第39話 テレポート魔法


翌日、火曜の朝。

いつものバス乗り場に付くと週末なのでメンバー全員が揃ってバスを待っていた。


「みんなおはよー」


俺が挨拶をすると忠司が聞いてきた。


「お前、ちゃんと昨日寝れたか?」

「んー、途中電話で起こされたけど、結構寝たよ」

「そうか? なんか顔色悪いぞ?」

「まぁここんところ大変だったしね。疲れが抜けきってないのかもしれない。でもまぁ、一段落したってところじゃないかな?」


「ほんとあのゴリラ、弘樹を振り回しすぎ!」

「ひろきくん、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

「でも他人事じゃねーよ。俺達もこれから大変になりそうだし」

「そうだな」


 理香子や彩や、裕也と大智も今後の事を気にかけている様だった。

 そうして、いつもの様にバスに乗って45分かけて検品工場へ向かい、いつもの作業を坦々とこなし、いつもの様に中ボスと格闘した後、全員で社食へ向かう。


「お、忠司今日はソバ?」

「ああ、今後人前出たりするんだろ? すこしダイエットとかな……」

「ははは、気にすることないと思うけどな」

「そうだ理香子、昼飯の後ちょっといい? 相談したい事が有るんだけど」

「うん、いいよ」


 そうして、いつもの様に皆で雑談しながら飯を食べていると色々な人に話しかけられた。


「あ、勇者パーティだ! 昨日テレビの記者会見みましたよ! 凄い事になっていますね!」

「アハハハ、アリガトウゴザイマス……」


俺が苦笑い気味に挨拶をすると、忠司が男らしく応答する。


「有難うございます、会見で言ってた勧誘制度ですけど、この会社ではもうじき導入されると思うので、そうなったらどんどん知り合い勧誘してくださいね」

「はい! そうします!」


 忠司はもう割り切って考える様切り替えている様子だった。

 流石というかなんというか、やっぱりリーダーたる男らしい奴だ。

 そうこうしていると二人組のおばちゃんに声をかけられた。


「あら!? 北村さん、ニュース見たけど格好よかったわよ!」

「アハハハ、アリガトウゴザイマス……」

「うちの恭一がご迷惑おかけしてすみません……」

「うちの!?」


 このおばちゃんは、俺が最初に堀川さんに呼び出されて、フルタイム勤務と10%昇給を持ち掛けられたときに、一緒に呼び出された生き字引みたいなおばちゃんだった。

 そういや堀川さんはあの時このおばちゃんを神代さんって呼んでた気がする。


「あの子、ネットで有名になってから、うちを出てしまって連絡も寄越さないで好き勝手やってて……、それでご迷惑おかけしてしまったようで本当にごめんなさいね」


 そうだったのか……、神代もなんか色々大変なんだな。

 たしかに炎上の切っ掛けは神代の発言だが、別に悪意があった訳ではないだろう、ネットの住民が勝手に勘違いしただけという話だし、それらは全て表向き魔人のたくらみという事になっているはずだから……。


「いえいえ、全て内藤さんの筋書きですからお気になさらず」

「そうみたいね、内藤さんにも困ったものよね……北村さん大変でしょう……」


「まぁ、でもやりがいありますから!」

「これからも頑張ってくださいね、応援していますよ」

「有難うございます」


 何気に凄い繋がりだ、あの神代のお母さんが同じ職場にいたとは。

 やはり世界は狭いんだなぁ。

 食堂では食べる間も無いくらい色々な人に話しかけられたが、ワイワイと楽しい食事をすることができた。

 そうして、俺と理香子が食べ終わると、皆に別れを告げ少し早く食堂を後にした。


「なんか凄かったね!」

「そうだね、やっぱりあれだけの会見なら注目は浴びるよなぁ」


 そして俺は廊下を歩きながら帰省の件を理香子に聞いてみる。


「そうそう、それで相談なんだけどさ……今週末って何か予定ある?」

「んー、特には無いけど、何?」

「記者会見がテレビで流れただろ、そしたら親が見てたみたいでさ」

「あ! 私も親から電話きて驚いてたよ!」


 そう言えば忠司と理香子も登壇していたんだしテレビに映ってたもんな。


「それでさ、週末に実家に帰って説明するって言ったんだよ」

「そうだね、ちゃんと合って説明した方がいいよ」

「でさ、急で悪いんだけど理香子も一緒に行けないかなって?」

「え!? 弘樹君の実家に私も!? 泊まりで!?」

「うん、親父が彼女連れて来いって煩くて。……だめかな?」

「い、いいけど、なんか緊張するな……」


 そう言って理香子は少しはにかんだ顔をする。

 

「じゃあ、弘樹君の事一緒に説明するの手伝うよ!」

「ありがとう、よろしく頼むよ」


 こうして、今週土曜に、彼女の理香子と1泊帰省することが決まった。

 




 最近は超ドタバタしているせいか、どうも具合が悪い。

 先週水曜に初めてのテレビ出演を果たし、木曜には炎上してお偉いさん達との頂上会議が行われた訳だ。


 その後、週があけて月曜には記者会見を行い、その晩全国に報道され、翌日以降は沢山の人に話しかけられてすっかり有名人になってしまった。水曜には2度目のテレビ出演が放送されて、翌日木曜には3回目の収録を行うと司会者に記者会見や炎上騒動の事を突っ込まれたりした。まぁ収録は滞りなく終えたが、自分が思っていた以上にしんどい。


 でも今日は週末の土曜。

 俺は理香子と二人で帰省するので少しゆっくりできると考えている。

 春先には手取り12万だった給料も今は月給100万近くになり、銀行の残高はモリモリ増加しているため、大量のお土産を買いこんで両手には荷物がいっぱいだ。

 しかし、羽田から関空まで向かい空港から全部タクシー移動にすればずいぶんと楽なのに、そこは庶民の習性というのか、一番早く帰省できる航空機を使わず新幹線とローカル線を乗り継ぎ、タクシーも最小限での移動にしてしまい、それなりに疲れてしまう。


 実家の最寄り駅からタクシーで向かうと、両親の営むミカン畑が見えてくる。

 季節はすっかり秋となっているがミカンの木の葉は年中青々としていた。


「ここが弘樹君の実家かぁ! 目の前のミカン畑と遠くの海が凄い綺麗だね! あーでもご両親に会うの緊張して来たー」

「親父もお袋も愉快で優しい人だから普段通りで大丈夫だよ」


 両手に食い込むくらい沢山の土産を持って、実家の玄関を開ける。

 すると、広い玄関には沢山の靴が置いてあった。


 ん? 誰か客が来てるのか?


「ただいまー」

「おじゃまします」


 すると、奥からドタバタと走り寄る音が近づく。


「おかえりー! 疲れたでしょ!? あらーそちらが彼女さん? 初めまして弘樹の母ですー」

「お袋ただいま」

「初めまして弘樹君とお付き合いさせていただいている小鳥遊理香子です、本日はお世話になります」


 そういって、深々とお辞儀をする理香子。


「誰か来てるの? あ、これパートさんたちとかにも土産買ってきたから」

「あんたが帰ってくるっていうから、パートさんとか近所の人が遊びに来てるのよ」

「そ、そうなのか……」

「あはは、弘樹君人気者だね」

「まぁ、二人とも入ってまずはゆっくりしなさい、疲れたでしょ」

「ありがとうございます、お邪魔します!」


 俺は大量の東京土産を玄関に置いて、理香子と茶の間へ向かうと6~7人ものご近所さんが集まり、夏にとれたミカンと茶菓子をつまみながら雑談をしていた。


「やー! 弘樹君! おかえりー!」

「「えっ!?」」


 しかし、そこに居たのはご近所さんだけでは無く、俺達は絶句した。


「弘樹君の実家のミカンは美味しいねぇ! ん? どうしたんだい?」


「え、ちょっ!? な、なななな、内藤さん!?」


 俺の実家の居間には他のパートのおばちゃん達と一緒に胡坐をかいて、あたかも自分の自宅の様にくつろいでお茶を飲んでいる、サイテック最高顧問である魔人内藤の姿があった。


 あんた、なんでうちにいるんだよ!?

 なんで近所の皆さんとにこやかに茶囲んでウチのミカン食ってんですか!?

 ていうか、なんで俺の実家しってるんだよ!?

 いや、そもそも、なんで俺達が今日実家に来ることを知ってるんだよ!?


 俺は驚きのあまり、何も声にならず口をパクパクさせているが、これにはさすがの理香子も驚きを隠せないようで、笑ったまま棒立で白目を向いている。

 そうして俺達が居間の入り口に立ち尽くしていると、母が説明をしてくれる。


「こちら内藤さん、ほらこないだあなたと一緒にテレビでてた人! あなたの上司なんですってね、ついさっき来られたのよ。なんでも農協さんの関係でこちらに来られたんですって! お父さん今農協行ってるけどすぐ帰ると思うから、あんたも突っ立ってないで座りなさい」

「まぁ、話すと長くなるんで、とりあえず座ったらどうだい? ワハハハハ!」


 ……この魔人、瞬間移動でもしてるのか? やっぱ超能力者なのか!?


 ていうか、なんで知ってるんだよ、謎すぎだろ!

 なぜ俺の実家に居るんだ!? ふざけんな! コラCEO、お前暇すぎだろ!


 人って意味が分からな過ぎると、なぜだか少し腹が立ってくるもんなんだな。

 腹が立っても理由や怒りの向けどころが全く分からないと白目になるんだな。


 この半年の急展開からほんの数日離れるため、都会の喧騒から実家という俺にとって安らぎの聖地へ、愛する人との巡礼をするつもりだったが、魔人の登場でここでも一筋縄に行かないのか、と俺も白目になってしまった。


 はたして俺と理香子に安息は訪れるのだろうか。



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