第7話/あの子が犯人なわけがない!!

早起きのために、いつもより早く寝て、翌朝目を覚ますと、いつも俺を見守っているはずの詩音が居なかった。


「詩音?」


様子を見ようと詩音の部屋に入ると、詩音は届いたばかりのベッドで、上下下着姿のだらしない格好で爆睡していた。


「綺麗な身体してるな‥‥‥って、今何時!?」


あー!!いつも通りの時間に起きちゃちったー!!!!


「起きろ詩音!! 早く行かないとヤバい!!」

「ご主人様の大きいー♡」

「なに寝言言ってんだ!!」

「やっぱり小さくて可愛いー♡」

「殴っていい?」

「‥‥‥」

「マジで起きろ!!!!」


俺は慌てて、ベッドで熟睡して起きない詩音に制服を着せて、お姫様抱っこで洗面所に連れて行き、自分の歯と詩音の歯を磨いて、自転車に荷物を乗せて、二人乗りで学校に急いだ。





「おい止まれ!」


だが、学校の門をくぐってすぐ、木月先生に止められてしまった。


「木月先生!」

「二人乗りで登校とは良い度胸だな。それに桐嶋」

「は、はい‥‥‥」

「パジャマで登校してくんな!!」

「うわ!! 自分が着替えるの忘れてた!!」

「帰れ!!」

「し、詩音! いい加減起きろ!」

「‥‥‥」

「命令だ! 目を覚ませ!」

「ん〜、おはようごじゃいましゅ」

「俺は一旦帰る! 例のものを五分で探し出せ!」

「ふぇ〜?」

「おい桜羽」

「んにゃ!」


木月先生はまた詩音の鼻の穴に指を突っ込み、威圧感マックスで顔を近づけた。


「さっさと教室に行け。放課後は反省文だ」

「は、はい」

「命令分かったか?」

「保健室で私が桐嶋さんのを咥えてペロペロした写真を探し出せばいいんですよね」

「お前!」

「ん? 桐嶋? 帰る前に生徒指導室行こうか」

「わけは後で説明します! さよなら!!」


あのバカ!!なに言ってくれてんだ!!とにかく急ぐぞー!!!!





一度家に戻って制服に着替え、爆速で学校に戻って来ると、すぐに木月先生に首根っこを掴まれて、生徒指導室に連行された。


「座れ」

「はい」


ボロボロで硬いソファーだ。一体何人の生徒がここで怒られたんだろうか。


「保健室でなにしたって? 昨日、桜羽を連れて行った時だよな」

「は、はい」

「お前ら一緒に暮らしてるだろ」

「何で知ってるんですか!?」

「桜羽が転校して来る時、大量の書類に目を通した。家でよろしくやるのは目を瞑る。でも学校はダメだろ」

「いやあの、家でも学校でもしてません。ただ、指を舐められただけです」

「指か」

「指です」

「ならよし、行け」

「いいんですか!?」

「なんて怒ればいいか分からない案件に、ムキになって怒る必要性が無い。でもいいか? 先生から見ても、お前ら二人は悪目立ちしてる。気をつけろ」

「はい! ありがとうございました!」


やっぱりいい先生だ!そんなことより、急いで詩音に話を聞かなきゃ!

 早歩きで教室にやって来ると、詩音は静かに写真を渡してきた。


「でかした」

「鳴海さんの机に入っていました。ちなみに、鳴海さんが登校してきたのは写真を見つけた十分後です」

「なら、犯人は鳴海じゃないな」

「そうですね」


鳴海じゃないと分かって、なんだか一安心だ。いや、疑ってはいなかったけども。





今日も体育祭の練習で汗を流しながらも、頭の中は犯人のことでいっぱいだったが、何とかやりきった。

 そして放課後、俺と詩音は二人乗り登校の反省文を書き終えると、探偵を求めて技術室を訪れた。


「誰もいないぞ?」

「あの掃除用具入れの中です」

「えっ」

「開けてはいけないそうです」


そう言って詩音は、掃除用具入れの前に立ち、優しく三回ノックした。

 すると、中から小学生みたいな幼く可愛らしい女子生徒の声が聞こえてきた。


「穴」

「棒」

「何の用?」

「今の合言葉大丈夫!? てか、出てこないのか!?」

「探偵が探偵だとバレたら、いざという時不利になるから。そんなことも分からないの?」

「桐嶋さんを悪く言わないでください」

「ごめんごめん。それで何の用なの?」

「とある犯人を探してほしいです」

「詳しく教えて」

「分かりました」


詩音は今までの出来事を、事細かく説明した。


「という感じです」

「報酬が先。何でも構わないから、作業台の上に置いてある木でなにか作って。飾れる物がいい」

「一個でいいのか?」

「うん、二人で一つでいい」

「よく分からないけど、なに作る?」

「私に任せてください」

「怪我するなよー」

「はい」


長さ三十センチぐらいの分厚い木の板を、詩音は器用に切ってヤスリがけし始め、俺はそれをただただ眺め続けた。





「できました」

「やっぱりな!! 途中からそうだと思ったわ!!」


詩音はそれはそれは立派な男のシンボルを作り上げてしまった‥‥‥。


「飾れて実用性もあります。あぁ!」

「なんだ!?」

「二つの子孫保管庫を作りますれました‥‥‥」

「アホか」

「なに? できたの?」

「できましたよ。今晩は寝れないかと」

「よく分からないけど、世界に一つの作品! 今から見るのが楽しみ!」


これを見たあと、協力してくれなくなりそう‥‥‥。


「それじゃ協力をお願いします」

「分かった! で、今日写真が入ってた席の主は鳴海瀬奈ちゃんだね?」

「そうだ」

「瀬奈ちゃんが犯人か犯人じゃないか、まずそこからだね」

「なんでそこ疑うんだ? 鳴海が登校してきたのは写真を見つけてから十分後なんだぞ」

「これだから素人は」

「これだから素人男優は」

「お前らなんなんだよ!!」

「素人作品に有名女優が出てると萎えるって話ですよ」

「男優の話じゃなかった!? いや、そもそもそんな話じゃねぇ!!」

「二人とも、ふざけてるの?」

「す、すまん! 話を続けてくれ」

「うん。瀬奈ちゃんが犯人だった場合で考えられる可能性は二つあるの。まず、コンピューター室のプリンターで、最近プリントされたデータが残ってないか調べてきて」

「そんなの調べられるのか?」

「あそこのプリンターはパソコンに入れた写真しかプリントできない古いやつだから、パソコン内、特にゴミ箱はデータを消した気になって残ってたりするから」

「とにかく行きましょう」

「オッケー」


鳴海が犯人の線で調べるのは嫌だけど、今は言う通りにするしかないな。

 さっそくパソコン室にやってきて、一つ一つ手分けしてパソコンのデータを確認していった。


「最後の一台、写真無し! 詩音は見つけたか?」

「ありました」

「はぁ!?」

「昨日の放課後にプリントされてます」

「だ、だとしたら鳴海は吹奏楽部で忙しいし、鳴海は犯人じゃないな!」

「いえ、もう疑ってかかるべきです。それに、私はどうも鳴海さんを好きになれません」

「それは個人的な感情だろ」

「とにかく探偵さんに伝えましょう」

「お、おう‥‥‥」


俺の感情は置いてけぼりで、どんどん話が進んでいく。それでも犯人は見つけないとヤバいし、今は自分の感情を抑えよう。

 そして、技術室に戻って来ると、詩音が作ったオブジェがなくなっていた。


「探偵さん、調べたらデータがありました」

「知らない!! なにこれ!! こんなの要らない!!」


やっぱりそうですよねー!相変わらず掃除用具入れに向かって会話するの、かなりシュールだな。


「気に入りませんでしたか?」

「気持ち悪い!!」

「きっとそれが愛おしく思う日が来ます。それは未来投資です」

「な、なるほど」

「納得しちゃうの!?」

「で? あったんだよね」

「あった」

「瀬奈ちゃんの可能性、六十パーセント」

「理由は?」

「昨日のうちに写真をプリントして、自分の机に入れた。それなら犯人って疑われないし、今日早くに学校に来る必要はないでしょ?」

「素晴らしい考えです」

「ま、まぁ? 探偵だから」

「それで、可能性は二つあるって言ってましたよね」

「そう、もう一つの可能性は、協力者がいた場合」

「なるほど、それならどちらでも写真を見つけた十分後に登校してくることは可能ですね」

「そういうこと。二人の瀬奈ちゃんとの関係性は?」

「私はよく分かりません」

「俺は、言っていいのかな」

「周りに言いふらしたりしないよ。なに? 体の関係?」

「それは私と桐嶋さんです」

「どっちも違うわ!! あれだ、最近まで両想いだった。んで、詩音が俺に付き纏ってから振られた。嫉妬しちゃうから付き合えないって」

「私、今回の事件から手を引く」

「急になんで!?」

「私は瀬奈ちゃんと同じ中学だったけど、なんかこの事件、嫌な予感しかしないから」

「犯人は鳴海さんという考えでいいですか? 手を引くなら、最後にどう判断したかを確認したいです」

「断言はできない。ただ、九十パーセントそう」

「なんだよそれ! 意味分からないぞ」

「まぁでも、またなにかあったら言って。この事件に協力してほしいなら、報酬はそれなりになるけど」

「わ、分かった」

「体育祭まで後十八日あるし、捕まえれば写真はばら撒かれないんでしょ?」

「そうだと思う」

「なら安心だね。それじゃ、今日のところは帰って」

「了解です」


俺達は技術室を出て、教室に戻ってきた。


「帰ったらウーパールーパーでも眺めてよー」

「クパァを眺めるのですね。了解です」

「誤解しか生まないこと言うなよ!」

「私はいつでも眺められる準備ができてます♡」

「桐嶋、桜羽」


まーた木月先生に聞かれたー!!!!


「は、はい?」

「キモっ」

「あの教師、俺達に親がいないからクレーム来ないと思って言いたい放題なんだけど!」

「違いますよ。あれは独身のひがみです」

「鼻にスイカ入るようにしてやろうか」

「出産は鼻からスイカを出すような痛みと表すことが多いです。つまり先生は今『孕ませてやろうか』と言ったことになります。私は桐嶋さんの子しか受け付けません!」

「私は女だ!!」


もういいや、帰ろう。


「先生さよなら」

「おう桐嶋、お前大変だな」

「はい、先生も無視した方が良いですよ」

「教師が無視はダメだからな。今だけ耳がもげたことにして職員室行く」

「そうしてください」





俺は詩音より先に自転車で帰宅し、しばらくして詩音が帰ってくると、ドタドタと足音を立てて、走ってリビングへやってきた。


「一緒に帰らないと危ないって言ったじゃないですか!」

「無事なんだからよかったじゃん」

「それはよかったですか、私の靴に大量の画鋲が入ってました」

「は!? 怪我してないのか?」

「鳴海さんの靴に移しておきました」

「バカなのか!? 今すぐ鳴海に電話する」

「ダメです」

「なんでだよ!」

「鳴海さんが喜びます」

「言ってる意味が分からないんだが」

「鳴海さんは私が思うに、とんでもない本性を隠してます。それを隠すために別人格や態度などを演じることができる人間です。輝矢様のお父様が、仕事してる風にパソコンでエッチな動画を見ていたように!」

「実話?」

「はい」

「ご主人様は大変ショックを受けました」

「今慰めてあげるので、下半身の衣類を全て脱いでください」

「なにを慰めようとしてんだ!!」

「もちろん、ナニを♡」

「そんな話してる場合じゃねぇ! かける!」

「どうぞ♡ 全て受け止めます♡」


詩音は自分の顎の下に両手を添えて舌を出してきたが、俺はそれを無視して、鳴海に電話をかけた。


「もしもし」

「輝矢くん? どうしたの?」


吹奏楽部の楽器の音が聞こえる。よかった、まだ部活中か。


「なんか、詩音の靴に大量の画鋲が入ってたらしくてさ」

「う、うん」

「詩音がその画鋲を鳴海の靴に移したって言うんだ。だから、帰る時気をつけてくれ」

「わざわざ教えてくれてありがとう! 輝矢くんはやっぱり優しいね!」

「い、いや、心配だったから。部活中に悪かった」

「全然いいよ! でも、誰が画鋲なんて入れたんだろうね」

「分からない。昨日から色々されてて困ってるんだ」

「なにかあったら、私が力になるからね」

「いいのか?」

「うん! だって、輝矢くんは私が認めた日だもん!」

「そ、そんなこと言われたら諦めがつかなくなりそうだからやめてくれ」

「へっ♡」

「へ?」

「ううん! なんでもない! 部活に戻るからじゃあね!」

「おう! 頑張って」

「ありがとう!」


やっぱり、こんな良い人が犯人なわけない!!


「ご、ご主人しゃま、顎が疲れてきました」

「まだやってたんかい!!」

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