第1章 英知の結実(5)

 聖竜暦1243年8の月31の日――――

――――『非保有国ノンプレッジャー』メイシュトリンド王国国王執務室。


「先日、南のヒューデラハイド王国にて、赤炎竜ウォルフレイムによる聖竜の晩餐が発生いたしました。また、遠く南西のレダリメガルダ帝国にあっては、協力国の一つが緑土竜ウルペトラの襲撃により滅亡し、その領土はレダリメガルダ帝国に編入されました」

メイシュトリンド王国執政ゲラート・クインスメアは王へ報告した。


ドラゴンズ・プレッジ聖竜との契約か――。たしかに、世界大戦は起きなくなり、これまでより戦争による死者の数は激減したが、本当にこれが正しい方法であったのか、我はいまもなお、疑問に感じておるのだ……。」

メイシュトリンド王国国王カールス・デ・メイシュは憂鬱そうに吐き出した。


 メイシュトリンド王国は、南にヒューデラハイド王国、西にゲインズカーリ王国の二つの『保有国プレッジャー』を隣接国として持つ小国であり、南のヒューデラハイド王国と友好関係にある。

 『非保有国』であるこの小国は、ヒューデラハイド王国と協力関係を結び、西のゲインズカーリ王国との間に位置する、いわゆる「緩衝地かんしょうち」である。

 『保有国』同士が隣接すると、何かと不都合があったり、互いの国家間に緊張状態が生じるため、『保有国』たちはあえて、互いの国境の間に存在している小国を、

 メイシュトリンド王国国王カールス・デ・メイシュは賢帝と称されるほどに有能な王であった。

 しかしながら、保有国にはなりえなかった。

 なぜなら彼の心根こころねでは、「聖竜との契約ドラゴンズ・プレッジ」について否定的であったがためである。


聖竜との契約ドラゴンズ・プレッジ』――――


 四聖竜は原初の昔から存在していた。基本的には人類に対して無関心であり、不老不死であるとされる。なぜなら、彼らは、この世界を形作った四つの素粒子の顕現であり、素粒子そのものであるからだ。

 そんな彼らは、戦争を繰り返す人類を横目で見つつ、たまに大地を焼いて「空腹を満たす」存在だった。当然ながら、その大地に人や動物が息づいていようが無関係に焼くことはあったが、とくに何か特別な意思が働いているわけではない。

 彼らにしてみれば、自身が棲み支配する土地にいつの間にか現れて、自分の領地だなどと争いを繰り返している小賢しい動物の一種族でしかない人類の事情など、気を払う価値すらないものなのだからだ。

 好きな場所から、素粒子を集め、「空腹を満たす」。そこにたまたま人類が住んでいた、ただそれだけのことである。


 そんな戦争を繰り返す人類の歴史のなか、いかにすれば戦争を終結させられるかを考えたものがあった。

 名を、リチャード・マグリノフと言う。

 彼の理論はこうだ。


 人類の闘争の歴史は、そもそも互いの領地の奪い合いから始まったものではなく、侵略してくるものに対する対抗策として、戦力の増強を図り続けたためであり、その戦力差に決定的なものがなかったために、繰り返し起こるのだという。

 然るに、圧倒的な戦力を複数の国家が保有すれば、そこに対する小国からの侵略がまずなくなる。なぜなら、勝ち目のない戦争は無意味だからだ。

 そして、その戦力が強大であればあるほど、つまり、この世界を破壊しつくすほど強大なものであれば、それを持つ国家同士の戦争は、結果、世界を破滅に追いやることとなる。

 そんな戦争もまた、起こす意味がなくなるのだ。なぜなら、奪うべき土地も、財も、人も、灰塵と化したならば、それを奪う意味もないからである。

 では、その様な圧倒的な戦力はこの世に存在するのか――。

 人類は長い間戦力増強に研鑽を重ねたが、どこまで行っても遠く及ばないものがこの世界にはある。


――四聖竜。


 彼らと契約を交わし、その庇護を受ける4つの国家が誕生することで、互いに争うことに抑制がかかり、この世界に安寧は訪れる――


――竜抑止力理論ドラゴニック・デタランス・セオリーという。


 この理論を全面的に支持し、実現させるべくいち早く動き出した国家がいくつかあった、結局、その行動の速さが決め手となり、四聖竜は4つの国家とそれぞれ契約を交わした。


 これを『聖竜との契約ドラゴンズ・プレッジ』という。


 果たして、互いに圧倒的な戦力を持った国家は、周りの小国との協力関係を次々と締結させ、ほぼほぼこの4つの勢力に世界は分かたれることとなった。


 その際、『4大保有国』は互いの国境の間の小国を敢えて征服や統合をせずに国家として尊重し残すことによって、「緩衝地」をつくり、『保有国』同士の緊張状態を緩和させるように計らったのである。


「――ところで、「あれ」の方の研究は進んでおるのか?」

国王カールスが執政ゲラートに聞いた。


「はっ。何度も改良やパターンを変えて試しておりますが、今だ完成には程遠いかと……。しかし、本当に「あれ」を完成させることなどできるのでありましょうか?」

執政ゲラートはやや訝しげに応える。


「我も半信半疑であるわ。しかし、の言うことだ。可能なのだろう……。『聖竜との契約』も初めは不可能だと思われていたのだが、実現できてしまったのだ、それの提唱者なのだからな――」

国王カールスが、やや天を仰ぎ見つつ応えた。


「世を導くもの、リチャード・マグリノフ、ですか……」


「ああ、次の導きは、真の安寧であればよいのだがな……」

カールスは嘆息交たんそくまじりにそう言った。




――――――――――


こんにちは。永礼経です。

いつもお読みくださりありがとうございます。


群像劇ってむずかしい~><

これ、ちゃんと整合性取れるの? とか思いながら書いてます@@;


そろそろ、登場する国が増えてきて、位置関係とかわかりにくくなってきてるような気がしますね。早めに、簡易地図作った方がいいかな~。


それでは、執筆のエネルギーになりますので、よろしければコメント、応援、フォロー宜しくお願い致します!







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