第3章 第五の脅威(2)

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「シエロ・、そなたをゲラート・クインスメアの養子とし、メイシュトリンド王国貴族会の一員として迎えることを決す。なお、これ以降、シエロ・クインスメアと名乗り、クインスメア子爵家正式後継者として、貴族として品格のある行い、相応なる知識、人格を身に付ける努力を怠らぬよう申し渡す。――よいな。これはひとえにそなたの養父ちち、ゲラートの厚情によるものであることを決して忘れるでないぞ」

国王カールスは最後にそう付け加えて、目を細めてこの青年を見つめた。


 シエロは感極まって溢れそうな涙をこらえて、

「身に余る光栄にございます。これよりは諸先輩がたに及ばずながらも、貴族の名に恥じぬよう、心身を律して励んでまいる所存にございます」

そう言って、深く頭を下げて最敬礼した。


 謁見の間に参列した、貴族たちは各々拍手で歓迎した。

 その中には、シエロを拾ってここへ連れてきたフューリアス・ネイ将軍の姿もあった。

  

 そして、もう一人、この青年をいぶかしげに見ているものがいた。

 世を導くもの・リチャード・マグリノフ、このエルフの研究者はシエロが纏う異質な雰囲気を目ざとく察知し見逃さなかった。


――――


「しかしめでたいことだ。これでお前にも後継ぎができたということだな、ゲラート」

フューリアスは執政執務室のソファに腰かけて目の前の友に祝辞を送った。


「ああ、いつの間にか、あの子は私にとってかけがえのないものになっていたようだ。ふと、その想いに気づいてしまったとき、もう抑えることはできなかったよ」

ゲラートは目を細めて目の前の親友にそういったあと、

「あの子を連れてきてくれてありがとう、フューリアス。本当に感謝している」

と礼を述べた。


「ふっ、なにを言うか、感謝しているのはこちらの方だ。あの日シエロを受け入れてくれなければ、おれがなんとかしなきゃいけなかったんだからな。ただ――、このままシエロを軍で預かっていてよいものか。お前の意見を聞こうと思っていたのだが――」

フューリアスがそこまで言ったとき、執務室の扉がコンコンと鳴らされた。


「父上、シエロです。よろしいでしょうか?」


「はいりなさい」

ゲラートが腰かけたままそう声をかけると、扉が開いてシエロが現れた。


「フューリアス将軍、お義父さん、お邪魔いたします。実はお二人にお願い事があってまいりました」

と、シエロはいつになく改まった声色で言った。


 ゲラートはフューリアスと目を合わせた後、ゆっくりと応答した。

「どうしたんだ、改まって。言ってみなさい」


「ありがとうございます。実は、このまま軍にいさせてもらえないかと思っております」


 ゲラートは目を細めて、

「どうしてそのようにしたいんだ?」

と静かに問う。


「はい。私にはこれといってお返しできるものがございません。かくなる上は軍に身を置き、国家のため父上のために働きたいと思っております。これまでも、そのつもりでここまで軍に仕えてまいりました。ぜひ、将軍のもとで功を立て貴族の名に恥じぬ働きをいたしたいと思っております」

シエロの決意は確固たるもののように聞こえた。


 フューリアスとゲラートの二人は顔を見合わせ、高らかに笑った。


「シエロ、貴族の跡継ぎとしたのはあくまでも私自身の私念しねんによるもの。お前がそれを気にする必要は何もない。お前のことは大切で守ってやりたいと思うが、それは親心というもの。お前の行く道を狭めたり阻んだりするつもりは毛頭ないのだ。お前の思うように生きればよい。お前の名は、シエロなのだからな」

そう言って、改めて友の方に向き直り、やおら深々と頭を下げた。

「フューリアス将軍、不肖の息子ではあるが、宜しくお願い致します」


「やめろ、ゲラート。そんなものはいらん。シエロの成長は目を見張るものがある。軍人としてこのまま順調に育てば、そう遠くないうちにいっぱしの士官となるだろう。それはこいつの才覚によるものだ。貴族の家系でなくとも、俺は軍人としてのこいつに目をかけている。実は俺からも頼むつもりでここへ来たんだからな」

そう言って、手を振った。


 その時だった。

 執務室の扉をたたく音がした。


「クインスメア公、失礼つかまつる。リチャード・マグリノフでございます」


 やはり来たかとゲラートとフューリアスは目くばせをした。

 そして、シエロへ奥の休憩室へ入るよう無言で指示を送る。

 シエロは訳が分からぬまま、二人の指示に従って執務室奥の休憩室へと入って扉を閉めた。


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