第3章 第五の脅威(4)

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 聖竜歴1249年7の月2の日――

――ゲインズカーリ王国王都ゲインズカリオ、王城、王女の寝室。


 王女ロザリアはその美しき四肢に浮いた汗をぬぐいながら、カエサルに寄りかかって言った。

「王よ。そろそろ、何か手を打たねばなるまいよ。負けたままでおれば、この国は侮られるというもの。兵の補充の状況はどうなっておる?」


 カエサル・バルは王女の胸を掴みながら答える。

「わかっている――。兵の補充は完了した。前回の東征において、他の『保有国プレッジャー』も聖竜の契約ドラゴンズ・プレッジを発動せずにおわった。これは発動する勇気がないからなのは明白。つまり、聖竜を使わずに侵攻すれば、相手は聖竜を使えないということだ――」

そう言って、王女を再び押し倒しその上にまたがると、上から王女を見据えて、

「まずは、西のウィアトリクセンを滅ぼしてくれる。そうして、俺は二つ目の聖竜の契約を成し遂げる。そうすれば、世界制覇も夢ではなくなる――」

そう言って、王女の上に再び体を重ねた。


――――


 聖竜歴1249年7の月4の日――

――ウィアトリクセン共和国首都ウルダーザ、政務庁舎内、国家主席執務室。


 国家主席ビュルス・ハイアラートと側近のアリソン・ロクスターは信じられないような情報を聞いていた。


 ゲインズカーリ王国がウィアトリクセンへの侵攻の準備を着々と進めているという内容の報告であった。


 とにかくこの国の諜報能力は目覚ましいものがある。

 多種の亜人族の共和国という性質上、いろいろな能力にたけている種族が多いのがこの国の特色でもある。

 今回の情報は、ゲインズカーリに忍ばせている『リンド族』からのものだった。

 リンド族――体は華奢きゃしゃで小さく、成人しても子供ぐらいの背丈しかない小人族の一つだ。その身体的特徴と、鋭い聴力を生かし、潜入諜報に長けている者が多い。

 そして、「伝書鳥でんしょちょう」を扱い情報伝達速度も圧倒的に速い。

 ただ、個体数があまり多くないうえ、諜報活動能力に長けている者も今ではかなり減ってしまったため、世界中に渡らせて活動させるまでは数的に不可能であった。よって、ことに最大の脅威である隣国ゲインズカーリの各重要拠点に数名忍ばせている程度である。

 今回の情報はそのうちの一人からによるものだった。


「さすがに攻め込んでくるとなれば対抗しなければなるまいが、我が国の戦力では到底及ばぬ。聖竜の契約を発動させるしか手がなくなってしまうが、これはまずい。世界が滅んでしまいかねない。どうすればよいか――」

ビュルス国家主席は頭を抱えて、側近のアリソンに漏らした。 


「致し方ありますまい。先般、ゲインズカーリ軍をさんざんに打ち破った、メイシュトリンド王国へ救援を求めましょう」

アリソンはそのように提案した。


「しかし、かの国はクルシュ川危機後すぐに、専守防衛を宣言しておる。はたして援軍を送ってくれるものかどうか――?」


「その点については、おそらく放置はできますまい。かの国が黒鱗石を使って何かを企んでいることは明白です。我が国がゲインズカーリに落ちれば、メイシュトリンドにとっても黒鱗石の供給が止まる為、これは大そう困るはず――。例えば、援軍を派遣できないというのであれば、そうですな、かの「漆黒の装備」を支援してくれるよう要請されればいかがでしょう――」


「なるほど、軍を動かせぬというなら、その武具を送れというのだな――?」


「はい。いずれにしても、おそらく我が国が滅ぶことは食い止めなければならぬことだと思われますゆえ、何らかの対抗策を用意するものと思われます」


「そうだな、場合によっては、黒鱗石の値段を幾らか下げてやってもよい。メイシュトリンドとつながっておくのは、懸命なことだと私も思う。早速、ミリアルドを通じてリチャードとラウールに掛け合え、しかる上で、カールス王に正使を送るのだ、急げ――」


「はい、では急ぎ取り計らいまする」

アリソンは執務室を辞し、すぐに使いの支度にかかった。


――――


 聖竜歴1249年7の月6の日――

――メイシュトリンド王国王城、国王執務室。

 

 中央のテーブルに錚々たる面々が顔をそろえていた。

 国王カールス、執政ゲラート、将軍フューリアス、将軍キリング、そして、リチャード・マグリノフ――。


「ウィアトリクセンからの正使が東の海を渡って本日我が国にやってきた。援軍の要請である。近く、ゲインズカーリがウィアトリクセンに侵攻を開始する様子だということだ。諸君らの意見を聞きたく、集まってもらった――」

カールス国王の言葉を皮切りに、ウィアトリクセン危機対応会議が始まった――。

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