第5話

「おや、この辺は……」


ある日の事、同級生の家の前を通りかかった。その家は当時のままの佇まいだった。


その家には短い髪の可愛い女の子が住んでいて、何かにつけて嬉しそうにコロコロと笑う子だった。


あの頃、中学校には週番という係があって、偶然、私は彼女と組む事があった。


背の低い子だったので、跳び上がっても、黒板の上まで届かない。私がさっと拭くと、とても喜んでくれたのを、今でもはっきり覚えてる。


それだけの事なのに、何故か心に残っている。


中学三年になってクラスは離れたが、いつもあの子の姿を目で追っていた。卒業間近の3学期、就職組に入っていると聞いて胸が痛んだ。成績は良いのに、経済的な事情からだろうか。


今思えば、それが私の初恋だったのかも。

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