3'

3'



 枕の質を下げた効果は覿面に顕れているようだった。災転じて福を成すと言うか、不眠の性質を斯様な使い方で活力に代えると言うのは割合最近まで思い付きもしなかった。精彩を喪って久しい人生において数少ない娯楽と言えた睡眠を削る発想が抑無かったのだろうと思う。


 毎朝の倦怠感も慣れたものだ。時折脳髄を引き出して冷水にくぐらせたくなる程度。安眠の不足が命を縮めるとしても、望む所であるから何を思うでもない。


 消極的自死とは言え心身を痛め付けるのに怠りが有ってはならない。叶うなら多方面に不摂生不養生を徹底すべきところ。だと言うに、何故かダイエットなど始めてしまう自己矛盾には我ながら首を傾げざるを得ない。


 贅肉にまみれた肢体で棺に押し込まれる無様さを思うと彼に顔向けができない、そう思うが故だった。しかし、選ぶ因も否応の無かった彼に対して真に誠実な死に様の正否は考える程ど壺に嵌まる気分だ。綺麗に死化粧を整えて周囲に送り出して貰った俺を彼に差し上げるべきか。生き苦しんで今生の罪業を濯ぎ禊いで赦しを請うか。正直手探って迷走

するのは如何にも馬鹿らしいが、苦しみのた打つネタは多いに越した事も無い。自己嫌悪に至るネタもまた然り。"心"身共に自虐を極めてようやっとどっこいな半生だったのだ。


四の五のと言って体裁も後の悲哀もかなぐって幕を引かない理由にも既に心当たりは有った。要するに今世は居心地が良いのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る