【014】交渉の結末と、対等な仲間
話をまとめよう。
まず、アルスの俺への信頼は絶対だ。
過大評価な気がして日々期待に応えるのに苦労するが、その気になれば父にできないことはないと思っているらしく、視力がどうのこうのなんて最初から気にもなっていないに違いない。
もちろん俺にだってできない事は多く存在するが、子供の親への信頼なんていうものはそういうものであるから、いまはそういう時期だと思っておく。
そして次に、アルスの世界には対等以上の二人の家族と、言う事を従順に聞く一匹のペットしかいないということである。
ようするに、新たに現れた対等に付き合えそうな人間に対し、喜びを隠せないのである。
まあ、簡単に言えばこの大男を友達認定したということだ。
「はいっ! さっそくですが、僕と友達になりましょう! お名前はなんというのですか?」
「……ガイウスだ」
「ガイウスさん、よろしくお願いします!」
「…………。…………。こんな使い物にならなくなった戦士ごときに、殊勝な態度だな。ずいぶんと変わったガキだ。…………だが、嫌いじゃねぇ」
さっそく友達になってしまったらしい。
これにはアルスを試したであろうセバス氏も苦笑いを隠せないらしく、これから奴隷契約をするというのに、さてどうしたものかと思案してしまっている。
そりゃあ友達と奴隷契約なんて結べないからね。
仕方がないといえば仕方がない。
ああ、なんか息子がすみません。
いろいろぶっ飛んでいるんです、この子。
「まさか、アルス様の器を計ったはずのわたくしめが、あなた様に自らの器を試される展開になろうとは思いもよりませんでした。……このセバス、感服でございます。そして、試すような真似をしてしまい申し訳ございませんでした」
「くくくっ、ちがいない。セバスさんよ、こりゃあんたの負けだ」
「全く、その通りですな。いや、面目ない」
おそらくガイウスと呼ばれた戦士は元冒険者なのだろう。
セバスさんは冒険者の基準に収めれば、なんて言っていたが、戦いのことが分からぬ彼にそもそも戦士の強さのなんたるかが分かるはずもない。
故に、彼がS級か、もしくはA級の元冒険者であることを知っていてそう交渉したに違いない。
そして彼とは奴隷になる際になんらかの交渉をし、こうして相応しい者に紹介する機会を待っていたという事になるのだろう。
予想ではあるが、筋書きとしてはそんなところか。
「あの、ガイウスさんを引き取るには、このお金で足りますか? いま、これしかもってなくて……」
ああ、確かに。
A級上位の戦士を買える程の金額ではないな。
俺とエルザもそもそも、ここまでの高品質な奴隷を用意してもらえるとは思っていなかったから、余分に渡していたとはいえそれでも足りなくなってしまった。
これはこちらの計算ミスだ。
だが、それも恐らく大丈夫だろう。
「とんでもございません、アルス様。お客様を無粋に試したばかりか、このような形で商人としても敗北してしまったのです。お代などいまある物で十分でございます。それに、彼との約束もありますしね。友誼を結んだお二人に奴隷契約を押し付けるのは気が引けますが、しかし奴隷は奴隷。彼という財産がしかとアルス様の手に渡るよう、さっそく契約を結びましょうか」
と、いう訳である。
まあぶっちゃけると、視力失ったという前提であればちょうど良い取引だ。
商人として敗北したと宣ってはいるが、自分が損をしていないあたりやはり抜け目のない男である。
「ありがとうございます! でも、どんな約束したんですか?」
「ああ、簡単でございますよ。彼は奴隷になる際、わたくしめに、視力すら失った自分の力を最大限に活かせる戦場を探せとおっしゃったのでございます。いやはや、無理難題でございましたよ。目を失ってもなお戦い続けるなど、戦士というものは分からないものですね。ですが、その点今回の取引は全てを網羅しております。なにせ……」
そして、セバス氏は続けて語る。
「なにせ、呪いなどアルス様の御父上、カキュー様の手にかかればどうという事もありませんでしょう? そして、力というのは力を呼び寄せるものでございます。金と同じように。であれば、自ずと相応しい戦場も見つかることでしょう」
「……ふっ。まあ、そういうことだ。お前のオヤジのことは良く知らないが、セバスのおっさんが言うなら、その通りなんだろう」
彼らの言葉に、アルスはほえーっと、力のない溜息を零す。
「やっぱり、お父さんはすごいや」
あれ、なんかまた俺の評価上がってない?
いや、確かに父ちゃん、その呪い治せるよ?
でもね、なんでもはできないからね?
ほんと、たのむよ?
そんなこともありつつ、奴隷契約はつつがなく終わりを迎え、アルスとガイウスはその場を後にした。
当然また裏路地を通ったが、今度はみるからに屈強な戦士を控えさせているからか、絡まれることは一度もなかったようである。
ガイウスも目が見えないはずなのだが、超高位の戦士としての気配察知故か、ゴロツキ程度の動きは完全に捉え切れているらしく、隙は一切感じられない。
なるほど、これはまた、いい買い物をしたな。
「さて、帰ろうかエルザ」
「ええ、旦那様。母として、息子の成長はしかとこの目に焼き付けました。素晴らしい成果でございます。帰ったら褒めてあげなければなりません」
「ああ、そうだな」
そうして俺達もこの街をあとにし、南大陸の拠点である城に向かって転移を開始したのであった。
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