第7話

「そう言ってもらえて、私も嬉しいわ。……でも、そんなにアンジェラさんが苦手なら、面と向かってそう言って、婚約なんて破棄しちゃえばいいじゃない」


「それが、そうもいかないんだ。数年前に、実力者だった父上が亡くなったせいもあって、僕の家は今、ちょっと立場が良くないんだよね。だから、王宮や、他の貴族に対しても強い発言力を持つアンジェラの家との関係を壊すわけにはいかないんだ」


「ふうん、上級貴族も、色々大変なのね」


「そうなんだよ、これでけっこう、気苦労も多いんだ」


「でもそれじゃあ、家の権威を保つためだけに、好きでもないアンジェラさんと結婚するってこと?」


「まあね。でもそれくらいは我慢しなきゃ。これからも上級貴族として、良い暮らしを続けていくためにはね。それに、僕はアンジェラの全部が嫌いなわけじゃないよ? 好きなところだってある」


「へえ。どんなところ?」


「顔と体」


 そこで、チェスタスとエミリーナはどっと笑いだした。

 下卑た、嫌な笑いだった。


 全身が屈辱でカッと熱くなり、気がつけば私は、駆けだしていた。


 チェスタスの顔を、引っぱたいてやる――


 そう思っていたのだが、エミリーナから思わぬ言葉が聞こえてきて、ピタリと足を止める。


「それにしても、裏口入学の件で色々と助けてくれて、本当にありがとうね、チェスタス。二週間以上たっても、全然バレる気配もないし、王立高等貴族院の身辺調査なんて、けっこうゆるいものなのね」


 裏口入学ですって?


 一気に冷静になった私は、そろりそろりと歩みを再開し、二人からつかず離れず、尾行をすることにした。


 チェスタスが、口に人差し指を当て、「しーっ」と言ってから、言葉を続ける。


「裏口入学だなんて、人聞きの悪い言葉を使っちゃ駄目だよ。きみは、特待生として『特別転入』したことになってるんだから」


「そうだったわね。失言失言。でも、他の特待生は皆、知能テストと魔力テストで桁違いに凄い数値を出している、いわゆる『天才』ばっかりだから、私だけ悪い意味で目立って、問題にならないかしら?」


「大丈夫だよ。……あんまり大きな声では言えないけど、きみ以外の特待生の中にも、きみと同じ『特別な方法』で入学した生徒は、いっぱいいるんだ。でも、誰一人バレちゃいない」


「ふうん……」


「テストの数字をごまかす方法なんて、いくらでもある。心配ない、先生たちとは、もう話をつけてある。エミリーナ、きみは今度の試験で、特待生の名に恥じない、凄い成績を叩き出す予定になってるんだ。……やる前から、結果は決まってるんだよ。その、素晴らしい成績を見せつけられたら、誰も、きみのことを疑ったりしなくなるさ」

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