第37話 連続閃光魔法

 結構面白い。


 一人の記者からの質問の直後、全記者とカメラの注目が俺に集まる。

 顔を動かすと一斉にシャッターのフラッシュがたかれる。

 横を向くとまた光る。反対を向くとまた光る。台本を見て下を向くとまた光る。


 記者に振られた俺は喋り出していいのか分からないので、内藤さんに目線を送ると、好きなように喋れといった視線が返って来たので、そうすることにする。


「先日のテレビ番組では初出演もあって私はもっと無難な事前回答をしていたのですが、実際に放映された『老害は消えろ』という発言は、私が知らないうちに番組サイドによって故意に書き換えられた発言です」


 会場が一斉にざわつく。

 すると別の記者が割り込んできた。


「書き換えられたというのはどういう事だ! それは責任転嫁なんじゃないか!?」

「それについては私から説明させていただきます」


 そういうと、笹山さんが話し出した。


「番組プロデューサーの笹山です。書き換えたのは私ですが、その経緯を説明させていただきます」


 そうして西園寺さん、笹山さん、内藤さんが、俺を盛り上げるために画策したという旨が伝えられ、西園寺さんが続けて話す。


「ワシはもう老人じゃが、ワシがそう書き換えろと命じた。老害とは言い過ぎじゃったが、年寄がいつまでも出張っていればいずれ日本は滅ぶ。年寄りの役割は別にあるのだ、なぁ大泉よ」


「以前、西園寺さんと北村君と彼女さんと夜食を同席する機会がありました」


 西園寺さんに振られた大泉さんが語りだした。


「私が北村君に今の日本はどうかと聞くと、彼は政治家の役割を語ってくれました。新しい政策を生み出し日本を良くしようと考える政治家は多いが、その席にいつまでも高齢者が座っていると若者は頑張りにくいと」


 ここまでは台本通りに進行しているが突然理香子が発言しだした。

 

「すみません、私もその場に居合わせたんですが、その時私が大泉さんに言ったんです。新しい政策も良いけど、お金ばらまいたりするんじゃなくて、もっと励まして欲しいって。若者が頑張って高齢者は励ましてほしいって言ったんです」


 理香子は台本を見ながら話しているようだ。

 たぶん俺に渡された台本と理香子の台本はどうやら内容が少し違うようだ。

 これはなぜか俺と大泉さんとの会話内容を知っている魔人内藤の策略が発動しているのかもしれない。


「でも私、大泉さんに凄い偉そうなこと言って後悔してたんです……」


 理香子がそう言うと、また突然忠司が話し出した。


「私は隣の小鳥遊さんと同僚なのですが、落ち込んでる小鳥遊さんに話しかけたら、その話を打ち明けられまして、私の考えを話しました。同じ若者として全く同じ気持ちだと伝えたんです。そしてそちらにいる他の同僚にも聞きましたが、全員同意見でした。メディアの皆さんには日本中の若い世代がどう考えているか是非調査していただきたいと思っています」


 俺はそんな話知らない。理香子が落ち込んでたなんて気づきもしなかった。


「つまり、老害は消えろ、というのは言葉その物は辛辣ですが、おおむね間違っていないという事になります。それにこの件について、北村君は被害者でこそあれ、無実であるという事になります」


 出席者が一通り話をすると、内藤さんが纏めに入った。

 西園寺さんが自分の意見であることを証明した今となっては、老害発言を責める記者は既にいなかった。理香子たちが説明してくれたおかげで、西園寺さんの道理も通ったことになる。そしてサイテックの嫌疑もまとめて解消することができた。


 だが記者はまだ追及してくる。


「しかしですね、この件全てが、ただ北村さんのテレビデビューをセンセーショナルにする事が目的というには、納得いたしかねますが!?」


 その通りだ。

 これだけでは視聴者も炎上している人たちも納得するわけがない。


 その瞬間、内藤さんと記者に紛れていた比留川さんが目を合わす。

 もちろん台本にある流れとして、このタイミングと判断し指示を出したようだ。


「そもそもこれは何の会見なんだ!? 俺はサイテックの新事業という話を聞いてきたんだぞ、今やってるこの話は一体何なんだ!?」


 比留川さんは会場いっぱいに聞こえる声でヤジを飛ばす。

 台本の筋書きに戻った事に気が付いた俺は、俺の出番であることに気づく。


「では、次の議題になるんですが、それは私から説明させていただきます」


 俺の左脳が回転しだし、比留川さんとのマッチポンプが始まる。


「そもそも、この流れは全て隣に居られる内藤の演出なんです」

「それは……どういうことですか!?」


「ネットの有名人である神代さんが発端で私が炎上し、普段テレビやニュースを見ないネット寄りの人もこの会見を注目しています。この一連の流れは全て、この後発表させていただくサイテック社での新制度を全国に広めるため、この記者会見に注目を集めるための演出として、そちらにいらっしゃる西園寺さん、大泉さんをも巻き込んで計画されていたという事です」


 会場の全ての記者がざわつき、台本通りに比留川さんが質問を続ける。


「その新制度とはどんな事ですか?」


「はい、ご説明させていただきます。現在ベーシックインカムの導入により、完全失業率が上昇しています。巷には無職の人があふれているという現状です。そこで短時間労働を前提に全ての社員が知人などを勧誘し採用した場合その社員の昇給といった待遇改善を行という新しい労働力を確保する制度となります」


「その制度を広めるための演出だったという事ですか?」

「それについては、内藤の方から発表していただきます」


 完全に台本通りの出来レースである。


「サイテック並びにサイテリジェンスはこの新制度、従業員自由勧誘制度を採用し、それを全国に広めようと考えております。またそちらの西園寺さんには、日本メディアネットワークでも、導入を検討していただくことに同意を得ています。さらには、こちらの大泉元首相にも提案済みで、この制度を法律に導入する事を検討していただく方向でご相談させていただいております」


 会場が今まで以上にざわめき出す。

 その瞬間無数のフラッシュが焚かれ、視界が一瞬真っ白になった。


「それとここで、わが社の新しいキャッチフレーズを発表させていただきます」


 すると、背後の白幕が一枚下ろされ、一枚のポスターが現れる。

 それはいつか見たビルに吊るされる予定の、俺が格好つけている広告だった。


『時代の最先端を切り開くサイテック』


「このキャッチフレーズを元に、この従業員自由勧誘制度を提案してくれたこちらの北村君自身を宣伝棟とし、全国に広めるキャンペーンを近く開催する予定です、その第一弾としてサンライズビルに巨大広告を設置いたします」


 内藤さんがそう言うと、会場内に俺と理香子が以前見せられた完成予想図が持ち込まれ、記者は一斉にそのパネルを撮影しだす。

 その直後、比留川さんが驚いたように聞いてくる。


「では、この炎上も老害発言も、全てこのキャンペーンのためという事ですか?」


「はい、まぁ予想以上の反響になってしまいましたが、元々CEOである私が考えた筋書きという事で間違いありません」


 そういうと、内藤さんは立ち上がり。


「世間や皆様をお騒がせして、大変申し訳ありませんでした」


 そうして、内藤さんは一人深々とお辞儀をする。

会場内のざわめきは無数のシャッター音にかき消され、フラッシュで会場内は真っ白になった。

 しばらくお辞儀をしてから、内藤さんは頭を上げると。


「以上がこの記者会見の発表内容となります。ここからは質疑応答とさせていただきます」


 それからという物、記者からは質問の嵐だった。

 俺への直接的な質問も多く、突然宣伝棟にされた感想を聞かれたり、個人的な事も色々聞かれた。

 また、西園寺さんへの風当たりも強く、老害発言への謝罪をしないのかというツッコミに対して、自分も老害である事実があるのに、なぜ謝罪をしなければいけないのかと感じで突っぱねていた。さすがである。

 この場にサイテック社長の鴻池さんが居ない理由も聞かれた。

 社長は内藤さんに全て一任する形で来なかったが、立場上、別件でスケジュールが調整できなかったと説明した。

 それに大泉さんへの質問も多く、政界のご意見番として従業員自由勧誘制度を支持し、全国へ広める支援をすると語ってくれた。


 そして内藤さんは、俺も聞かされていない新しい事を突然言い出した。


「ネット外での広報活動は北村弘樹君という事ですが正しくは北村君を先頭に構え、そちらの市川忠司君、小鳥遊理香子君、それと会場のあちらに居る、川村大智君、橋本裕也君、杉浦彩君を加えた6人の勇者パーティとして今後の広報活動を行いたいと考えています、みなさま今後ともよろしくお願いいたします」


 突然の発表に、全員が目を丸くする。

 当然、全てのカメラが全員の顔を抑えようとフラッシュの嵐を降らせる。

 内藤さんは俺の方を向いて、またニヤリとする。


 俺の書いた筋書き通りに記者会見は終わりを迎え、各記者は慌てるように会場を後にし、恐らく今日の夕刊にはこの会見の内容がデカデカと掲載され、ニュース番組では全国に報道されるんだろう。

 そこでは俺達が勇者として発表された上で、炎上の行方や俺たちの処遇は全国民に委ねられることになる。


 こうして俺達は人生で一番多くのフラッシュを放たれ、閃光魔法を受けた後のように目がチカチカしたまま会場を後にするのだった。

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