第10話 見抜かれる
このゴリラの、違った、猿の獣人の方が司祭様……。森の賢者と言われるだけあるな。ここは街中だが。
椅子から立ち上がり、ライリー様におじぎをする。
黒の司祭服は色の決まりがあるのか彼の好みなのか分からないが、後者ならガイアさんと趣味が合いそうだ。……いや、体格も似ていて、間近に来られると迫力がすごいんだが。
「今日はお祈りにでも来られたのですかな? おや、君は……」
「この方は先ほどお話しさせてもらったので大丈夫です」
少し声を落として俺を見つめるライリー様に、すかさずサイツさんよりフォローが入る。しっぽのない猿の獣人は教会関係者全員に警戒されている模様。前に来たその貴族とやらは何をやらかしたんだろう?
「おっと、これは失礼しました。神の前ではみな平等に接するべきなのに……私もまだまだ未熟ですな」
「いえ、気にしないでください。自分にしっぽがないのは……」
そのうちテンプレになりそうな自己紹介をしようとすると、にこやかに微笑んでいたライリー様が真顔になる。な、何だ?
「……君は、いや、あなたはいったい何者ですか?」
突然丁寧な言い方になるライリー様。俺……まだぼろを出すようなこと何も言ってないよな? 助けを求めるようにガイアさんとポッチを見つめると、2人とも焦った様子で口をパクパクさせている。
「こ、この子はラオで暮らしている知り合いから預かっておりまして……」
「そうそう! 決してパンジャルの出身じゃないよ! 俺たちで口裏合わせてるんじゃないからね!」
ポッチ、慌ててるのは分かるが、その言い方は黒判定される! ほら、サイツさんまで不審顔に……あ、なんか空気が重くなってきた……。
「サイツ、それは不要だ。……お願いします。あなたはただの猿の獣人ではないはずです。あなたの口から真実を聞かせてください」
「どうして……そう思われるのですか……?」
魔法は解いてもらえたようだが、追い詰められていることには変わりない。そもそもなんでバレたんだ?
「……もうご存じかもしれませんが、私は以前、女神様より治癒魔法を授かりました。その際、幸運にもそのお姿を拝見し、直接お言葉を交わすことができたのです」
「神による特別な能力や新技術の授与は、私のように知らぬ間にできるようになっている場合がほとんどです。ライリー様のように直接お会いしたという方は、この国の歴史上においても稀です」
サイツさんの補足を聞き、その人たちの話で神様たちの姿が伝わったことが分かった。
「長年、信仰を続けてきたことに報いて、お姿を現してくれたのだと感動しました。初めてお声を聞いた時の衝撃は今でも忘れません」
「……それと、ヒビトに何の関係があるのさ?」
俺の気持ちを代弁するのがうまいポッチ。ただ女神様と似ていたというだけなら、こんなに確信を持った追求をしてこないはずだ。自分だって猿の獣人なわけだし。
「あなたの声から……女神様のお声と同じ力を感じます。あの全ての生ある者の心に直接届くようなお声を聴くだけで……この方が神であると信じるに十分でした」
……バレた原因は会話能力だった。どうやら神様たちの声を直接聞いたことがある人には、俺の声に何か同じものを感じ取れるらしい。
どうしよう……。今やすべての目が、見知らぬ生き物を見るように俺に注がれている。四面楚歌というやつだ。
……この世界でも故事やことわざは通じるのかな?
「ヒビト……君は、どこからやって来たんだ? ……管理者の庭というのは何か関係のある場所なのか?」
「えっ⁈ ガイアさん、知ってるんですか⁈ ……あ」
「……管理者の庭は神の住まいのことですな。王都の教会に保管されている歴史書に、確かその言葉の記載があったはずです。かなり古い本のうえ、言葉自体が支配者を連想させ神のイメージに合わないと、あまり広まらなかったのですが……」
現実逃避していた頭に、ガイアさんから予期せぬワードが飛び込んできて、思わずぼろが出た……。
ライリー様の説明を聞き、眉間のしわをさらに深くするガイアさん。怖っ!
「昨日水汲み場の帰りに、ヒビトがつぶやいていたのが聞こえたんだ。……まさか、そこから来たというのか?」
「ヒビトって……もしかして神様⁈」
「ち、違う違う! 俺はあの人たちと違って、ただの一般人だから!」
「「神に会われたことがあるのですね⁈」」
「あぁ~、しくった……」
ぼろどころか、すごい勢いでちぎれていく俺の設定。ハモった聖職者2人からの、早く説明しろとの圧がすごい。
……ガイアさんとポッチも聞きたそうにしている。
世話になったこの2人には……もう嘘をつきたくないな……。
話したところで何か罰が下るわけではなく、ただ、この世界で生きづらくなるだけだと神様は言っていた……。
「俺は……この15年間、ここではない別の世界で暮らしていました……」
ついさっきバーグ広場で想像していた別れの時が、すぐ間近に迫っているのを感じながら……俺はこの世界に転移することになったいきさつを4人に説明した。
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