第6話

 耳を澄ますと、チェスタスとエミリーナの会話が、まるですぐそばにいるように、聞こえてくる。チェスタスは、これ以上ないほど愉快そうに笑いながら、言った。


「あはは、エミリーナは本当に冗談が上手いなぁ。やっぱり、きみと一緒にいるのが一番楽しいよ」


 エミリーナもくすくすと微笑んで、言葉を返す。


「私もよ。男の子と話すのって苦手だけど、あなただけは別。気心が知れてるし、なんでも話せるから、とても楽しいわ。……ねえ、今、『きみと一緒にいるのが一番楽しい』って言ってたけど、それって、婚約者のアンジェラさんといるより、私といる方が楽しいってこと?」


 いきなり私の名前が出て、ドキッとする。


 一瞬、『音声盗聴魔術』を使っていることがバレたのかと思ったが、どうやらそういうわけではなさそうだ。二人はこちらを振り返ることもなく、ごく普通に歩いている。ホッとした私は、静かに聞き耳を立て続けた。


 チェスタスはエミリーナの問いに、ほとんど迷うこともなく、即答する。


「そりゃそうだよ。アンジェラは美人だしスタイルもいいから、一緒に歩いていると、周りの男子たちから羨ましがられて、気分はいいんだけどさ。ちょっとね……」


「ちょっと、なに?」


「うん、ちょっと、疲れるんだよ、彼女といると」


「へえ、そうなんだ。……どう疲れるの?」


「そうだな……ハッキリ言うと、話がつまらないんだよ」


「アンジェラさんの話が退屈だから、疲れるの?」


「いや、うーん、単純に退屈って感じじゃなくてさ。えっと、アンジェラは頭がいいし、魔法関係の研究を色々やってるから、それについての話をよく僕にしてくるんだけど……」


「だけど?」


「その内容が、難しすぎて、意味わかんないんだよ。でも、僕も男として、『ごめん、難しくて何言ってるか全然わかんない』とは言えないだろう? だから、分かったような顔してうんうん頷いてるんだけど、これがかなりきついんだ。わかるだろ? 全然興味のない、理解できもしない話に相槌を打ち続けるなんて、拷問と一緒だよ」


「あはは、そうかもね」


 ショックで、ほんの少しの間、私は足を止めた。


 チェスタスは、いつも真剣に私の話を聞いてくれていると思っていたのに、内心では私との会話を、拷問同様だと感じていたのか。


 打ちひしがれる私に追いうちをかけるように、チェスタスは滑らかに言葉を続ける。


「だから、エミリーナ、きみが王立高等貴族院に来てくれて、僕は本当に助かってるんだ。転入生であるきみの世話をするという名目で、僕はアンジェラと離れられるから、ここ二週間ほどは、ストレスのない毎日が送れて、学校生活がとても楽しいよ」

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