてないよ。ねぇ、私だけを見てくれるんじゃなかったの?」
俺がいつそんなこと言った!?あれ?言ったかな?もう分かんねぇ!
「私が上に乗って練習に付き合うよ?」
「え、マジ!?」
「あっ! 振り向いた!」
「桐嶋さん、全裸になりました」
「えぇ!? 着てるじゃんかよ」
「振り向きました♡」
そして睨み合う二人と、それを遠くから見つめる美嘉。
そんな調子で残りの競技も進行されていき、遂にこの時が来てしまった。
「続いては借り物競走です! と言いたいところですが、ここでサプラーイズ!」
すっごい嫌な予感するな。
「障害物競走も追加します! 今日まで黙っていたのは、練習されたらつまらないから! さぁ! 選手の皆さんは位置についてください!」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「桐嶋さんが壊れました」
「詩音、変われ」
「分かりました」
「おぉ! 本当か!?」
「はい」
最初からこうすればよかったのか!!
詩音は木月先生に状況を説明しに行き、俺の方を見て、手で大きなバッテンを作った。
「大河変わってくれ!!」
「いや、誰がとかじゃなくて、今から変更はできないんじゃ」
「さーてさてさて! 選手が出揃いました!」
「お? このまま行かなければ、詩音が出るしかなくなるんじゃないか?」
「木月先生に怒られるよ? 鳴海さんも出るんだし行きなよ」
「嫌だね!!」
「位置についてー」
「あ、始まる? あれ? 木月先生が消えた」
「用意!」
ドン!のタイミングで、頭にドン!と木月先生のゲンコツが飛んできた。
「なにやってるんだ!」
「今のは体罰じゃないんですか!? 全然痛くなかったですけど!」
「よし! 出なくてオッケー!」
「体罰って言われて優しくなるのやめてもらえます!?」
「いや、手を出すのは良くなかった。悪かった。二度あることは三度あるから、三回まで許してくれ」
「嫌ですけど!!」
「あと二回も悪いことをしなければいいだけなんだけどな」
「はい、すみません」
木月先生の左手の甲が赤くなってる。もしかして、自分の手で衝撃を和らげたのかな。変に優しい先生だ。
そんなことを思っている間に、詩音と鳴海は最初の障害物、一輪車で走るをクリアして、四つん這いで段ボールの中に入って進んでいた。
「紅組! 早くも飴玉探しに突入だ!!」
詩音が鳴海より先に小麦粉に顔を突っ込んで、その中から口で飴玉を探す競技に突入した。
「ふっ。顔真っ白じゃん」
「輝矢に頼まれたから頑張ってるんだよ!」
「ちゃんとお礼はするつもりだ。最高のお子様ランチを食わせてやる!」
「お子様ランチ?」
「こっちの話だ!」
「全員飴玉探しに突入! 先に飴玉を探していた転校生が前髪と顔を真っ白にして走り出した! そしてネットをくぐる!」
本当速いな。やっぱり俺じゃなくてよかったかも。
詩音はダントツで先に進んでいき、お玉にピンポン玉を乗せながら進むやつをやり始めたが、まさかのここにきて苦手種目なのか、落としては最初からやり直してを繰り返している。
「ここで全員追い上げる! だが、まだ一位は紅組だ!」
鳴海が一位になっても紅組的には問題ない。一位と二位を独占できれば高ポイントだろうし、そこを狙っていきたいけどな。
詩音以外のみんながピンポン玉運びをクリアして、クイズに答えている時、やっと詩音も追いついて、鳴海が先にクイズに正解して、ラストの借り物競走のお題を引いた。
「お題はー、好きな人です! 好きな人とゴールしてくださーい!」
おいおいおい!なんだよそれ!どうなんの!?
清楚な黒髪美少女の好きなというお題で、男子生徒達がざわめきだした。ここで俺が選ばれたら、ブーイングの嵐だ!!
「輝矢くん! 行こ!」
来ちゃったー!!!!
「う、うん」
「輝矢てめぇー!!」
「裏切り者!!」
「あー!! 羨ましい〜!!!!」
すっごいつまらなそうな顔をしている木月先生の目の前を通り、俺達は手を繋いで一位でゴールした。
「やったね!」
「だ、だな!」
「続いても紅組! このまま二位まで持っていくのか!? お題は!? 自分の秘密を暴露! さぁ! マイクに向かってどうぞ!」
借り物じゃなくなーい!?!?!?!?
「借り物じゃないですが、いいのですか?」
よく言った!
「大丈夫大丈夫! さぁどうぞ!」
大丈夫じゃなくなーい!?!?!?!?頼む!変なことは言うな!!
「私は桐嶋さんの」
何を言おうとしているか察した俺は、激しく首を横に振り、詩音に猛アピールした。
「間違えました。私はZカップです」
「あはは!」
「笑いました?」
「い、いえ、おおっ、お題クリア!」
バカだな‥‥‥。
こうして、一年生の借り物競走は紅組の一位二位独占で終わった。
そして鳴海は、みんなに見られながら、少し恥ずかしそうに手を離して、ラストである吹奏楽部の演奏のために準備に向かった。
「桐嶋さん」
「お疲れ! ありがとうな!」
「こんな顔が真っ白になるまで終わらないだなんて♡」
「はいはい」
また変な方向持って行こうとする詩音の顔を優しくペチペチ手で叩き、粉を落としてやった。
「はい、白くない」
「これからまた白くするための準備ですね♡」
「黙ろっか」
「あっ、飴舐めます?」
「持ってるのか?」
「私のお口で生暖かくなった飴です♡」
「要らねぇ!」
「あー」
「口開けんな!!」
「さて、喉が渇いたので後ほど」
「急に我に返るなよ」
それから二年生と三年生の借り物競走で、体育祭は大いに盛り上がり、遂に結果発表の時がやってきた。
体育祭はめんどくさかったけど、ここまで来たら勝ちたいな。
「結果発表! 紅組、五百二ポイント! 白組、四百九十八ポイントで、紅組の勝利!!」
「桐嶋さん、私達が勝ちました」
「あぁ! やったな!」
「めっちゃ嬉しい!」
「大河もお疲れ!」
「うん!」
勝利を祝うように、吹奏楽部の演奏が始まり、演奏が終わると、MVPの発表が行われた。
「そして、今年のMVPはー! 一年A組! 桜羽詩音さん! どうぞ前へ!」
「詩音じゃん!」
「MVPというのはあれですか? マン」
「なに言おうとしてる? 早く行け」
「はい」
詩音はMVP賞として、売店で使える千円クーポンとお菓子の詰め合わせを受け取り、体育祭の幕は降ろされた。
※
さっそく帰りの準備をしていると、クラス内では打ち上げに行こうという話になっていて、俺は誘われる前に教室を出た。いや、本当に誰も誘ってこないじゃん!!
「輝矢くん!」
「おぉ、鳴海、お疲れ様」
「お疲れ様! このあとの打ち上げなんだけど、美嘉ちゃんが大事な話があるって言うから行けないの。本当は一緒に行きたかったんだけど」
「俺も行かないで帰るから」
「ならよかった! でさ、桜羽さんとまだ暮らしてるよね」
「い、いや?」
「嘘つかないで」
「ご、ごめん‥‥‥」
「うん。私はそれでも好き」
「俺も!」
「桐嶋さん、帰りましょう。私達の家に」
「今、私が話してるんだけど」
「へっ」
「は?」
「瀬奈ちゃん、行くよ」
スタスタ歩いて来た美嘉が、鳴海の腕を引っ張って歩き出した。
「あっ、ちょっと待ってよ! 桜羽さんと話が!」
「うんうん、行こう行こう」
「美嘉ちゃん!」
さすがの鳴海も、美嘉には抵抗できないか。
美嘉も鳴海に怯えてた感あったけど、それも時と場合か。
「早く帰りましょう」
「詩音は打ち上げ行ってもいいんだぞ?」
「はい。ご自宅で、桐嶋さんの白い打ち上げ花火を打ち上げてみせます」
「うん、やめてね?」
「私も経験はゼロですが、童貞野郎なんかチョロイですよ」
「うん、本当に俺の立場って上?」
「帰りますよ」
「ねぇねぇ、本当は俺を見下してるよね。そうなんだろ!?」
詩音は謎にスキップしながら先に行ってしまった。
シンプルにムカつく!!!!
※
それからのんびり家に帰ってくると、いつも通り玄関で俺の帰りを待っていた詩音が、MVP賞で貰ったお菓子の詰め合わせを持っていた。
「おかえりなさいませご主人様♡ 見てください! 私MVPです!」
「なんだ、クールな顔して嬉しかったのかよ」
「嬉しいですよ! でも、どうして私がMVPなんでしょうか!」
「美嘉を助けたからじゃないか? あれはよかった。同じ紅組を黙らせたのカッコよかったし」
「へへ♡」
「あっ、そうだ。今日は俺がご飯作るから、たまには部屋でゆっくりしてろ」
「いえ、それは私の仕事です」
「いいから」
「ならせめて、近くにいさせてください」
「了解」
さっそく夜食のお子様ランチを作るために、久しぶりにキッチンに立った。
「まずは野菜を切ってー」
「ご主人様!」
「なんだ!?」
「猫の手で切ってください!」
「わ、悪い悪い」
「次は卵を」
「卵は角で割ってはいけません」
「あ、はい」
「殻が入りました。やはり私がやります」
「いいからやらせてくれ!」
「はい♡」
「ズボン脱ぐな!!」
まったく、鬱陶しくて料理が進まない。嘘でもつくしかないか。
「てか、めちゃくちゃ汗臭いぞ。先に風呂入ってこい」
「そうですか?」
「うん。鼻がもげる」
「ですが、一番風呂はご主人様と決まっております」
「命令。そのルールは無くていい」
「なるほど。私が浸かった湯船を飲み干したいと‥‥‥でしたら、中でおしっ」
「出すなよ!?」
「だとしたら、どんなオプションをお望みですか?」
「ただ普通に入れ。あと飲まない」
「分かりました」
よし、行ったな。
※
カレーはレトルトだが、子供用の物を選び、オムライスや旗やゼリー。事前に買っておいた、それを盛り付ける、お子様ランチ用の皿に全て盛り付け終えたところで、詩音が風呂から出てきた。
「一番風呂ありがとうございました」
「よし、髪も乾かしてるな。今日の夜ご飯はお子様ランチだ!」
「お子様ランチ? 失礼ですがご主人様。私を何歳だと思っているんですか?」
あれっ、思っていた反応と違う‥‥‥。
「ご主人様が作ったものでしたら食べますが、次からバカにするようなことはしないでくださいね」
「はい‥‥‥風呂入ってくる‥‥‥」
悲しみを背負ってリビングを出たが、しばらく扉の隙間から詩音を監視していると、詩音は携帯のカメラでお子様ランチを色んな角度から撮り始め、嬉しそうな笑顔でお子様ランチを食べ始めた。
なんだ、恥ずかしかっただけか。ビックリさせやがって。
本心を知れて一安心で風呂にやってきたが、残り湯という言葉が頭をよぎり、なんか変にドギマギしてしまって、結局今日はシャワーで済ませてしまった。
俺は今までの人生で、一番勿体無いことをしてしまったかもしれない。
※
シャワーを浴び終えてリビングに戻ってくると、無邪気に食べたことが分かるぐらい、詩音の口周りが汚れていた。
「湯加減どうでしたか?」
「あ、うん、最高だった」
「よかったです。夏休みの話なのですが」
「夏休み? 気が早すぎるだろ」
「あっという間ですよ」
「んで? 夏休みがどうした?」
「お祭りに行ってみたいです」
「いいけど」
「本当ですか?」
お子様ランチで口周りを汚して、夏祭りに行けることになって目を輝かせる。本当子供だな。
「鳴海には内緒だからな」
「分かりました。浮気デート、楽しみましょう」
「言い方言い方!!」
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