第18話 女神様 悲鳴を上げる
「では、どんどんおかずとご飯の組み合わせを楽しんで下さい。特にご飯とお味噌汁の組み合わせはお薦めですよ」
トヨちゃんはとても嬉しそうだ。後押しされた私はやる気スロットルを全開した。
「このお魚、凄く香ばしい香り。程よく乗った脂と塩味のバランスも最高だわ」
更に魚とご飯を一緒に頬張る。
「キャー。美味さ爆発。やだ、ちょっと止まらないじゃない」
私は断然お肉派だ。故に普段は魚をあまり食べない。何故普通に焼いただけに見える魚がこんなに美味しいのだろうか?
では、お薦めされたみそ汁はどうかと椀を手に取る。日本では器を手に取って食して良いと事前に学んでいた。
「はあ~。このほんわかと心が安らぐ味は何なの。永遠に飲めちゃいそうだわ。それにしても旨味が凄いわね。単にこの素材の味とは言えない複雑なお味だわ」
ガイドブックから味噌は大豆の発酵食品であり、みそ汁には魚介の出汁を入れていると学んでいた。だが実際に味わうと想像を遥かに超えている。やはり経験に勝る学びはないようだ。
ご飯を一口頂いて、更にみそ汁を一口。
「はあああ、
思わず相好を崩す。みそ汁の塩味と旨味がご飯の美味さを一段と引き立たてた。不思議と田園風景が頭に浮かぶ。これが日本食のど真ん中、日本の原風景なのだと直感した。
「それにしてもこの定食ってスタイル、実によく考えられているわね。一膳に色んな料理を並べて、様々な味を気ままに楽しむなんて、食事の概念を覆されそうだわ」
押し寄せる数多の感情に無意識で百面相をしていたようだ。その様子を二人が楽しんでいる。笑顔の二人に気づいて頬を赤らめた。
アンナの料理が気になり視線を送る。そこには有ってはならない物が存在した。
「ちょっとアンナ。何で生卵があるのよ」
「何でって食べる為ですが」
彼女はきょとんとしている。私の意図が伝わっていないのか?
「馬鹿言うんじゃないわよ。生の卵なんて食べたら病気になるでしょう」
「ああ、そう言う意味ですか」
笑顔の彼女は牛丼の肉を箸で取ると、ディップの如く解いた生卵に付けて食べた。
「ダメッ、お願いだから吐き出して」
「ふふふっ、そんな勿体ない。とってもおいしいんですよ」
更にアンナは解いた生卵をほかほかで美味しそうな牛丼の上にかけてしまった。
「キャー。何をするの」
「驚かせてごめんなさい。実は日本の卵は飛び切り新鮮なので生で食べても平気なんです。それに日本人はこうやって牛丼に生卵をかけて食すのが大好きなんですよ」
彼女はもりもりと牛丼を頬張る。私は目前の出来事が信じられず呆然としていた。
「はあああ。このトロっとした触感と黄身の濃厚な味わいが堪りません。牛丼のつゆと相まって最高のご馳走です」
うっとりとした表情で彼女は感想を述べる。更にトヨちゃんが付け加えた。
「牛丼にかけるだけでなく白飯にもかけますよ。寧ろそちらの方が一般的です。その時は醤油や専用のたれを加えます。最近はちょっとしたブームもあって卵かけごはんの専門店までありますね」
日本人の食への情熱恐るべし。日本食の凄さを垣間見た気分だった。
いつもなら朝からガッツリ食べるが追加注文はしなかった。定食は味でも満腹感でも私を満足させた。
日本で最初の食事は予定外だったが素晴らしかった。これからが益々楽しみだ。
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