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出勤時刻が近い、身仕度を整えて玄関を後にする。在宅仕事様は御多忙らしく玄関までの見送りは無かった。余程熱中しているのだろうか、常ならば部屋の奥から申し訳程度に「行ってらっしゃい」と声が掛かるのだが。まぁ仕事に熱心な彼も其れはそれで魅力的で在るから構わない、埋め合わせは帰宅時の出迎えで存分にして貰おう。門扉を後ろ手に閉めて数歩進んだ所で私を追い掛ける様に玄関の扉が開く音が耳に届く。
「お弁当!忘れてる!」
あぁ、ありがとう
言われてみれば鞄が軽い。苦笑を浮かべて踵を返した。
此で弁当が君の手製なら格好がつくのにな?
「そう言うこと宣うなら貰っちゃうよ?俺には紛れもない愛妻弁当だし」
見送りは欠いても皮肉は欠かない辺り良い性格をしている。吹っ掛けたのは私からなので文句も言えないが。「夜はお前が下じゃあないか」と言う反撃も蛇足と思い直して喉で止めた。
「折角だから、もういっこ忘れ物」
言うが早いか唇を重ねる彼。身長差の為半ば飛び込む様に背伸びする彼に合わせて体を屈め片手で細い腰を支えた。ご近所の目が有れば少々気恥ずかしい有り様だが幸い人気は無い。暫し堪能して彼の満足する気配に合わせて身を引いた。
「お仕事、頑張ってね」
あぁ、君もな
傍目には立派な新婚夫婦だ。どちらが夫かは喧嘩の種になり兼ねない故口にこそ出しはしないが。
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