第29話 魔界侵入計画

 弘樹のテレビ収録が終わった翌日。


 俺は今日も作業場で検品作業を進めながら、色々考えてしまう。

 どんな編集がされるのか、テレビで映る自分がどう見えるのか不安で仕方がない。


 大手民放全国放送7チャンネル、水曜夜9時の人気番組に来週出るんだ。

 放送された後、職場の他の人や、町行く人にどう見られるんだろう。


「ううう、心配過ぎて死にそうだ……」


 しかし手と目だけは産業ロボットの様に坦々と検品作業を進める。

 ふと検品ラインの奥の方で作業している理香子の背中が視界に入り、顔が見たいなと思って念を送ると、それが通じたのか作業を中断して背伸びをする。その様子を見てほほ笑んでいると、理香子もこちらを振り返り目が合って小さく手を振る。


 かわええ。癒される。


 こちらも手を振り返しながら、彼女とはこうもありがたい存在だったのかと思う。

 そんなことを考えてふと我に返りまた検品作業に戻る。





 午前の作業を終え社員食堂で集まり6人で昼飯を食べていた。

 今日はたまたま全員が出社している。


「はぁぁ、疲れた……」

「弘樹、お前無理してないか? 昨日収録だったんだろ?」

「あーそっかテレビ収録終わったんだっけか、やっぱ緊張した?」


 ため息をつく俺に忠司と大智が聞いてくる。


「緊張はしたけど緊張で死んだ奴は居ないはずだから大丈夫だとは思う」


 そう言う俺を見て裕也も少し心配する表情を見せた。


「作業監督になってこっちの仕事も色々大変だろ? あんまり無理するなよ?」


 どうやら俺はかなり疲弊している顔をしていたんだろう。

 皆に心配をかけてしまっているようで少し申し訳ない。


「……弘樹君」

「弘樹あんた、大丈夫だったの?」

「ん、何が? 収録?」


彩が収録の内容を聞いてきた。


「うん、私達も心配してたのよ? 収録はどうだったのよ?」

「少しトラブルは有ったかな、でもまぁ撮れ高はバッチリだったらしいよ」


「トラブルって!?」


 トラブルと聞いて驚き、理香子が突然割り込んできた。


「うーん、内藤さんが俺のコメントを勝手に書き換えて焦ったり?」

「え? それって、内藤さんが?」


「それしかないと思うし。でもまぁ、何とかなったと思うよ?」

「そっか……」

「大丈夫、大丈夫! 内藤さんもそう言ってたから」


俺がそういうと二人は一瞬目を合わせ、一呼吸おいてから何かを言いかけた。


「あ、あのね、弘樹君、実は……」


噂をしなくても突然やってくるあの魔人の噂をすれば、当然……。


「諸君! お疲れ様!」


 理香子と彩の背後から突然現れて肩をぽんと叩き、驚いて反応する。


「あ、お、お疲れ様です内藤さん!」

「う、うわ、出た! あ、いやお疲れ様です」


 もう俺は驚かないが、出たって言っちゃうよな。

 そのうち慣れるよ彩。


 本当に神出鬼没な魔人だ、天下の大企業、株式会社サイテックのCEOの筈なのに、なんでこんな検品作業の現場なんかに良く現れるんだ?

 CEOて暇なのか?

 ちゃんと働いてるのか?

 と疑問に思いながら全員が挨拶をする。


「「「お疲れ様ですー」」」

「昨日は大変だったね北村君! お疲れさん!」


そういうと、俺の横にドカッと座り、俺たちのテーブルに混じってきた。


「今も緊張はしてますけど出来ることはやったって感じですかね」

「そうだな! よくやった! アッハッハッハ」


「な、内藤さん、この前電話で聞いたのは大丈夫だったんですか?」

「うん? ああ、俺は何もしてないが大丈夫だと思うぞ!」

「そ、そうですか、良かった……」


 理香子はそういうと、彩と何か目線で会話している。

 少し疑問に思った俺は聞いてみる。


「何? この前の電話って?」

「う、うん、実は……」


「あーうん! 実は小鳥遊君から少し電話を貰って相談に乗ったんだよ!」


 内藤さんは理香子の発言を遮るように話してきた。


「相談?」

「あ! ああ、うん、ちょっと弘樹君の事が心配で相談したの、ア、アハハ」

「うんうん、初のテレビ出演てことで弘樹の事をとても心配して、電話よこして来たんだよな! 北村お前いい彼女持ったなぁ! 大事にしろよ! ワハハハハ」


 んー? 魔人と理香子たちの様子が少しおかしい。

 なにかあったのだろうか……。

 でも、この人が言う気が無いなら聞いても無駄なんだろう。


「で、今日は何か要件ですか?」

「そうだそうだ、用って程でもないんだが今後の打ち合わせをな」

「じゃあ、食後堀川さんの事務所ですか?」

「んー、ここでもいいか。もうそろそろ一般的に秘密って訳でもなくなるしな」

「はぁ……」


 作業場に良く来るといは言え内藤さんは、言うても会社のトップの一人だ。


 こんな作業員が来るような社員食堂ではやはり目立つ存在。

 近寄りがたいオーラのせいか、人が寄ってくることはないが、周りの注目を集めているのは確かだ。そんな人が、周りに聞こえるような大声で話し始める。


「北村、お前には会社の看板として今後動いてもらう訳だが、そこで俺以外の上層部に顔合わせをする必要があってな。で放送の翌日に社内会議をセッティングした。当然お前は参加するとしてだ、お前が連れてきて入社した数人にも来てもらって意見を聞きたいって事になってな」


「はぁ、上層部ですか……他の数人って?」


 俺は最近この人の突発的な告知に驚かなくなってきた。


「うむ、お前が会社に誘った2,3人を連れてきて欲しいんだ。検品作業のノルマとか作業員スケジュール的にそれは可能か?」


 そうなのだ。

 今俺は作業監督もしているため全員の退勤や作業ノルマの計上を任されている。


 毎日やってくる、検品が必要な機材の点数と、検品に必要な人員や作業時間を見積り、検品作業員全員の出社日程を割り振っている作業なのだがこれが実は結構大変。

 俺は脳内でざっと記憶している残りの作業点数と作業員のスケジュールを思い出し見つもる。


「放送の翌日って事は来週木曜の午前ですよね。うーん、調整すれば半日なら俺入れて4人くらい大丈夫だと思います」

「そうか、じゃあ人選はお前に任せるが、お前から伝えてくれるか?」


「あ、いや、ここにいるメンバー全員、俺が最初に勧誘した仲間なので、来週木曜に出社する予定の奴から3人連れて行くのでいいですか?」


「それでかまわんよ」

「分かりました、じゃ人選決まりましたらメール入れときます」

「うし、たのんだ北村! じゃ、みんな午後も頑張れよ!」

「はい、お疲れ様です」

「じゃ、よろしく! 歩留まり下げんなよ!」


 そう要件を告げると、ズバーンと立ち上がり、ザッザッザっと去っていく。

 その捨て台詞は、内藤さんのマイブームのようだ。


「と、言う事なんだけど、来週木曜にお偉いさんとあってもいい奴いる?」

「あたし木曜は休みだ! 悪いね!」

「ア、あは……ご、ごめんなさい弘樹君、私も休み取ってるかも」


 うう、女性陣は休みの様だ。

 無理に出社してもらう訳にもいかんからなぁ。


「俺は出社だけど、そんなの無理だぞ……?」

「俺もちょっと……」

「うーん、あの人に巻き込まれるのはなぁ……」


 結局全員が目を合わせて困っている。


「忠司、俺が困ったら助けてくれるんじゃなかったっけか?」


 そう言ってニヤリと忠司を見つめる俺。


「う、わ、分かったよ……お前らも手伝え!」

「しゃーないかぁ」

「うー、お偉いさんとか苦手なんだよなぁ」

「忠司、裕也、大智、ありがとう! 助かるよ」


 そうして3人がサイテックのお偉いさんとの会議にお供することになった。


「前日にも連絡するけど、みんな背広持ってこいよ? あるよな?」

「やっぱ、そうだよな」

「あー、クリーニング間に合うかな……」

「なんか今から緊張する……」


 俺がそういうと3人が少しめんどくさそうな顔をする。


「アハハ、ガンバレー! 男ども!」

「頑張ってね!」


 彩と理香子が無責任な応援をする。


 そうして、4人でサイテックのお偉いさんとの会議に挑むことが決定した。


 改めて考えると、これから会う会社の上層部とは、当然この会社を動かし、ひいては日本全体の模範ともいえるようなこの大企業サイテックの中心部。


 そこは普段から魔人内藤が出入りする場所だ。

 恐らく魔神や魔王、魔帝クラスが跳梁跋扈し、既得権益を奪い合う魔界の様な場所だろう。


 行くのは勇者の俺と、戦士忠司、騎士裕也、盗賊大地という感じの4人。

 回復の理香子と魔術師の彩が居ない物理攻撃だけのメンバーとなった俺たちが、そんな魔界とも呼べる場所へ行き、目を合わせただけでどこかが縮こまる様な方々から色々な事を聞かれる事になったのだ。恐らく唯一の味方は魔人内藤だろう。


 俺が会社の顔になるのと、こいつらを連れて行くのになんか関係があるのか?

 内藤さんは俺達をお偉いさんと合わせて何を企んでるんだ……?


 それと、さっきの理香子と彩の様子。

 何となく聞きそびれてしまったが内藤さんへの電話とは何だったんだ?


 そして、俺のテレビ初デビューまで、あと4日と迫っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る