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 浅い眠りを幾度か繰り返し漸く、と言うところに折悪く鳴り響いたアラームを無感動に止めた。


 起き抜けに、溜め息を一つ。


 連日の夢見に辟易こそすれ、沈み込む程に時間は無い。脳が裏返りそうな倦怠感を熱いシャワーで辛うじて洗い落とし身仕度を整えた。鍋に作り置いたスープを形ばかり腹に収め家を出る。


 遠大な自死の計画を早々に立てたまでは良かったが、其れを成す迄の食い扶持を稼ぐ必要に迄は思考が至らなかった事は痛恨の極みだ。肺腑を肝臓を虐め抜くコストを計算に入れて生きた先達も在ろう筈はない。そんな面倒を抱えずとも彼岸に渡る船の当ては無数に有るのだから。


 『手頃な方法じゃあ周りが納得しねぇんだ』


 そんな類いの言い訳を続けて彼是干支一回りは疾うに過ぎた。出会いからは廿年、薄れてもおかしくない影は未だ鮮明に瞼の裏に確と焼き付いている。矢張連夜毎の再会が原因だろう。


 頃年は「只其れだけを目的にするなら少しばかり余生を間延びさせるのも悪くない」とすら思い始めてしまっている。幸福を外注せずに自給自足で回すなら、二人で生きるのと然程に違いが有ろうか。


 姿形、声や香り、触れた髪の艶やな指触り、重ねた唇の、熱や粘つきまで本物と遜色は無いのだ。無論脳が都合良く変換しているのだろうけど、それすら知覚出来なければ現実との差違は無いのと同じだ。


 浅い眠りに君との邂逅を得る為に出来ることを考えて生きて行こう。


 差し当たって、枕は作りの悪い物に買い換えてみたよ。

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